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居酒屋「はちろく」

挿絵(By みてみん)

「いやー、でも、すごかったなー、コーチのシュート」


 洋平がいつの間にか俺の隣に戻っていた。


「左のアウトサイドにかかって、ギューンと曲がっていって、ゴールの左隅にドスーンって」


 指でシュートの球筋をなぞりながら説明する。


「あんなの、100に1つのまぐれだ」


 洋平の隣にいた司が言った。


「失礼だな、全盛期だったら10本に1本は決まってたぞ」


 俺が司に反論する。


「なあ、コーチ、アレ、今度の練習で教えてよ」


 洋平が目をキラキラさせてお願いしてくる。


「いいぞ、洋平、この前出した課題が出来たらな」


 俺はそう言いながら、洋平が食い散らかしたから揚げの残りを探す。


「ええー、」


 そう言って、途端にげんなりする洋平。


「コーチ、今更、課題がリフティング100回って……」


 そう、洋平に出した課題と言うのはリフティング100回連続成功だ。


「今更、リフティングなんて、考え古臭いよー、ピルロだってリフティングの練習するくらいならキックの練習しなさいって言ってんじゃん!!」


 ACミランのレジェンド、元ユーベの監督、アンドレア・ピルロの発言を引っ張り出す。


「ええーシンジー、今更リフティングの課題なんて与えてるんですかー」とクライマーコーチも驚いている。


「そうだ、そうだ、デジャンもマケレレもインザーキだって、リフティングなんてサッカーでは重要じゃないって言ってるじゃんかよー」


 ウィキペディアでも調べたのか、知ったばかりの知識をひけらかしてくる洋平。よっぽど俺の出した課題が嫌みたいだ。


「っていうか、洋平君、リフティング100回出来ないの?」と斜め向かいに座っていた、事務員の三島さんが聞いてきた。


 事務員といいながらも、実は現役時代なでしこに呼ばれたこともある実力派だ。そこら辺のジュニアユースでは歯が立たない。


「いや、できるさ!!リフティング100回くらい。でも、コーチが言ってんのは……」と、そういって口ごもる洋平。


「逆足でリフティング100回」


 司が野菜スティックをポリポリ食べながら言った。


「「逆足かー!!」」

 

 三島さんとクライマーコーチが声を上げる。


「逆足はきっついなー」と三島さん。


「OH、シンジー、ユー、イジワルですねー」とクライマーさん。


「俺が言い出したんじゃない、そこにいる司が言いだしたことだ」


 俺はそう言って、司を指さす。


 司は知ったこっちゃないといった感じで、相変わらず野菜スティックをポリポリポリポリ。


「ってか、お前、プレー中、右足しか使ってないだろ。最近じゃ、ここら辺のチームにバレて、右足のコース切られてるじゃねーか。」


 一つ上のユースのコーチである司にそう言われて、何にも言い返せない洋平。いい気味だ。


「トラップも右足、キックも右足、そんなんだから敵に詰められるんだよ。今年中に両足しっかりと使えるようにしろ!!」


「はーい」


 俺の時と違って、思いっきり従順な態度になる洋平。アレもしかして俺って舐められてるの?


「まあ、左足がそこそこ使えるようになったらさ、お前、上手くなるよ」

 そういうと、いつの間にかハイボールを飲みだした司。


「ホントっすか?コーチ」


 食いつくように洋平は聞き返す。


「ああ、そうすりゃ、確実にプレーの幅が広がるってもんさ。相手DFだって今までみたいに簡単に突っ込んでこれなくなる」


 そう言うとハイボールをゴクリ。


「まあ、でも、今だってそんな簡単にボールは取られてませんよ、俺」


 確かにチームの中では飛び抜けてテクニシャンの洋平。


 自ら名乗っている『八王子のファンタジスタ』の異名は伊達ではない。


「お前みたいな、相手を小馬鹿にしたプレーをするフットボーラーってのは狙われるんだよ。俺みたいにな」


 そう言ってニヤリと笑う司。


 ずるいよ司、それを言ったら何も言い返せないじゃないか。


 ここにいる誰もが知ってるんだぜ、お前の身に何が起こったかを……



 途端、辺りは水を打ったように静かになる。


 あのおしゃべりの洋平ですら何も言えなくなってしまった。


 自らの失言に気が付いた司は、ごまかすようにマスターに追加オーダーを言う。


「マスター、アーリータイムスのハイボール、ダブルで!!」




 しばらくの間は気まずい空気が流れていたが、そこはそれ、フットボールジャンキーが集まる『はちろく』。

 いつの間にか、この前の代表戦の話になった。


「ってか、ベトナム相手にホームで引き分けは無いだろ!!」


「あの監督、戦術の引き出しが無さすぎるんだよ」


「こんなんで、本当にベスト8狙えるのか」


「まさか左サイドがこんなに人材不足になるとは……」


「そういや、今日、ワールドカップの組み合わせだよな」と誰かが言った。


「あ、そうなんだ、何時から?」


「確か深夜1時過ぎだったっけ」そう言ってスマホを取り出す常連客。


「あー、じゃあ、今日は頑張って起きてなきゃー」と洋平。


 その途端、目をキラーンと光らせる司、隣に座っていた洋平のほっぺたをギューッと摘まみ上げると、「お前は家帰ってさっさと寝ろ!睡眠だってトレーニングの一部だっていつも言ってんだろ!!」と。


「は、はい、こーちー」と涙目になる洋平。


「食うもん食ったらさっさと帰れ」


 司そう言うと、洋平の空いたお皿に残ったから揚げを集め始める。


「ここのから揚げは、むね肉を使ったから揚げだ。皮も取り除いているし衣も薄い。良質のたんぱく質が一杯取れるぞ、よかったな」


 司はそう言うと、隣のテーブルからもから揚げを寄せ集め、洋平のお皿にてんこ盛りに盛った。


「これ全部食ってから帰れ」

 

 司は洋平にそう命令した。


作者の相沢です。「フットボールのギフト」読んで下さりありがとうございます。

気に入ってくださった方は、ブックマークと評価の方をして頂けたら幸いです。

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