総理大臣杯ファイナル その9
すると、ピッチの上でへたり込んでいる俺の元に司がやって来た。
「よう、ナイスシュート、神児」と司が手を差し出した。
「ああ、ナイスパス、司」と俺は司の手をつかんで立ち上がった。
見ると、関西体育大学の選手達がボールを持ってセンターサークルにセットする。
正直言うと、もう喜ぶ体力すら残っていなかった。
俺は司の肩を借りて、どうにかみんなの元に帰る。
時計を見る、後半50分になっていた。
関西体育大学のキックオフで試合が再開すると、直後、試合終了を告げる長い長い笛の音がピッチの上に響き渡った。
「うーん、思ったよりもちっちゃいなー」と優斗。
「まあ、そういうなよ。これでも結構歴史あるトロフィーなんだから」と司
「ってか、意外なのは神児君がMVP取ったことなのよねー」と拓郎。
「ああ、もらった本人が一番驚いてたもんな」と木本さん。
「まあ、でも、大会得点王も取ってるし、出場時間も2戦目以降フル出場でしょ。まま順当じゃないんですか決勝点も取ってるし」と司。
「「「そりゃ、そーかー」」」
俺は後ろのテーブルでそんなみんなの話を聞きながら、さっきから大会得点王の盾と最優秀選手の賞状をニマニマと眺めている。
今、俺達が何をしているかというと、西島監督とチームの関係者のみんなをホテルの集会所で待っているところだ。
先ほど表彰式も無事終わり、シャワーも浴びて、西島監督からの総括と来週以降のチームの予定を打ち合わせして、今日は解散というわけだ。
実は、私、鳴瀬神児は、恥ずかしながら、今大会通算4得点で単独ではないけれど、神奈川国際の伊藤さんと並んで得点王を取っちゃいました。
キャーうれしー。大会得点王だなんて振り返れば小学校以来取ってなかったんじゃないのか?
大体、中学生以降はそう言う賞は翔太が全部持って行ってたからね。
しかもおまけに大会MVPまでいただいちゃいました。
今日だけは心の底から自分で自分を褒めてあげたい俺であった。
さあ、自己肯定感を限界まで高めようじゃないか。
マジ俺、偉ーい!!
そんなことを思っていたら、突如、ありえないくらいの眠気が襲ってきた。
ミーティング始めるまでちょっと寝てよー…………
と、そんなことを思っていたら……アレ、今何時!?
周りを見ると、ホワイトボードの前におじいちゃんが一人お茶をすすっていた。
「あれっ、みんなは?」俺はよだれを拭きながら辺りをキョロキョロ見渡す。
「おう、おはよう鳴瀬、みんな帰っちまったぞ」そういいながらホワイトボードをキュッキュと拭く西島監督。
「……あっ、その、すいません、居眠りしてしまって」そう言って、急いで立ち上がると肩からタオルがファサっと落ちた。「へっ!?この毛布って?」
そう言いながら毛布の端っこを持つ。
「おう、北里の奴が、こんなところで風邪ひいてもらっちゃたまらないって言って、ホテルの人から借りてたぞ、後で返しておけ」
「あっ、ハイ、すいません」
俺はそう言いながらタオルをたたむ。
「でっ、えーっと、ミーティングって終わっちゃったんですか?」
「おう、さっき終わったぞ」
「起こしてくれればよかったのに……」
俺は誰とはなしにブツブツ言いながら毛布をたたむ。
すると、監督が「みんなが、疲れてるんだから寝かせとけってさ、やさしいな」
なるほど、そういう訳だったのか。なんか申し訳ない。
俺はとりあえず「あの、……なんか、すみません」と監督に頭を下げた。
「そんな気にすんな。大したことは言ってない。みんなお疲れ様だったなとねぎらったくらいだ。後は岩崎からの今後の予定だ。後で北里から聞いておけ。それに、お前さん、来週からドイツだろ」
「はい、司と優斗と拓郎も呼ばれてます」
「ご苦労なこった、ただでさえ短い夏休みだってのにその間もサッカー漬けなんだからな」
