深夜3時のハチスタ
giftでの司の演説が終わり、お客の銘々が帰路に着くころ、なぜだか俺たちは、ホームスタジアムの八王子フットボールパークスタジアム、通称「ハチスタ」に来ていた。
司は家に帰る前にちょっと酔い覚ましをしたかったみたいだ。
もちろん誰もいない深夜のスタジアムには厳重に鍵がかかっているのだがその鍵を持っている当の本人が忍び込むのだから、全責任は司が取ってくれるのだろう。
いやだぜ、コーチ初日に懲戒処分とか、恥ずかしい。
俺は恐る恐る周囲を見渡しながらスタジアムの中に入る。
半日前にここで熱戦が繰り広げられていたなんて嘘のようにひっそりと静まり返っている。
膝をついてピッチの芝生を触ると、しっとりと夜露に濡れていた。芝生から立ち上る若草のいい匂いがほのかに漂ってくる。
俺は思わずピッチの上で大の字に寝転んでしまった。見上げる夜空は満点の星空だ。東京とはいえ、ここ八王子辺りまで来ると、驚くほど美しい星空を目にすることが出来る。
気が付くと司も俺の横で大の字になって夜空を見上げていた。
「お疲れ様、神児」
なんか、今日初めて司からのねぎらいの言葉を聞いたような気がした。
「ごめんな、司。俺、お前が望むようなフットボーラーには結局成れなかったよ」
俺は親友に詫びの言葉を入れる。
「何言ってんだよ、バーカ」
「だって、約束したじゃんかよ、お前がサッカーをあきらめた日……」
「…………そうだな」
「おまえの分まで頑張って、俺、日の丸を背負えるような選手になるって」
「若かったなー、お前」
そう言うと司はケラケラと笑った。
「何言ってんだよ、今だって十分若いよ」
俺はちょっとムッとして言い返す。
「でも、もう、26じゃねーか。知ってるか、Jリーガーの引退年齢の平均って」司が言った。
うん、知ってる。以前レポートで見て驚いた記憶がある。
「ああ、25歳だ。だから俺は平均よりも頑張ったってことだよな」
「そうだ、神児、お前は立派だよ。俺なんかそのスタートラインにすら立てなかったんだから」
「でもな、司、それでもお前は俺がもっとも尊敬するフットボーラーだったよ」
「何言ってんだよ、神児、お世辞言ったって給料あがんねーぞ」
そう言うと、俺たちはまた、ケラケラと笑い始めた。
誰もいない深夜のハチスタ。
でも、もしかしたらその時、フットボールの神様が俺たちの戯言を聞いていたのかもしれない。
その昔、ある一人のフットボーラーが言った。
フットボールの神様は、気まぐれで、傲慢で、それでいて、誰よりもロマンチストなんだってさ。
作者の相沢です。「フットボールのギフト」読んで下さりありがとうございます。
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