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フットボールのギフト ~底辺Jリーガーの俺がフットボールの神様からもらったご褒美とは~  作者: 相沢孝
第一章 人生逆行 ジュニア編

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この夏でいちばん長い日 その2

「せめて体くらい寄せろよ、ボケ」と健斗が、


「それができないなら、ユニフォームくらい引っ張んなさいよ、グズ」と遥が、


「サイドバックが1対1抜かれてなにしたいんだよ!!ノロマ」と司が、


 監督、聞いてください!


 みんなが僕のことをイジメます!!


 俺はみんなから罵倒されてシオシオになっていると、自ら決めたシュートのボールを持って、三苫君がトコトコと戻ってきた。


 きっと、センターサークルにボールを返しに行くのだろう。


 すると三苫君は、俺の横を通り過ぎるすれ違いざまに、なんか申し訳なさそうに、ペコリと頭を下げた。


 みなさん、聞いてください!!


 三苫君は、きっと、とっても、いい子だと思います!!


 アクエリアス万歳!!


 さっ、切り替えていこう。



 今度はうちのキックオフ。


 フォワードの虎太郎はボランチの遥にボールを戻す。


 すると、遥は右サイドバックの俺に一目もくれず、左にいた司にパスを出す。


 おい、遥、ボールを渡せとは言わない、けど、せめて、見るくらいはいいだろうがよ!!


 すると、司は、左サイドバックのくせに、するすると内に切れ込んでくる。


 予想外の動きをして、一瞬、ボランチのマークが遅れた瞬間を司は見逃さなかった。


 その直後、CBの前で待ち構えている翔太の足元にボールが入る。


 虎太郎と陸はあらかじめ話し合っていたのか、左右に広がっている。


 それにつられてDFが広がると、気が付くと、CBの3番と翔太の1対1になる。


 これぞ、グアルディオラが提唱した偽の9番、ファルソ・ヌエベの真骨頂。


 顔が引き攣る敵の3番。きっとこの夏の決勝で、翔太に散々チンチンにされたのだろう……


 いやなことを思い出させちゃってごめんね。


 でも、これ、フットボールなのよね…… 


 もう一人のCBの板谷君が必死に戻ってくるも、時既に遅し。


 直後ピッチに稲妻が走ると、必殺のダブルタッチで川崎の3番を瞬殺する翔太。


 あっという間にGKと1対1になると、冷静にキーパーの逆を突きゴールにボールを流し込むと、「うおぉぉぉぉぉぉぉ」と翔太らしからぬ雄たけびを上げた。


 そういや、今日、うちのグラウンドに来てから、天然キャラを全く見せずにずーっと集中したままだった翔太。


 やる時はやる子なんです。


 すると、喜びを爆発させ、遥を見つけると、ピッチのど真ん中でハグをする。


 きっと、前のクラブではゴールを決めたときによくお互いで喜び合っていたのであろう。


 八王子SCのみんなが暖かくその光景を見守る中、一人、司だけが、人殺しの目で翔太を睨みつけていた。


 前半3分、八王子SC(with ビクトリーズ)VS川崎フリッパーズは1-1となった。


 すると、フリッパーズの皆さんは、翔太にぶち抜かれた3番のCBをヤジることも貶すことも無くみんなで集まって励まし合っている。


「無理に取りに行くことはないから」とか、


「遅らせてくれれば、俺が必ず止めてやる」とか、


「コースを限定してくれるだけで大助かりだから」とか、


 ねぇねぇ、君達、聞いた?聞いた?こういうのをチームワークっていうんだよ。


 もっとみんなで、力合わせて!!


 俺はそんなことを思いながら、その様子をうらやましそうに指を咥えて眺めていると……


「てめー、この前までフットボールで飯食ってた人間が日和った考えしてんじゃねーだろーなー」と、耳元で囁くようにパワハラ上司の声が聞こえた。(おー怖っ)


 はい、そうですね、私はこういうのを既に10年以上前に経験させていただきました。その節は本当にどうもありがとうございました。


 とうが立った26歳の元Jリーガーにはもう結果しか求められないのですね。


 分かりました。それもまた、フットボールの奥深さ、今度こそは死に物狂いで三苫君を止めさせていただきます。

 

 すると、川崎のキックオフからリスタート。


 俺のことを弱点だと思ってくれた三芳君は、タッチライン際に張り出した三苫君の足元にボールを入れる。


 早速、デュエルの時間がやってまいりました。


 でも一応俺だって、Jリーガーの端くれだった男。いかに未来の日本代表だからって、そう何回も抜かれるわけにはいかないんだよ。


 俺は司の教え通りに、ボールには目をくれず、ひたすら三苫君の目の動きだけに集中して、足を動かす。


 次の瞬間、三苫エキスプレスが発車した。速い、速い、速い、けれども、今度は、さっきよりも一瞬反応が速かった俺、エライ!!


 何とか三苫君より先に、ボールとの間に体を入れる。


 減速、減速、減速してって、三苫きゅん!!


 お前は新幹線かリニアモーターカーかっていうくらいの鬼ドリブル。それにしがみ付くように体を寄せる元Jリーガー。スピードは落とさないまでもこれ以上は加速させない。


 すると、俺の願いが通じたのか、遥がやってきた。ナイス、遥、お前はエライ!!


 2対1でなんとかボールを刈り取ろうとするが、それでも三苫君はライン際をグリグリと進みながら前進を止めない。


 と、その時、「おらぁぁー」とフォワードの虎太郎までもがやってきた。


 後ろの方で「郁《いく》パース」という声が聞こえるが、時すでに遅し。


 虎太郎が体を寄せた隙に、俺が体を入れてボールを奪い取った。


 あっぶねー、1対3でやっとかよ。と休む間もなく、今度はこっちの攻撃だ。


 見ると、翔太にボールを預けた司がまたスルスルと前の方に上がっている。


 これはアレだな、前線に詰めておかないと、後で司に詰められるパターンだ。


 俺は三苫君に勝った余韻を味わう間もなく、すぐに前線にダッシュする。


 うわー、サイドバックって疲れるー!!


