目指せ!バナナキング その5
ピッチに戻ると、巨大なバナナが既にそびえたっていた。
あらためて見るとでっけなー。
すると、マイクを持った宇崎ちゃんがカメラに向かって話し始める。
「はーい、スタジオの川藤さん、川藤さん」
「はーい、スタジオの川藤です」
カメラの横に置いてあるモニターにはリアルタイムでつながっているスタジオの様子が映っている。
そしてMCは「北海道の狂犬」こと川藤浩司さんがいる。
「初めましてー、明和大学サッカー部の皆さん。極楽たんぼの川藤浩司でーす。天皇杯見ました。すごかったですねー。あの現在J1でトップを走る広島を0点に抑えての勝利。手に汗握りました。」と川藤さん。
「ありがとうございます」と俺と司と吉村さん。
「今日は明和大の誇る三人のキッカーにバナナキングを挑戦してもらうという事ですけれど、よかったら抱負を聞かせてください」
「はい、憧れの『あべっちSC』に出れて感無量です」と俺。
「日曜日の夜はいつも必ず見てます」と司。
「はーい、あべっち」と吉村さん。
その途端、「番組ちげーよ!!ケンカ売ってんのか!ああーん」とブチ切れの川藤浩司さん。
北海道の狂犬は伊達じゃない。
一応ここまでがディレクターの脚本です。
「で、どうなの、行けそうなの?行けなさそうなの?」と不機嫌な顔を隠そうともしない川藤さん。結構好きですよ。そう言うキャラ。
「これって、10回蹴れますけれど、パーフェクトだったらバナナ10年分もらえるんですか?」と司。
「ずいぶんな自信じゃねーか、北里ー。おう、ディレクターどうなんだよ」と既に呼び捨ての司。
すると、ディレクターさんがごにょごにょと川藤さんに伝える。
「えーっと、成功したらそれで終わりです」
「予算ないんすか?」と司。
「ねーよ!!」と川藤さん。
「じゃあ、三人が抜いたら三年分はもらえるんですか?」と吉村さん。
またディレクターとごにゅごにょ話と。
「それは、もらえるってよ」
その途端ガッツポーズをする吉村さん
「スゲー自信だなおまえら」
「ところで、ゴールに設置してある番号、全部落としたら何かくれるんですか?」と俺。
「トロフィーやるよ」と川藤さん。
途端に三人が集まり、「とりあえず、隅っこのバナナ狙いで、バナナ抜いたら他の番号狙ってみるべ」と。
「なんかごちゃごちゃ話してねーで、とりあえず、さっさと蹴ろよ!」と川藤さん。
話し始めの頃と随分扱い変わってませんか?たったのニ、三分ですよ。
という訳で、最初のキッカーは司です。
ルールは、 ペナルティーエリアの外側、25mの場所から、7つに分けてあるゴールの的を、どれだけ多く射抜けるかが勝負です。
巨大なバナナのオブジェの後ろを通してどれだけボールを曲げられるかがポイント。
持ち球は10球です。
そして右のキッカーなら、ゴールの左下、左のキッカーならゴール右下、にある1mの大きさの⑦番の的を射抜ければなんとバナナ1年分の贈呈です。バーナナ。
そして司が1球目を蹴る。
ゴール手前25mから右足で蹴られた司のボールは、巨大なバナナの後ろを通って、鋭く曲がると、ゴールど真ん中の3番の的を射抜いた。ばーなな。
射抜いた瞬間、みんなでバナナのポーズをする。
一応、お約束だからね。
司は2球目、3球目と立て続けに蹴るが、ゴールの枠には行くのだが、7番のバナナ1年分にはなかなか届かない。
やり始めて見ると、バナナの外側を回して、ゴールの左隅を狙うってのは相当むずいのだ。
やはりバナナ1年分は伊達じゃない。ばーなな。
「おいおい、どーした、どーした学生さん。最初の威勢は」と川藤さんが番組MCらしからぬ態度で煽って来る。
まあ、これもバナナキングのお約束だ。
すると、司はカメラに向かって、
「ちょっと、あべっち、うるさいよ。集中できないから黙ってて」とさらに煽り返す司。
その様子を見て笑いがこぼれるスタンド。
「てめー、セーガク、調子乗ってんじゃねーぞ」と切れるMC。なかなかのカオスだ。
そんなお約束をこなしながらも、蹴るポジションを色々と工夫する司。
「どうした、司」
「こりゃ、思った以上に遅く蹴らないとゴールの端まで曲がり切らねーぞ」と球筋をイメージしながら司が言う。
「もう少し、高く蹴ってみたらいいんじゃねーか」と俺。
「あのー、すいません」すると司が手をあげた。
「はい、なんですか?北里選手」と宇崎アナ。
司はペナルティーエリアライン上に聳え立つ、バナナの先っぽを指さして、「あの、先っぽのヘタの所をちょこっとでも巻けばいいんですか?」と宇崎アナに質問する。
「はい、そうです。あの先っぽのちょっとでも外側を通過したらオッケーですよ」そういって指でオーケーマークを作る宇崎ちゃん。
「じゃあ、それでちょっとやってみるわ」
そういうと、ボールの後ろに立ち、つま先でトントントンと芝を蹴る。
おっ、司の本気のしるしだ。
司はFKの時、集中すると、ボールを蹴る前につま先でピッチの芝をトントントンと蹴る癖がある。本人は意識してるかどうかは知らんが、そして大体そういう時は成功する。
司はバナナのヘタを狙って蹴った。
するとボールはグングンと曲がり、7番の上にある5番のプレートを射抜いた。
あー、おっしー、ばーなな。
「ヨシッ!」と手ごたえを感じ取った司。何かを掴んだみたいだ。
すると5球目で、7番のプレートのすぐ上の6番を射抜いた。あと30cm。
そしてここからが司の本領の発揮だ。
狙った獲物は逃さない。羨ましいくらいの神経のずぶとさで、ぽっかりと開けた6番の枠の後に6球目、7球目と立て続けにボールを蹴り込む。
「ああ、おっしー!!」とモニターの向こうで悔しがっている、いつの間にか味方になってる川藤さん。
そして、遂に8球目、
「パカンッ!」という小気味よい音と共に7番のプレートのど真ん中を打ち抜いた司。
その瞬間、パンパパカパーンというファンファーレの音と共に、宇崎ちゃんがいつの間にか持っていたポータブルのくす玉がパカンと割れた。
バナナ1年分、ゲットです!!
ばーなな!!




