天皇杯準決勝 対レッドデビルズ戦 その15
司からのサイドチェンジが入ると俺は右サイドを駆け上がる。
なるほど司が言った通り、兵藤さんの代わりに入った石田さんという選手。寄せも甘いし、あたりも弱い。これなら俺が普通にデュエルを持ち込んだところで勝機は十分にありそうだ。
それに宇田川さんも目に見えて体力が落ちてきている。ここにも交代のカードを切りたいのだろうが、槇原さんが一体どこまで行けるのか分からない現状では、念のためカードを取っておきたいのはよくわかる。
司の予定通り、俺は右サイドでボールをキープすると、ゲームを組み立て始めた。
しかし、中二日で戦っているのは俺達も一緒。ビクトリーズとの死闘の疲れがじわじわと明和の選手達を蝕んでいく。
すると、先にカードを切ったのはおじいちゃんの方だった。
前の試合フル出場した恒田さんに代わって2年生の島田さんを投入してきた。
先日のインカレでも結果を残した島田さん。
優斗との息も結構あっているし、何よりも前線からの守備を得意としてくれているのが頼もしい。
俺は、山本さん、島田さんのフレッシュな二人を中心にボールを集める。
明和がボールを持って積極的にゲームを支配し始めると、レッズはしっかりとブロックを敷いて対応してきた。
もしかしたら、大学生が相手だと高を括って、運動量が落ちているのに前半と同じような調子で来てくれたなら……なんて淡い期待を寄せていたのだが甘かった。
リアリストの世界第三位。埼玉レッドデビルズ。こう来られると始末が悪い。
そもそも、先日行われたクラブワールドカップでも、先制すると露骨に引いて守ってカウンターを繰り返しての世界第三位だったのだ。明和に対しても油断のかけらは微塵もない。
そうなってくると、あの5バックのディフェンスラインが本当に厄介なのだ。
鼻の骨を折って相当痛いはずなのに、槇原さんは正確なコーチングで仲間の選手達に声をかける。
なるほど、替えのきかない選手とはこういう物か。
時間の針が刻々と進んでいく。
ゲームメークを俺に任せて、司は何度もレッズのゴール前に侵入していく。
だが、5ー4のブロックで守られたレッズのゴールはそうやすやすと侵入することすら許してはくれないのだ。
俺も何度かスカッドで狙っては見たが、ここまで警戒して引かれてしまうと、打ったところで相手のブロックに引っ掛かるか、届いても西山さんのパンチングで防がれてしまう。
やはりここは中で勝負を仕掛けてくれる選手が必要なのだ。
すると、司が今日何度目かのインナーラップで左サイドから中央に切れ込んできた。
自分でいうのもアレなんだが、俺も相当スタミナには自信があるが、こいつのスタミナも相当だ。
前半開始直後の攻撃からずーっと、隙さえあればスプリントをしてレッズ陣内に仕掛けてくる。
レッズ不動のダブルボランチ阿部野さんと柏本さんの二人を相手にするのは分が悪いと思ったのか、今日は司は徹底的にボールの受け手に回っている。そして司は僅かな隙さえ見つければ、二人の間に割って入る。
俺には右サイドで戦ってくれと言いつつも、自分もしっかりと日本代表のダブルボランチ相手にずーっと勝負を仕掛けているのだ。
流石は司。俺達がやってできないことを平然とやってのける。そこがしびれるあこがれるー!!
さっ、俺もがんばんべ。
俺は、ボールを持って内に切れ込むと、阿部野さんに向かってデュエルを仕掛ける。
オシムの愛弟子、ミスターポリバレント。その実力はどの程度のものか、確かめてくれるわ。
と思った瞬間、秒で取られる明和の粉砕機。
「何やってんだよ、ボケッ!!」と司から激しいお叱りが……
いや、今の俺のキックフェイント、結構いい感じでいったと思ったのに……気が付いたら死角から柏本さんに体を寄せられて、あっという間に阿部野さんに奪われてしまった。
えっ、なに、司。こんな化け物相手にずーっとやりあってたの?
おみそれしました。
時計を見ると後半38分を回っていた。
…………ヤバッ!!




