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フットボールのギフト ~底辺Jリーガーの俺がフットボールの神様からもらったご褒美とは~  作者: 相沢孝
第五章 魅惑のツール・ド・おきなわ(ロードバイク)編

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私を沖縄に連れて行って その18

 挿絵(By みてみん)


 羽地ダムに続く登りの途中、大川の集落を抜けたその時だった。


 緩いカーブを抜けたその先に、白と黒の見慣れた車体が……


 すわっ、遂に中岡さん達を捕まえたか……って、アレ?1台しかいねーなー……


 よく見ると、前にいるのは拓郎だけで、肝心の中岡さんがどこにも居ない……


 ったく、何やってんだよ、しかも完璧に足が止まっちゃってんじゃねーかよ。


 浜に打ち上げられた鯨ならぬ鯱になった拓郎。酸欠なのか脱水症状なのか分からんが口をパクパク開いてなんだか今にも死にそうだ。


 俺はとりあえず拓郎の横に付くと声を掛ける。


「……なにやってんだよ、お前?」


「ムリ……もう、ムリなのね……すっからかんなのね」と拓郎。


 おいおいおいおい、頭から湯気が出てるぞ、大丈夫か?


 どうやらこのアホたれは、久志のスプリントポイントで体力を全部使い果たしてしまい、羽地の登りでガス欠になったのだ。はぁ……何やってんだか。


 すると、「拓郎君、これ飲んで」と自らのボトルを拓郎に差し出す新浜さん。やっさしー。


 ペダルを漕ぐのも忘れて新浜さんから渡されたボトルをゴキュゴキュ飲む拓郎。


 おいおいおい、ちゃんと足回さないとすっこけるぞ。ったく……


 あわよくば回収して、ゴール前まで運んでやろうかとおもったのだが……ダメだ、こりゃ。


 まぁ、それでも、こいつに煽られて一緒にアタックを仕掛けた中岡さんの体力も相当削られているはずだ。


 そう考えるとそれなりの仕事はしてくれたってとこかな。まあ、ご苦労さん。


 すると、「石巻さん、先を急ぎましょう」と司。


 どうやら司はあっさり拓郎を切り捨てることに決めたようだ。昔からこういうところは容赦ないよなコイツ。


 集団全体に一瞬、躊躇ためらいの空気が流れたが、「よし、分かった」とすぐに決断を下すと、中岡さんの追撃に舵を切った石巻さん。


 そうなのだ。俺達はもう一瞬の逡巡する時間すら残されてないのだ。


「じゃあ、これ、よろしく」とすかさず飲みかけのボトルを拓郎のジャージの後ろポケットにねじ込む俺。


 ほら、飲まなくなったボトルってそこら辺に捨てるとペナルティー取られちゃうんですよ、今時のロードレースって。


 すると……じゃあ、「俺も」「俺も」「俺も」とあっという間に拓郎のポケットは飲まなくなったボトルやパワーバーやらパワージェルでパンパンになる。よかったな、拓郎。(ニッコシ)


 そうして、余分な荷物を全て拓郎に押し付け……(ゴホン)もとい託し、中岡さんの追撃態勢を整えたMJKトレイン(+1)。


「ナイスファイト」と井ノ上さん。


「ゴールで待ってる」と石巻さん。


「無理せずについてきなよ」と新浜さん。


「落車だけは気を付けてね」と高畑さん。


「タイムアウトだけにはなるなよ」と司。


「倒れたら後で埋めといてやるからな」と俺。


 俺達は拓郎に労い(?)の言葉を掛けて番越トンネルに向かう。


 ……と、その時!!


「グルペットなのね~」と拓郎の断末魔が……


「「「……ざけんなよっ!!」」」とマッハのレスポンスで皆さん。


 あらあら意外とドライなんですね。(ニッコシ)


 そうしてMKJトレイン(+1)はキング・オブ・ツール・ド・おきなわの追撃を再び始めた。


挿絵(By みてみん)



 …………4時間半前、




「1つ目のスプリント賞はゼッケン238番、明和大学、森下拓郎選手が取りました!!」


 オフィシャルバイクのスピーカーから拓郎のスプリント賞獲得の知らせが聞こえた。


「やりましたね」と新浜さん。


「まあ、あいつの見せ場はこれくらいだから」と随分な事を言う司。


「それでも、初出場でスプリント賞だなんて、やっぱ才能有りますよ、あの人」と高畑さん。


「まぁ、本人に言うと図に乗りますんで黙っておいてください」と俺。


「「「了解!!」」」とMJKの皆さん。


 集団は県道91号の本部循環線を左折して、最初のCPチェックポイントでありSPスプリントポイントでもある本部もとぶへと向かう。


 山岳賞のある与那林道までしばらくの間、海岸線走りながらの平坦区間が続く。


 オフィシャルバイクからの掲示板には先頭を走る拓郎とのタイム差が4分30秒と掲示された。


「おいおいおい、大丈夫かアイツ、ちょっと飛ばし過ぎじゃないのか?」と司。


「いや、もしかして備瀬びぜを過ぎた辺りから追い風になってるのかもしれません」と石巻さん。


 そうとなったら、俺達は、何も集団の先頭に立って拓郎を追いかける必要もなく、このまま集団の中に入ってぬくぬくと足を溜める。


 つくづくロードレースとは知略と戦略が必要とされる競技だと思う。


 先頭を逃げる拓郎をサポートするために、俺達は出来るだけ追走する集団のスピードを落とすことが求められるのだ。


 と、同時に、集団の中で絶好の位置につき虎視眈々と勝利を狙う。


 さあ、拓郎、行けるところまでいっちまいな。


 ついでに二つ目の奥のスプリント賞もゲットしたら、じいちゃんばあちゃんたちから自転車代少しは多めにもらえるんじゃないのか?


 400台を超える大集団は本部のCPを過ぎると、朝日を浴びながら次のCPの今帰仁なきじんへ向う。

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[一言] >まぁ、それでも、拓郎に煽られて一緒にアタックを仕掛けた中岡さんの体力も相当削られているはずだ。 カルセ○「ナカオカ、君の気持ちは私が一番良くわかる」
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