ドライビング Mr.室田 その6
「ほほーう、いいところに気が付いたな神児」と室田さん。すると室田さんは城山ダムのダムカードに書かれてあるGを指さし、「これは重量式コンクリートダムって意味だぞ」と。
んっ?んっ?んっ?
「なっ、なんすか、それ」
「まあ、ダムにはいろいろ種類があってだな、Gは重力式コンクリートダム、HGは中空重力式コンクリートダム、Aはアーチ式コンクリートダム、GAは重力式アーチダム、Eはアースダム、Rはロックフィルダム、MB可動堰…………」
変な扉ならぬ変な水門を空けてしまったみたいだ。
どうやら骨の髄までフットボールだけではなく、ダムにまで魅了されているようだ。
室田さんのダム愛に溢れた説明が一通り終わると、お次のダムへ、レッツらGOー!
ちなみにダムの説明は右の耳から左の耳へと華麗にスルー。
やっぱ、教えることと伝えることって違うんだなー。
「ところで室田さん、次のダムは何処ですか?」
「ああ、聞いて驚け、次は宮ケ瀬ダムだ!!」
何を驚けばいいのかよく分からないのだが、ここで一つある疑問が浮かんだ。
「あの室田さん」
「んっ?なんだ神児」
「あのー、宮ケ瀬湖と宮ケ瀬ダムって何が違うんですか?」
すると室田さんはご自慢のフォルクスワーゲンゴルフをキュッと路肩に泊めて、俺の方をクルっと見る。
あれあれ、なんか怒らしちゃったかな?
そして室田さんは俺の手をギュッと握って、「いいぞ神児、それはとってもいい質問だ」と目を爛々と輝かせてしゃべり始めた。
俺の質問に対し、室田さんの頭の中にあるダムの知識は、ただいま絶賛緊急放流の真っ最中。
あまりにも長くよく覚えてないが、ようするにだ、ダムというのは水を堰き止めているコンクリートの水門の施設全般の事を指し、湖というのは周囲を陸地で囲まれたくぼ地に水をたたえる水域のことらしい。
ちなみに小さなものは沼というとか言わないとか……
そういうわけで、ダムの上流には、ダムによって堰き止められた人口湖が存在することになるんだってさ。
為になるね~、為になったよ~。
そんなわけで、津久井湖の周りをぐるっと回って、津久井街道から今度は国道412号線に入りしばらく走り、関という信号を右折する。すると今度は県道513号線、通称鳥屋川尻線という道を走る。
信号もほとんどない綺麗に舗装された道だ。その両脇に年代物の立派な古民家が立ち並ぶ。うーん風情がいいなー。こういう道をゆっくりドライブする機会ってなかなか無いけれど、これはこれで結構楽しい。
よしっ、今度、弥生を誘って来てみよう。
すると段々と道の傾斜がきつくなってきた。実はこの道、以前自転車で何度か来たことがある。宮ケ瀬湖に続く心臓破りの坂なのだ。
だが、普段俺が載っているロードバイクと違って、今日は室田さんが運転する新車のフォルクスワーゲンゴルフ7。スイスイのノリノリだ。
それにしても、かっこいいなー。実は前の世界でも、そして今の世界でも自分の車など持ったことが無かった俺。
いつかは自分の車を買って弥生と一緒にドライブとしゃれ込みたいものだなー。
まあ、当分は親父のプリウスなんだけれどね。
ここだけは今のところ、前の世界と何ら変わってはいない。そうしてついに宮ケ瀬湖の名物、「虹の大橋」を渡る。
うーん、絶景だー。橋の両脇が虹色にペイントされていてかわいらしい。どうやらこの橋は「かながわの橋100選」にも選ばれているらしい。あと、心霊スポットでも有名なんだってさ。こわっ。
俺達はそのまま宮ケ瀬湖の周りを一周すると、駐車場に車を止めた。
室田さんは車を降りると、「ちょっとついてこい」と言って湖に向かってどんどんと歩いていく。
おやおや、どこに行くのかな?
すると目の前には湖に降りる階段が見えてきた。
室田さんはそのままその階段を下りていく。
えーっとー、えーっとー。
「神児も来い」
室田さんにそう言われ俺も湖の岸辺に向かって降りてゆくと、何やらそこには船着き場らしきものが湖の上に浮かんでいた。
俺達は宮ケ瀬湖の湖上に立つ。
「ここって船着き場ですか?」
俺は室田さんに質問する。
「まあ、ちょっと待ってろって」
室田さんはそう言うと船着き場の突端に立つ。
「室田さん、危ないですよ」
俺は声をかけるも、「大丈夫だよ神児、なんか今、魚の姿がちょっと見えたんだよ」と室田さん。
「えっ、そうなんですか?」
俺は室田さんの言葉に誘われるように船着き場の突端に立つ。
ふーん、どれどれ?
「ほらほら、あそこらへん、あそこらへん」
室田さんが指をさすもよくわからない。
「んー、どれどれ」
俺は身を乗り出す。
すると、室田さんは「この時期の湖の水温ってかなり低くってなー」と。
「えー、そうみたいですねー」
俺はそう言いつつも、魚の影を探すのに夢中だ。
「湖におっこちると、5分もしないうちに心臓が止まるらしいぞ」
「あらあら、それはおっかないですねー」
室田さんの言葉に適当に相槌を打ちながら、相変わらず魚の影を探す。
と、その時だった…………




