天皇杯ラウンド16 サンアローズ広島戦 その9
吉村さんの正確なフィードを用いて広島の攻撃を凌ぎ続ける俺達。
すると、効果的な攻撃が出来なくなった広島は徐々にだが中盤での支配を弱めていく。
そうなると、その分、ウイングバックに位置している俺と司が広島陣内に攻め入って行く。
これがミシャ式とミシャ式のミラーゲームの狙いだ。
中盤でのボール支配率が落ちた途端、すぐさま5バックで5トップを相手しなければならなくなる。
広島のミキチッチ、宮永選手、塩田選手、千波選手、清野選手さんの5バックに対して、俺達は司、大場さん、恒田さん、優斗、俺の5トップで対抗する。
図にするとこんな感じ。
一見有利な展開に見えるのだが、ボールを奪われた瞬間、状況が一気にひっくり返ってしまう。
図にするとこんな感じね。
つまりは、中盤がスカスカになったミシャ式のミラーゲームになると、お互いののど元にナイフを突き立てているような状況が延々と続くのである。うーん、スリリング!!
で、この状況でゲームを有利に運ぶためにはどうすればいいかというと、まぁ、ぶっちゃけ、1対1で勝て!……と。
戦術を突き詰めて、突き詰めて、突き詰めたその先にあったものとは……サッカーにおいては原始的な1対1での強さだった。
フットボールの真理をついぞ垣間見てしまった俺。まぁ、分かりましたわ。やるだけやってみますわ。ワンッ!!
というわけで、こういう時は、大体俺がその役目をやることになっているので、「神児、行きまーす!!」
俺はミキチッチ選手の裏にボールを放り込むと「うおらぁぁー」と言いながらボールを奪いに行く。
フットボールはフットボールでもアソシエーション式では無くラグビーフットボール的な陣地の奪い合いを始める俺。
すると、みんなも良く分かったもので、ミキチッチさんと1対1の状況になるようにと、あえて俺にはサポートに来ず、生暖かい目で見守ってくれる。
皆さんの優しさが身に染みる。ありがたくって涙がちょちょぎれそうですわー!ちくしょー!
その上、ボールがこぼれて味方の選手に入ると、俺とミキチッチ選手が取り合いになるくらいの絶妙な位置にボールを放り込んでくれる。特にGKの吉村さん、本当にフィードが上手いっすね。
俺の足元に簡単に収まるような状況でも、あえてスペースを狙ってギリギリのパスを入れてくる。
そのサドっ気が司といい勝負です。さっきから心拍が180から落ちないんですが殺す気ですか。
すると、下半身に乳酸がパンパンにたまって来た前半40分過ぎ、遂にミキチッチ選手の運動量が落ちてきた。まぁ、ミキチッチ選手も土曜日に合ったフォルツァ大阪戦フル出場で大活躍してたから、スタミナだってそりゃ切れますって!!
ちなみに私の方は、先週末に行われた今回のリーグ戦、しっかり休ませていただきました。ウフッ ♪
チームの皆様からは「おめー、先週末のゲーム休んでたんだからその分しっかりと働きやがれ」という暖かいメッセージが、他人行儀な目からしっかりと伝わってきます。
普段の試合だったら、せいぜい司からの鬼サイドチェンジくらいの物なのに、今回からは吉村さんの鬼フィードまで加わり、地獄のような運動量を求めらえるようになった俺。
こんなことされたら、ミキチッチさんよりも俺の方が先に潰れちゃいますよ、それでいいんですか!!
そんなことを思っていたら前半43分、調子に乗った中野さんから火の出るようなスルーパスをいただく俺。
えっ、ナニ、そんなえっぐいパス出せたんですか、中野さん。そして口元がにやけているのは気のせいですか?
もちろん死に物狂いで追いかける俺。足を止めてしまったら、この後のハーフタイムで司に何言われるか分かったもんじゃない。
すると、前半、影の様にピッタリマークが付いてきたミキチッチ選手がいない。
振り返ると太ももの裏を押さえてケンケンしているミキチッチ選手。
あれ、大丈夫ですかミキッチッチさん。もしかしてハムやっちゃいました?
なんかどうもすみません、変なことに付き合わさせちゃって、でも、これ、フットボールなもので。
俺はそう割り切ると、一気に左サイドをえぐりにかかる。
そしてもともと、レフティーの俺、左サイドのタッチライン際をボールを持ってズンズコ上がると、俺以外の4トップも千載一遇のチャンスとばかりにゴール前に突っ込んできた。
俺はCBの宮永さんが詰めてくる前に、利き足の左足で渾身のセンターリングを上げた!!
「うおらぁぁぁ!!」
すると気合が入りすぎてしまったのか、インフロントに掛けて蹴るはずのボールがアウトに掛ってしまうと、思ったのとは逆の方向にグングン曲がって行くボールちゃん。
ゴール前に飛び込んだ明和の選手もびっくり、キーパーもびっくり、そして蹴った本人の俺もびっくりのボールは、サンアローズ広島ゴールに向かってグングンと曲がって行った。
もういいから、そのまま入っちまえ!!




