はじめてのアウェー(対新潟戦) その5
親友のゴールセレブレーションを心ゆくまで堪能したいのは山々だが、そこはこれ。プロフェッショナルなフットボーラーたるもの常に冷静沈着で先を見越してなければならないのだ。
俺は司にお祝いするのもそこそこに、さっさと自軍ベンチに行って監督の指示を仰ぐ。
「おれ、もうちょっと攻め上がってもいいっすかねー?」
だって、ほら、司だけ点取るってのも癪じゃん。
すると篠川監督、「後半になるまでこのまんま」
うーん、いけず~。
不承不承と言った感じで、新潟のキックオフで試合は再開する。
するとなんという事でしょう。翔太を1枚で止められないと気付くや否や、新潟は5バックに変更する。
えーっと、それって、FW1枚削るって事ですか……?
とにかく目下の課題は守備の安定が急務のシステーネス新潟。
前半は0-1で凌いで後半勝負をかけるという……まぁ、セオリー通りって言えばセオリー通りの作戦。でも、面白いか?って言えば、それじゃあまりにも捻りがない。
もっとも、さっきの翔太のドリブルを見てしまっては、おいそれと反撃に出たりしたら手痛い火傷を負ってしまうのも目に見えてる。
そう考えると、間違いではないよね。
というわけで、アンチフットボーに磨きがかかるシステーネス新潟。ニ万を超える観客達はこの判断を一体どう思うのだろう。まあ、知らんけど……
その後、新潟は、時折、大和さんを中心としたカウンターを仕掛けるも、これと言った成果があげられぬまま……
一方の俺達も、そこまでガッツリと守られてしまってはなかなか攻め切るという事も出来ず、完璧に殻に閉じこもってしまった相手には司の偽サイドバックもさほど効果を見せられず、そのまま静かに1-0で前半を折り返すのであった。
ハーフタイムの控室では、後半の作戦を篠川監督が説明する。
中盤の梶本さんに代わって最近売り出し中の橋下さんに交代。
翔太は4日後に磐田戦があるので後半10分を目途に上久保さんと交代予定。
俺と司と一英は今のところ交代の予定は無いから、それを考えてプレーするように。
後半、さすがに新潟もどこかのタイミングで攻めて来るから、その時の注意は怠らないように。
特にDF陣には時折、裏抜けを狙っている大和選手のケアをしっかりと。という事だった。
後半、MFの梶本さんに代わって入る橋下健也選手。仲間内からはケンティーと呼ばれているなかなかのナイスガイだ。
U-23の時、何度か一緒にプレーしたことがあったけど、去年のトゥーロン国際の時、ACLと被ってしまって、そちらの方を優先したら、結局リオには選出されなかったという経緯がある。
もっとも、俺も東京の選手でACLとトゥーロンだったら、ACLの方を選ぶけどね。フットボールって時としてなかなか難しい選択を強いられることがある。
ともかく、昨シーズンからSC東京の中盤の大黒柱に成長したケンティー。守って良し、攻めて良しのトータルフットボーラーだ。
「神児、よろしくな」と声を掛けてくれるケンティー。練習でもケンティーとのコンビプレーはなかなか相性がいい。一英はあんまし当てになんないから、ここはひとつケンティーのアシストに期待してプロ入り初得点を狙って見てもいいんじゃないでしょうか?
と、その前に「カズー」と一英を呼び寄せる。
「なんだよ、神児」と相変わらず俺には敬語を使う気持ちは微塵も感じられない一英。
「前半の翔太のプレー見てたよな?」と俺。
「はぁ……すごかったっすね翔太君」
……あれ、翔太には「君付け」なんだ。いろいろと気になることはあるのだが、いちいち気にしてたら時間も足らんしこっちの気ももたない。俺は要点だけさっさと一英に伝える。
「前半の翔太が司にやったようなパス、ああいうのを俺にもよこせ」と単刀直入にオーダー。
あからさまに蔑んだ目で俺を見る一英。おや、ちょっと訳を聞こうじゃないか?
「はぁ……」と全く乗りきの無い返事。
「なんか言いたいことがあるのか?」
「だったら、司さんみたいに相手のマークを引き付けてからパスくださいよ」と至極まっとうな要求をされる東京の粉砕機 (ゴリゴリ)。
「……わかった、善処する」
そんな感じで後半戦に突入だよ!!
そういや、司には、「さん」付けなんだな、お前。