 すると、今度は向こうが翔太を三人で囲む。


 翔太からボールを刈り取った板谷君が今度は前線にフィード。


 前線まで走っていた俺は、今度はDFラインまでダーッシュ!!


 ああ、目の前がくらくらする……


 すると、俺は、大変なことに気が付いた。


 …………喉が、乾いた。


 見ると、拓郎が、まるで他人事のように、三苫君からもらったアクエリアスを飲みながら交代エリアで応援している。


 俺はダッシュで交代エリアに突入すると、拓郎のアクエリアスを奪って、ついでに目が点になった拓郎をそのままピッチに送り出した。


 あー、アクエリおいしー。「頑張れータクロー!」


 俺はとりあえず、応援に集中することに決めた。


 直後、背後3mの距離から、三苫君に一気にぶち抜かれる拓郎。


 味方のピンチなのに、あれ、なんかオラ、今とってもワクワクしてるぞ。


 ピッチでは「遅らせろー」と健斗が鬼の形相で怒鳴っていた。


 うっわー、外から見てると、インテンシティー高っ!!なんかプレミアの試合見てるみたい。


 俺はそんなことを思いながら、アクエリアスを味わった。


 あーおいしー……



 --------------------⚽⚽⚽--------------------



 しばらくすると、司も交代ゾーンに帰ってきた。


「熱っつー」と言いながら、体をふらふらさせながら帰って来る司。


 暑いのではない。熱いのである。


「ヤバいって、こんな暑さで、こんなサッカーしてたら、死んじゃう死んじゃう」


 もっともピッチでは、既にクソみたいに抜かれまくっている拓郎が死んだ顔になっていた。


 あそこにだけは、入りたくねーなーと他人事のように言っている真人。

 

 次の交代選手は決まったな。


 すると、今度は、左サイドで、田中君とビクトリーズのボランチの子がバッチバチにやり合っている。


 どうやら、夏の決勝戦での因縁があるみたいだ。


「なんども、負けてられっかよー」とガツガツ削りに行くボランチ。


「何回だって抜いてやるよー」と田中君。


「だから、さっさと、パスよこせよー」と言ってる三芳君。


 そういや、三苫君も田中君も、あんまし、パス出さないねー。


 三苫君と言ったらアウトサイドのおしゃれなパスが印象強かったけれど、この頃って、まだまだ、セルフィッシュ(ひとりよがり)なゴリゴリドリブラーなんだったっけ?


 そういうことなら、おじさん、それなりの対応させてもらっちゃおうかな。ほら、一応これでもプロだったんで。


と、ここで、前半終了の長い笛。


 拓郎が、クソほど抜かれたせいなのか、それともクソみたいに暑いせいなのか分からないが、死んだ魚の目をして帰ってきた。お疲れちゃーん♪


 ホントそこに自分がいないで良かったと、安堵の声がにじみ出る。


 一方の拓郎はと言うと、交代エリアに戻ってくるなり、そのままばったりと倒れてしまった。


 誰か拓郎の口にアクエリアスぶち込んでやれー。


 さ、後半に向けて作戦会議、作戦会議。


 すると、「僕ちょっと疲れたー、後半休むー」とまさかの翔太の発言。


 前半の攻撃のほどんどを担っていた翔太が抜ける。


 さて、みんな、どうしよう、と思ったところで、


「おい、神児、後半はもっと、内に入って攻撃も組み立てろよ」と上司様からのご命令です。


「えー、じゃあ、三苫君は?」と


「ボランチと左のセンターバックでどうにかできないか?」と司。


「むりむりむりむり」とアクエリアスを補給して蘇生した拓郎。意外とお前、タフだな。

 

 すると、司がキラーンと目を光らせて、「なあ、拓郎、あいつ、パスしねーぞ」と……


「マジで!?」と今更ながらに気づいた拓郎。そりゃ、八王子SCでそれなりにしのぎを削った者同士、ドリブルしかないフォワードなら、それなりに対応ってもんがあるってもんさ。それにほら、一応、前の世界だと全国大会優勝もしているデフェンダーだし……


「でも、もしパスされたらー」となんだか煮え切らない態度の拓郎。


「そんときは全部俺のせいってことでいいよ」と太っ腹な上司、カッケーっす!!


 というわけで、作戦はこう。


 三苫君がボールを持ったら、内だけ閉めて、縦をぬかれたら、付いていくだけでオッケー。


 すると、そこには待ち構えていた左のCBの真人と健斗で挟み撃ち。


 そして、健斗が空けた穴は遥がリカバー。


 どうですか?この完璧とも思える作戦。


 水も漏らさぬ作戦とはまさにこのことだ!


 あれ、でも、なんか、ちょっと嫌なデジャビューが……


 まあ、いいや、そんな感じで後半いってみよー!!


 って、そういや、「えーっと、じゃあ、田中君の方はー?」と大輔。


「それも三苫君と一緒で、外はついていくだけで、内だけ絶対に閉めて、センターバックに迎撃させる」と司。


「了解でーっす」と八王子SCのみんな。


「ビクトリーズの人たちもそれでいいですかー」と司。


「ラジャー」と頼もしい傭兵達。


 さあ、後半も頑張っていこう!!


 ちなみに今んとこのスコアは、3-2でフリッパーズが勝っています。


 あれ、いつの間に点が入ったのかなー……



挿絵(By みてみん)


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