リオ オリンピック アジア最終予選 その10
「というわけで、日本対タイの試合が始まります。日本のフォーメーションはこんな感じです」
司はそう言ってノートパソコンを開くとテレビ映像が流れてきた。
モニターには日本のフォーメーションが映っている。
「日本のこれは……4-4-2ですか?」と俺。
「そうですね、このフォーメーションはこのチームが立ち上げられた時からよく使われてきたフォーメーションですね」と司。
「中島選手は今日はミッドフィルダーでの登録なのですね」
「そうですね。でも、今日の試合でしたら、予想では北朝鮮戦よりもさらに攻撃的な展開が予想されます」
「というと?」
「はい、4-4-2というよりは4トップの4-2-4と言った感じになると思われます」
「なるほど」
「今日の試合、注目する選手というと誰になりますか?」
「やはり、注目株といいますと、フォワードに入りました予選での得点王、田中大和選手です」
「あのツートップの左に入った選手ですか?」
「はい、田中選手はお父様がジャマイカ人で、日本人離れした天性の身体能力が持ち味のフォワードです。特にボールを持った時の推進力はこの年代では抜きんでています」
「なるほど、他に気になる選手は?」
「昨シーズンから鹿島アンタレスのCBに定着した上田選手ですね。特にここのポジションは、御岳選手、奈良原選手とポジション争いが激しいところに、今大会、下の年代から森下選手も加わり一層激しさを増しております。一体誰がこのポジションを勝ち取るのか興味が尽きません。本番のリオデジャネイロオリンピックの時一体その場所に誰が立っているのか、そしてそれがそのまま、今度のロシアワールドカップのメンバーに直結するかも知れません」
と、ここで気付いたのだが、実況と解説、逆じゃね、司?
おっ、試合が始まった。
「そういや、司、タイの選手で気を付けなければならない選手って誰かいるのか?」
すると、お前、マジか?と言った感じで俺を見る。
んっ?俺、なんか変な事言ったか?
「むこうの18番」
司はそう言ってフォワードの選手を指さした。
んー……アレッどっかで見たような気が……
「もしかして…………」
「もしかしなくても、チャライップさんだよ」
「ああー、チャライップさんだー」
チャライップさんとは、押しも押されぬタイ代表の国民的英雄のJリーガー。チャライップ・ソンクラーノさんだ。
確か前の世界では、リオオリンピックの翌年にドサンコーレ札幌に移籍して、名将ミハイロビッチさんの元、活躍するはずの選手。そういやこの世界に来る直前に川崎に移籍したんじゃなかったっけ?
愛称はタイのメッシ。そういや〇〇のメッシって多くね?
「ってことはアレだ、いきなりの試練だね。拓郎君」
「ああ、奴、翔太とか優斗とかのちっこくてすばしっこいフォワードってあんまし得意じゃないからなー」
そんなことを話ながら観ていたら、意外や意外、日本もタイも結構オープンな戦いになっている。
「てっきり北朝鮮みたいに引いて守ってカウンターかと思ったら」
「まあ、引いて守っても、長身の選手が少ないから空中戦に持ってかれるとキツイんだろタイは」
「なるほど」
タイもしっかりとDFラインから繋げて攻撃を組み立ててくるのだが、円藤さんと原山さんのダブルボランチのプレッシャーがかなりエグイ。さすがデュエル王。この頃から存在感抜群ですね。
「タイはなかなか苦しいなー。大和さんの所でミスマッチが起きてボールが取り切れない」
「ああ、ゴール前でしっかりと起点を作られたらきついなー」
山田選手を中心として徐々に押し上げてきた日本は、前半23分にワンツーで抜け出した翔太のグラウンダーのクロスを山田選手が押し込んで先制した。
日本対タイのスコアは1-0。
その後も日本がボールを支配しつつも時折、タイのカウンターが発動する。
すると、前半35分、チャナイップさんが抜け出すと、ゴール前で拓郎との1対1になる。
「おっしゃー、拓郎、ディレイ(遅らせろ)、ディレイ(遅らせろ)、慎重に、慎重に行けー!!」
拓郎は一か八かでチャライップのボールを取りに行くこと無く、ドリブルを遅らせながら、徐々にサイドに押し出していく。
「おし、おし、おし。それでいい、それでいい」と司も力が入る。「それでいいんだよ、それで」
円藤さんが戻ってくると、チャライップさんを挟む。コースが無くなったチャライップはボールを戻す。
「今のプレー、どうでしたか、鳴瀬さん?」
あれ、また解説ごっこ続いてるの?そんなら、「そうですね、今の森下選手のプレー、チャライップ選手のドリブルを遅らせてチームでディフェンスするという意思がはっきりと伝わってきます。こういう試合では一つのファールが命取りになることがありますからね。セーフティーファースト。丁寧でいい守備だったと思いますよ」
もう一人のCBの上田さんからも、ナイスプレーと声を掛けられている。
うん、なかなかフィットしてていいんじゃないの、拓郎君。
そんな感じで、前半を1-0で折り返すこととなった。




