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サッカーオリンピック日本代表 その2

 オリンピック代表のメンバーに優斗の名前が無い。


 俺や司の名前が出た瞬間、部室の中は「よしっ!」とか「ヤッタ!」という声が上がったが、手師森監督が選考メンバー全員の名前を読み終えた途端、誰もがみんな押し黙ってしまったのだ。


 それは、明和のサッカー部で同じ釜の飯を食う俺たち四人、俺、司、拓郎、優斗の全員が揃って選出されることが、明和大学蹴球部みんなの願いでもあったからだ。


「優斗……その……」


 誰も優斗に声を掛けないのを見かねて声を掛けた。だが……


「神児君、……まだや」とまっすぐにPCのモニターを見つめながら優斗は言った。


 PCの画面を見ると手師森監督のコメントがまだ続いている。



「……この18人、集中開催であるリオデジャネイロの大会で、U-23世代の強みとして発揮されたチームとしてのまとまりを、再びオリンピックの舞台で発揮できるだろうなという調和のとれたメンバー構成になったのかなと思います。


 そして、ここにオーバーエイジの三人加えましたけど、このチャンスをロシアに繋げられるメンバーに……ということで期待していますし、


 戦術に関しても、柔軟性、割り切り、そこを十二分に発揮できるメンバー構成だなと……


 そして、それプラス、世界の舞台で示さなければいけないメリハリと言う部分……


 それもうまくコントロールできるようなメンバー構成にしたつもりであります。


 えー続いて、バックアッパー。


 キーパー、杉山。


 ディフェンダー、中山。


 ミッドフィルダー、野田。


 フォワード、田中、そして……稲森」


 その時、「……ヨシッ!」と優斗の声が聞こえた……


「……優斗」と俺。


 すると……「なぁ、神児君、浪速のガウショは諦めが悪いの知っとったか」とニヤリ……


 PCの画面には尚も手師森監督のコメントが続いている。


「……この5人に関しては バックアップに回るけど……と言う話を昨日直接電話で伝えました。


 僕自身この発表をもって、彼らに分かってもらうことは不本意だなと、


 自分の口から彼らの役割……


 そしてこの役割に回った時の彼らの気持ちを直接知りたかった。


 そして、五人とも快くバックアップでも行きたいと、


 チームに何かアクシデントがあった時には、力になれればと快くみんな快諾してくれました。


 そこにまた僕自身も勇気づけられたし……


 彼らのようなメンタリティーがより僕らを逞しくしてくれるだろうなと思っています……」


 

 手師森監督が終わり、俺達はグラウンドで練習を始めた。



「……ってか、なんだよ、優斗。昨日、監督から連絡があったのかよ」そう言いながら優斗にパスを出す俺。


「ああ、ごめんな、神児君。監督にはこのことはメンバー発表が終わるまで他のメンバーに言うなって言われてたんや」と俺のパスを受けながら優斗。


「うん、僕たち3人名前呼ばれて、優斗君だけ呼ばれなかったんでどういう顔していいのか分からなかったのね」優斗のパスを受けながら拓郎。


「いちいち、そんなこと気にしてる暇あったら、他にもっと気を遣うところあるやろ!!」とごもっともな優斗。


「まあ、とりあえず、この4人と……そうそう、室田さんもそろって、リオデジャネイロに行くことはできたんだが……」と拓郎のパスを受けながら複雑そうな顔の司。


 一瞬、俺の脳裏に、「一緒にオリンピックに行こう!」と一年前、八王子駅前の喫茶店で司が優斗に言った時のことが浮かんできた。


 確かにオリンピックに行くことはできたのだが……その、あと一歩の所で、届かなかったことに複雑な思いを滲ませる司。


 すると、何かを決心したかのような顔になると、


「なあ、神児、優斗、拓郎……この後、俺んち寄ってくれないか?ここじゃちょっと話せない話があるんだが」と……


 ……二時間後、


 今日はおじさんもおばさんもお仕事で誰もいない司の家。


 こういう状況もなかなか新鮮だな。


 司はキッチンでコーヒーを入れてくれている。


「ええねんでー、司君、そんなん気ー使わんでも」と優斗。


「俺が飲みたいから入れてるだけだ。優斗、クリーム入れるか?」と司。


「ああ、悪いなー、砂糖、クリームのアリアリで」とそうは言いつつも自分のオーダーをしっかり通してくる優斗。


「拓郎は?」


「悪いのねー、僕もアリアリのグランデ(おおもり)で」


「あいよ!」と司。


 こいつは飲み物も大盛グランデじゃねーと満足しないんか……



 そんなわけで、広いリビングに肩を寄せ合う俺達。


 今日はもう7月ですよ。空調効いているとはいえ、ちょっと暑苦しいんですけど……


「で、なんや、司君、グランドでは話せないここだけの話って」と声を潜めるように優斗。


「うん、そうなのね。ってか、僕も一緒にいていいの?」と拓郎。


 すると、コーヒーを一口飲んで司。


「いいか、お前ら。今から俺の言うことは、ここにいる四人以外他言無用だ。たとえ西島監督や手師森監督にもだ」と念には念を押してくる司。


 あらやだ、上司、おっかない。


 八王子SCの時のパワハラ上司の時のお顔ですよ、それって。ちょっと、ドキドキひやひやの俺。


 おいっ、お前、一体これから何言うつもりなんだよ……

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