オリンピック 後日譚 その3
司の運転する車は甲州街道から八王子バイパスに入る。
「うーん……この時間、結構混んでいるんだよなー」と司。
「なんか……すまんな」と俺。
「いいよ、気にすんな」と司。そして……「お前、今回の結果どう思う?」と。
「結果って……日本のか」
「いや、違う。全部のだ」
「…………一緒だ」
「……ああ、全て一緒だな」
そうなのだ。今回のリオデジャネイロオリンピックの結果は俺たちが知っている前の世界と全て同じ結果になった。そう、親善試合の結果を除いでは……
「オリンピック以外でも……そうだよな」と恐る恐る俺。
「ああ、トゥーロン国際も、リオデジャネイロの予選のAFC U-23も、ついでに去年のU-20ワールドカップも全部だ。細かなディティールが多少変わるが最終的な結果は一緒だ」
「……でも、天皇杯は違ったぞ」と俺。
そうなのである。前の世界では2015年に明和大学が……いや大学生のチームがベスト4残ったなんてニュースは聞いたことが無かった。
「ああ、確か、ビクトリーズの時の高円宮杯U-18も違ったな」と司。
「うーん……」と俺は腕を組んで思案中。
「うーん……」と司もハンドルを握りながら思案中。おいおい、安全運転には気を付けてくれよ。
「……あっ、もしかして」
「もしかして、何だ!!」と司。
「おいおいおい、こっち見んなこっち。前向け、前」
「あっ、わりぃー」とハンドルをギュッと握りしめ前を向く司。
「もしかして、JFAとFIFAで神様の管轄が違うとか……」
「んなわきゃ、あるかよ……いや」そう言うと、はたと手を口に当て考え直す司。
あの、ホントどうでもいいんでちゃんと前向いて運転してもらっていいですか。
……5分後、俺達は病院にちょっと早めに着き過ぎてしまったので、近くにある31(サーティーワン)で時間を潰す。
すいませんね。どうも。
司のおごりという事で、俺は『ベリーベリーストロベリー』と『ラムレーズン』。
フレッシュなストロベリーの香りとラム酒の濃厚な香りが溜まりません。
ちなみに司はというと……「抹茶」と「大納言小豆」ってお前……渋いね、どうも。
すると、「なにジロジロ見てるんだよ」と司。
「いや、『大納言小豆』頼む人初めて見た」と正直に俺。
「はぁー!!『大納言小豆』うめぇだろうがよ!!」と司。
ここは司に奢ってもらっているので、あんまり事を荒立てなくないのだが……俺は正直に事実だけを伝える。
「あのさ、大納言小豆ってサーティーワンのレギュラーフレーバーの中で断トツの最下位よ」と俺。
「うそっ!!」と目を真ん丸にする司。
「まあ、でも、『大納言小豆』しか食べないコアなファンがいるんで、人気なくてもずーっとレギュラーなんだって、この前テレビでサーティーワンの人が言ってた」
「はー……まあ、なるほどな。確かにサーティーワンに来ると俺、これしか頼まんから」
そんなことをしゃべりながら駐車場の車の中でレギュラーダブルのアイスクリームを食べる男二人。
なんだかぞっとしないね。
「ってか、お前がさっき言った、FIFAとJFAで神様の管轄が違うってのは妙にしっくりくるなー」と司。
「あらまー、そうっすか?」俺はそれよりもアイスを食べることに夢中だ。だって早く舐めないと垂れてきちゃうじゃないですか。ちなみにコレ、コーンですから、二人とも。
「ってか、そういや、リオの予選はACLの管轄か……予選の時は優勝したから気にしなかったけど……これも史実通りなんだよな」そういってため息をつく司。
おいおい、アイス食べているときくらいハッピーな気持ちでいようぜ、司。
すると……「なぁ神児、お前これからどうする?」と。
「どうするも何も、これから検査受けますよ、左足の……」
俺はそう言って、今日MRI検査を受ける予定の左の太ももをポンポンと叩く。まあ、ホント、大事に至らないでよかった。
「いや、そういうんじゃなくて、これからの進路だよ。というか目標な」
「ああ、そういう事ね。そりゃー、ワールドカップっすよ。俺の目標は変わらないって」
そう言うと、ラムレーズンをもぐもぐ。
「それだけか?」と司。
「それだけって……どういう意味だよ」と俺。
「おそらくだけど、俺達はこのまま、来年には特別指定でプロになって代表入りを目指すことになる」
「まあ、既に、どっかの記事では、俺達A代表に招集してもいいんじゃないの?なんてことも書かれてるな」
「ああ、結果はアレだが、お前のブラジル戦での活躍はあれで代表選考にも一石投じたようなもんだ。なんてったって、年代別とはいえ、ブラジルからハットトリックをした選手をそのままにしていていいのか……ってな」
「はい、どーも恐縮です」俺はそういうと、コーンをボリボリ食べる。ああ、もう、無くなっちゃった。
「俺が言いたいのは神児。おそらく俺達は近々A代表に呼ばれることになる。まあ、そこで定着するかどうかはわからんがな……俺達の事見たいっていうA代表のスタッフは結構いるって聞いてる。それに、お前みたいな選手は、ハリー監督のお気に入りだからな」
確かに、デュエル原理主義のハリー・ポジッチ監督には受けがいいと以前、手師森監督から聞いたことがある。
それに、西島監督から「鳴瀬、怪我が治ったらそろそろ真剣に特別指定の件考えておけ」と言われているのだ。
おそらく、相当のクラブから西島監督のもとにオファーが届いているのだろう。
「まあ、何はともあれ、ブラジルからのハットトリックは相当インパクトあったよ」と司。
「……そうか?たまたまだろ、アレ」
実際3点取れたと言っても、そのうちの1点は当たりそこないの跳ね返りだし、残りの2点もカルセロさんの自滅みたいなもんだ。
通常のコンディションだったら1点取れたかどうかだって怪しい。
「誰もそこまでは見ないってのが実際の所だ。それよりも、ブラジルからのハットトリックって言葉の方がインパクトあるだろ」
「まあ、確かにな……で、何の話よ」と俺。
すると司はハンドルをギュッと握りしめ、前をしっかりと見据えながら「なあ、神児。俺はワールドカップに行くぞ」と……
「ああ」
「6年後のカタールなんて悠長なことは言ってられない。再来年のロシアに行くぞ」
「ああ」
「そしてそこで、今度こそ俺達は歴史を変えるぞ」
「ああ」
「2018年のロシアワールドカップ 決勝トーナメント1回戦で、俺達はベルギーに勝つ」
「ああ」
「なあ、神児、俺達が前の世界時味わった『ロストフの悲劇』を歓喜に変えるんだよ」
「ああ」
「ワールドカップベスト8の扉を俺達が開けるんだ神児……」
「ああ、分かったよ、司」
天才の心に火が付いた。
作者の相沢です。「フットボールのギフト」読んで下さりありがとうございます。
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