オリンピックアジア最終予選 準決勝 イラク戦 その3
オリンピックの懸かった大一番、日本もイラクも慎重にならざるを得ない。
ディフェンスの人数をしっかり揃えた上で、相手のチームにどこか弱点は無いものかと値踏みをするかのようにお互いの腹の内を探りあう。
ゾクゾクとした緊張感の中、やはり最初に動いたのはイラク。
8番のアブドル・ナシーム選手が日本のゴール前に走り込んでくると、その頭に合わせるようなハイボールを入れてきた。
円藤さんが競り合うも、確実に頭一つ分出たナシーム選手は、後ろから走り込んだカルミ選手にボールを落とす。
そしてそのままカルミ選手はペナルティーエリア外からボレーシュートを打つ。
ゴール手前25mからのシュートは枠を外れていった。
しかし今の一連の攻撃に自信と手応えをのぞかせるイラクの選手達。やはりナシーム選手を中心とした攻撃で今回も日本の牙城を崩そうとしているのだろう。
だが俺達だっていつまでも同じ手でやられるほどお人好しではないんだよ。メソポタミアのライオンくん。
その後、イラクのボールになると再びナシーム選手の頭に合わせるハイボールが入った瞬間、いち早く日本のDFラインから飛び出した八王子生まれの鯱がメソポタミアのライオンに襲いかかった。
身長190cmはあろうかというナシーム選手のさらに頭一つ分上から、拓郎がボールをはじき返す。
その瞬間、スタジアムから「オオォー」と歓声が上がる。
サッカーではなかなか見られないような肉弾戦が日本のペナルティーアーク(ペナルティーエリア手前に描かれている半円の中)で繰り広げられる。
思わず「今のはファールじゃないのか」と確認するナシーム選手。だが、レフリーは正当なチャージだとナシーム選手に首を振る。
納得いかない表情で立ち上がるナシーム選手。
その間も拓郎が跳ね返したボールを回収した南さんが攻め上がるも、イラクの厚いディフェンスに阻まれボールはタッチを割っていった。
「ナイスクリア拓郎」
俺は拓郎の代わりに入ったDFラインから拓郎に向かって声をかける。
無言のままにっこりと笑って親指を立てる八王子の鯱。
メソポタミアのライオンと八王子の鯱。一体どちらが強いのか、この中東の砂漠の地で異種族格闘技戦としゃれ込もうじゃないか。うちの鯱はなかなか手ごわいぞライオン君。
準決勝の相手がイラクと決定してから、チームのスタッフと話し合い、アブドル・ナシーム選手の対策として、司がこの変形スリーバックを提案したのだ。