「そんなことは無いです。好きですから……サッカー」
俺はそう言うと得点王の盾をキュッと握る。
すると、監督は何か思い出したように、「そうそう、鳴瀬、得点王とMVPおめでとうな」と直々のお祝い。
なんか妙に照れくさくなってしまい、「な、なんか意外ですよね。俺が得点王とMVPって……言われるまで得点王なんて気付きませんでしたよ」ちょっと謙遜してみる。
すると監督は、お茶をずずーっと啜ってから、「そうか、鳴瀬。別に俺の中では意外じゃないぞ」と。
「へっ、そうですか?」
「おう、得点王取らなくてもお前がMVPだと思ったぞ」
「俺がですか?」
俺はそう言って自分で自分を指さした。
「もちろんだ」
西島監督はそう言ってニヤリと笑った。
そうか、これは優勝したご褒美で、監督からリップサービスみたいなものなのだろう。
ならば素直に受け取ろう。
「ありがとうございます。これからも一生懸命に精進します」
俺はそう言って深々と頭を下げる。
すると……「なあ、鳴瀬。俺は本心から言ってるんだぞ」と念を押すように監督。
「はぁ……」
「うーん、信じて無さそうだな」
そう言うと頭をポリポリとかくおじいちゃん。
そして……「じゃあ、鳴瀬、サッカーの監督がさ、一番使いたくなる選手ってどんな選手だと思う?」と監督。
一番使いたくなる選手……俺はしばらく考えてから、「点を取る選手ですか?」
……例えば翔太のような。
「違う」
「じゃあ、チームの司令塔ですか?」
……司みたいな。
「違うな」
「じゃあ、みんなの精神的な支柱のような選手ですか?」
……木本さんのような。
「違うな」
「うーん……降参です。どんな選手が一番使いたくなるんですか?監督」
すると監督は俺の顔を見てニヤリと笑い、「監督が一番使いたくなる選手ってのはよ、お前みたいに最後まであきらめずに走ってくれる選手だよ」と…………
「俺……ですか?」
思わず自分を指さす俺。
「そうだ、俺にとって、お前がこのチームのファーストチョイスなんだよ。今日も最後まで走ってくれてありがとうな、鳴瀬」
そういうと、監督は肩をポンポンと叩いてくれた。
ア、アレ……やばい、なんか分からんけど、急に涙が零れそうになる。
こんなことで泣いたのがばれたりしたら恥ずかしい。
俺はなんとか話題を変える。
「そっ、そういえば、監督、チームはこの後八月いっぱいまで休みなんですよね」たしか今日は八月十六日だから実質二週間か。
「ああ、九月一日からだが、お前さん達ドイツから帰って来たばかりだろ。岩崎とも話しておくから少し遅れてもいいからしっかりと体は休ませとけ」
「ありがとうございます」
「詳しい事は明日岩崎に聞いとけ、じゃあ、俺ももう部屋に戻るから、お前もさっさと部屋に戻って体を休めろ」
監督はそう言うとドアに向かって歩いていく。
俺は最後にもう一度お礼を言おうと思い、
「あの、監督、これからも、いろいろよろしくお願いします。もっとサッカーの事、教えてください」
俺はそう言って頭を下げた。
すると……「やだよ」と監督。
「へっ?」予想外の返答に思わず言葉が詰まってしまう。
そして……「お前や北里みたいなやつは、さっさとプロの世界に行っちまいな。俺から教えられることなんざ、もうそんなに残ってねーよ」
監督はそう言うとヘラヘラと笑いながら部屋から出て行ってしまった。
俺はなんて返事をしていいか分からずに、口をぽかんと開けたまま……
ただ、それでも、監督が言ってくれた、「今日も最後まで走ってくれてありがとうな」の言葉がいつまでも耳に残っていた。
今回で総理大臣杯は終わりです。
いよいよ来週からドイツ遠征\(^o^)/
作者の相沢です。「フットボールのギフト」読んで下さりありがとうございます。
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