はじめてのアウェー（対新潟戦） その８
新潟の自軍にはＧＫとＣＢが１人。
一英は無人の野を進むがごとく、新潟ゴールに向かって一直線。そして、俺も一英の後に続く。
阿鼻叫喚の新潟ビックスワンスタジアム。
アウェイでの罵声も慣れれば、これはこれで心地いい。脳みそからアドレナリンがどくどくと溢れて来るのを感じる。
そして一英はペナルティーエリア内に侵入する。
待ち構えていたＧＫとＣＢは最善の策として、一英のシュートコースを限定する。
だが、大丈夫。ちゃんと一英がニアに走り込んでＧＫとＣＢを引き付けてくれれば、後はフリーで走り込んで来た俺ががらっがらのゴールに流し込むという簡単なお仕事です。
さあ、一英ちゃん、練習で散々やったよね。
あとは、尊敬する先輩にバックヒールで戻せばいいだけだよ。
しかも念入りに俺は一英に聞こえるように「後ろ、後ろ、後ろー！！」とさっきから何度も叫んでる。
鳴瀬神児君、念願のプロ入り初ゴール待った無し！！
だが一英は俺の思惑とは逆に、ニアには行かず、ＧＫがいるゴール中央に向かって進路を取った。
あれれー、事前に打ち合わせしてたのとちがうぞー？
するとなんという事でしょう、年下のクソ生意気な後輩は、ＣＢやＧＫがいるのにもかかわらず強引にシュートを打ちやがったのです。
しかも、変な力が入ったのかコースも甘々、てめー、何してくれちゃってんだよ！！
案の定、キーパーに弾かれる一英のシュート。しかもそんなに惜しいって感じでもない。
だが、そこはそこ、３年連続得点王の上久保さんがとしっかりファーに詰めていた。
バモス東京、ごっつぁんゴールおめでとうございます。
しかしそこは新潟のＧＫの最後の意地なのか、執念の横っ飛びで上久保さんの前に体を投げ出すと上久保さんの蹴ったボールはキーパーの体に当たり大きく跳ね返る。
新潟サポーターの悲鳴と安堵のため息が混ざり合うビックスワン。
するとなんという事でしょう、その跳ね返ったボールがゴール前に詰めていた俺に向かってふわふわと飛んでくるではありませんか。
やっぱ、フットボールの神様は見ている所はちゃんと見ててくれるのです。
飛んでくる角度もスピードもちょうど打ち頃。うほっ、いいボール。
俺はこれでもかと左足を大きく振り上げてから、伝家の宝刀を抜いた。
鳴瀬神児、新潟ゴール前１５mからスカッド発射！！
だが、俺の左足インステップから繰り出されたはずのスカッドは、無駄に力が入ったせいか思いのほかアウトに掛かってしまい、ゴールの枠からグングンと逸れていく。
ヤベッ、ちょっと力入れすぎたか？と思った次の瞬間、そのゴールから外れたボールはシュートを避けたはずの一英の右臀部に直撃すると「ギャー！！」という断末魔の叫び共に、美しい弧を描きながら新潟ゴールに吸い込まれていった。
やっぱりフットボールの神様は見てくれているんだなと、ほっと胸を撫で下ろす俺。
Ｊ１第８節、システーネス新潟vsＳＣ東京は後半８１分、武窪一英のゴールにより０－３となる。
はぁぁぁぁ！
どういうこっちゃ！！
どっからどう見ても俺のゴールだろうがよぉぉぉお！！
運営、ちょっと今から話をしようか、屋上行こうぜ。
