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フットボーラー補完計画 序 その3

 …………10日後、


「司君、拓郎の頭に届いたでー」


 大声でそう言いながら、ドヤ顔で部室に飛び込んで来た優斗。


 うん、おつかれちゃん。ここ10日間、司の体幹強化の特訓に付き合わされた優斗と俺。


 ホットヨガからバランスボール、そしてロードバイクでの和田峠のタイムアタック。


 さらには俺達の偉大な先輩、現日本代表の左サイドバックの永友優弥選手のベストセラー『永友優弥の体幹トレーニング20』を参考にしながら徹底的に鍛え上げた。


 ってか、10日位でも結構効果があるんだな。コレ。


 調子に乗ってこの前出した第2弾、『ヨガ友優弥の体幹トレーニング20』も買っちゃおうかな。


 前々からの約束で、タッチラインから拓郎の頭にボールが届いたら必殺シュートを教えてやると言ってたので、優斗は喜び勇んで部室に飛び込んできたのだ。


 それに拓郎に付き合ってもらうために毎日ファミチキを奢ってやっている優斗の財布もそろそろ限界だったのだろう。


 とにかく、テンションクライマックスで部室にやって来た優斗。


 そして一方の司はというと、相変わらず小難しい顔をしてノートパソコンと戦術版をにらめっこしている。


 おいおい、優斗との約束、まさか忘れてたんじゃないよな。


 すると、司は、「思ったよりも早かったな」そういってカレンダーを見てから立ち上がった。


 春一番が吹き抜ける明和大学蹴球部グラウンド。


 あたりにはついに優斗に授ける必殺のシュートが見れるのだとギャラリー達が集まって来た。


「おいおいおい」、「押すな、押すな」と、周りにいた運動部の人達。


 お前、これで、しょっぱいシュートでも見せようもんなら面目丸つぶれよ。大丈夫か司?


 キーパーは新人戦で結果を残し、最近メキメキと頭角を現してきた順平。


 うまくいったら今シーズン、トップチームのベンチ入りも見えてきたぞ。


 そしてゴール前には拓郎がいる。


 うーん……どんなシュート打つんだ?


 すると……「神児ー、ちょっと来ーい」と司直々のご指名が……マジすか。 


「お前ここに立っとけ」とポケットの角に俺を立たせると……「本気で取りに来い」と司。(ポケットとは、ニアゾーンとも呼ばれ、ハーフレーンにおける相手ゴールに近いエリアのことです。)


挿絵(By みてみん)


 マジかよ。じゃあ本気で行っちゃうぞ。ってか、この位置だと取りに行く前に司に蹴られたら終わりなんだけれどな……


「じゃあ、行くぞー」と司。


 なるほどこの立ち位置はよくあるパターンの例のアレだ。


「それでは、北里司の一本目です!!」となぜかMCをやり始めた大輔。


 ようやく司の考えた必殺シュートがお目見えする。


 司は左サイドからボールを運ぶと、ペナルティーエリアの左45度目掛けて侵入してくる。


 司お得意のデルピエーロゾーンは目と鼻の先。

 

 ってか、そもそも優斗の奴はそっから巻いて入れるシュートはそんなに得意じゃないぞ。とてもじゃないが必殺のシュートというレベルではない。


 司は右足のつま先でフッとボールを持ち出したその瞬間、目にもとまらぬ速さでボールを左右に弾く……って、エラシコかよ!!


 しまった!!と思うが既に時遅し。


 縦に抜けた司はトップスピードでポケットに侵入する。


 まさか、司の奴がここからエラシコを使ってくるなんて予想外だった。


 完璧に司に体一つ分前に入れられてしまった。


「順平ー!!」


 俺はキーパーの順平に声をかけコースを切りに行く。


 俺だってU-23日本代表の右サイドバックだ。


 そうやすやすとこいつにシュートを決めさせてやるつもりなんか毛頭ない。


 だが、司は絶妙のタッチで、ボールを俺の死角になるように奴の左足の前に持ち出す。


 よくわからんが、絶対に中になんか入れさせてやるもんか!!


 俺は体を寄せて内側のコースを完璧に消したと思った次の瞬間だった。


「バチーンッ!!」という音とともに司は渾身の力でインステップキック。


 直後、ボールはあっと言う間にゴールニア上の神コースに決まった。


 その光景にシーンと誰も声を上げることなく口をあんぐりと開けたまま。


 春一番のつむじ風がヒュルルルルーとグラウンドを通り抜けていく。


 そして……「すっげー、流石日本代表」とギャラリーの一人が口を開くと。


 それを皮切りに「おおおおおおー」と声が沸き上がった。


 くっ、くっ、くっ、くやちい。


 なんだよ、お前、何時からエラシコなんてできるようになってたんだよ。


 ってか、なんだ、あのエッグイ左足のインステップはよ!!


 まるでブラジルW杯の時のコートジボアール戦での本多さんのシュートじゃんか!!


 しかも本多さんのあれは永友さんからの横パスをトラップで持ち込んでシュートしたのに対して、司の今のは完璧に一人でフィニッシュまで持ち込んでいる。


 くやしいかなレベル的にはこちらの方が一枚上だ。


 すると司もそれを意識したのか、司も人差し指を自分に向けて本多さんの時と同じゴールパフォーマンスをした。


 神児、イラっと来た。


 とってもイラっと来た。

 

 このやろー、マジで足削ってやろうかしら……


挿絵(By みてみん)

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