Summer transfer window(夏の移籍市場) その4
バルサのレジェンドは部屋に入って来るなり、いきなり俺達と熱い抱擁を交わす。
あらやだ、ちょっといい香り。グアルディオルさん、どんな香水使っているの?
それから、一気にスペイン語で捲し立てるグアルディオルさん。
あんましよくわからんのだが、言葉の端々に、「素晴らしい」とか、「最大限の評価をする」とか、「一緒に戦って行こう」だの、耳触りの良い言葉だけはどうにか聞き取れた。
一通り、グアルディオルさんのお話を聞き終わった後、司から、「ちなみにシティーさんはどのような条件でオファーをしてくれたのですか?」と英語で質問。
すると、ニッコリとスマイルのグアルディオル監督。そしてまた、スペイン語でべらべらと捲し立てる。
うーん……なんか、話逸らしてねーか?おい。
「そういや、さっき、オファーくれたチームの中にシティーさんの名前が無かったですね?あれって、グアルディオルさんが来てたから言わなかったの?」と俺。
「いやー、あのー、実はー」となんかごにょごにょと言葉を濁す津久谷さん。もうそう言うのいいからさ、さっさと言ってよ。大体想像つくから。
すると、なにかよからぬ空気を察知したのかグアルディオルさん、再び俺達と熱い抱擁を交わすと何やら懐から紙とペンを出して来て、ここにサインしろと……
「ちょっと待った、ちょっと待ったー」と途端に目の色を変える津久谷さん。
大丈夫ですよ。言うても俺も司もこう見えて結構社会人生活長いから(前の世界からのを換算すると)、そんな訳の分かん契約書にいきなりサインなんかしませんって。
「んで、どういう要件で来たの?この人」とグアルディオル監督を指さしながら、ペラ一枚の契約書をひらひらとかざして司。
まあ、なんとなく、空気で察しれたんですけれど……
「ええ、実は、シティーさん、鳴瀬さん達の情報が移籍マーケットに出る前に今年度の予算全部使い切っちゃって、『冬の移籍まで待ってもらえないか』って言われちゃってるんですよー」と困った顔の津久谷さん。
「ああー」と俺達。
「それにほら、グアルティオルさん、まだ、人事権持ってないので、好き勝手に選手をスカウトできないんですよねー」とハンカチで汗をふきふき。
うん、知ってる知ってる。先週、マクレクター・シティー・ユース史上最高傑作と言われていた、ジェームス・サンチョ君がドルトムントに強奪されちゃったもんね。なんかお金が無いって理由で……
今シーズンのプレミアリーグ制覇は確かに素晴らしかったですけれど、CLでのリバポ相手のあの敗戦もちょっといただけなかったですし、そのお金を取り戻すつもりで組んだアジアツアーも、「何でリーグ制覇したのにわざわざ夏場に暑いアジアでツアーやらなきゃいけないんだ」ってオーナーとひと悶着あったんですよね。
まあ、サッカー雑誌の記事で見ただけなんですけれどね。一応これでも、いろいろ勉強はしてるんですよ……
そもそも、フロントとグアルディオルさんが全然一枚岩じゃないって、日本でも記事になってますよ。シティーさん伝統のお家騒動、只今絶賛勃発中だとかなんとか……




