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総理大臣杯ファイナル その2

「…………誰よ?」


 すると司は、頭を抱え、はぁーと長いため息。


 えっ、俺、今、そんながっかりすること言った!?!?


 そして、「お前、一緒に本買っただろう。そん時に」


「…………あっ」


 その司の一言で思い出した。たしか、研修で講演聞いたその時に辞書みたいな分厚い本買わされたんだ。司に言われて。


 当時、貧乏人の俺にはあの5千円の出費が痛かったなぁー。牛丼何杯食べれたことやら。


「お前、読んでないだろ」そう言うと、ジロリと司。


「いや、読んだよ、読んだ、マジマジ」


 確か、序章だけ読んだ。そして静かに引き出しの一番奥にしまったはずだ。


「じゃあ、本の題名言ってみろよ!」


「えーっと」ヤバイ、脇の下からなんか嫌な汗が出てきた。


 確かコイツあほみたいに読み込んで付箋ベロベロに貼り付けていたもんなー。


 その頃の俺は、一か月後に差し迫った引退試合の調整で精いっぱいだったんだ。ほんとだよホント。


「えーっと、確か、ファイブレーンってすごいなー……みたいな」


 すると、怒筋をビキビキと額に浮かべる上司。久しぶりにその顔を見た。


「お前、ちゃんと読んどけって言ったよなー!ジュニアユースの育成についても大切なことたくさん書いてあるからって!!」


「ゴメンなさい。引退試合すんだら、ちゃんと読むつもりだったんだよ」


 俺は引退試合というキラーワードを使った。


 そのワードを持ち出した途端、「ったく、しゃーねーなー」と、上司のお怒りも静まった。そして、「最新版、5レーンの傾向と対策とその実践だよ」


 そうそう、たしか、そんな小難しそうな題名だったっけ。


 そして、あらためて理解した。


 えーっと向こうのマネージャーに前の世界で司がめっちゃリスペクトしているアナライザーがいる。


 アレっ、それってヤバくないですかー?


 一応司に確認取ってみる。


「それって、ちょっとまずくない?」


「まずいどころの話じゃない、今頃うちのチーム丸裸になってるぞ」


「いやーん、えっちー」


 とりあえず、困ったときにはボケてみる。


 これが前の世界で大学時代に覚えた大切なことの一つだ。


 すると、今の俺の発言をガン無視する上司。もしもしー。


 そして、「ちょっと、どころじゃねーよ。認識甘すぎだ」と司。


 それから岸祐介さんの経歴について司が滔々と話し始めた。あれ、もしかして、岸さんとか言う人のファンなのかお前?

 

 曰く、大学4年時に、全てのJ1のクラブに自身が分析したレポートを提出して自分を売り込みに行った。


 曰く、そのレポートに大変興味を示した川崎フリッパーズとチェザーレ大阪の取り合いが始まり、勝利したフリッパーズはそれから怒涛の3連覇。一方の敗れたチェザーレは常に勝負所でフリッパーズに苦杯を喫しタイトル争いに負け続けている。


 曰く、学生時代に自身でyoutubeにサッカー解説動画を上げて注目を浴び、タイやインドネシアからのサッカークラブから相手チーム分析の依頼が入り、けっこうな収入を得ていた。


 曰く、既に海外のビッククラブからのお誘いが幾つも入っており、近々日本を離れるご予定だとか……


 マジヤバい人じゃないですか~~~


「あっ、でも、でも、司、ほら、あの人達、優斗がU-20代表に入ったこととか、知らなかったじゃん。もしかしたらまだ、ノーマークかも……」


 と、一縷の望みを託す俺。


「んな訳ねーだろ、頭お花畑かよ。あんなのブラフに決まってんだろ、うち油断さすための」


 ……うーん、確かに、ちょうど、うちらがスタジアムから引き上げるタイミングで、駐車場の前を通った瞬間に優斗に声を掛ける……アレ、もしかしてはめられた!?!?


「とりあえず、優斗呼んで来い」と司。


「ラジャー!!」



 …………5分後、


「なになに、司君、ぼくもう寝ようと思ってたところやったんや。いややで、これからウイイレとか」と優斗。


「そんなのするわけねーだろ。ところで岸さんって人の事なんだけれど……」



 …………さらに5分後、


「そんなん、司君の考えすぎやろ。岸さんが僕の事だますわけないやん、感じわるいでー」と優斗。


 確かに、前の世界の事、優斗に話すわけにはいかないし、いくら俺達が、実は岸さんはすっごい有能なアナライザーなんだと言っても、証拠があるわけじゃないからそう簡単に信じてもらえるわけがない。


 すると、司はスマホをポチポチ。


「なんや、司君、人呼び出しといて、スマホのゲームか?僕もう帰るで?」と優斗が言ったところで、


「あ、出てきた出てきた」と司。


 そして優斗にスマホの画面を見せると、何やらyoutubeの動画を見せ始めた。


「なんや、司君、今からサッカーの勉強か?だったら明日にしてもらえへんか?」と言ったところで。


「ボンボンボン!!ハロー、フットボール!!」と大声がスマホから聞こえてきた。


 見ると、星型に形どられたサングラスをかけ、アフロの鬘に、ほっぺには日の丸のペイントに日本代表のユニフォームを着た……おそらく岸さんであろう人が画面に映っていた。


 きっとここに行きつくまでに色々と試行錯誤を重ねていたのだろう。苦労の後が伺える。


 難しいよね、動画バズらせるのって。見ると再生数は5万そこそこ。


 まあまあ思ったよりも再生数が伸びている。


 アレ……もしかして収益化できちゃってんじゃないの?

 

 すると、画面の中の岸さんは、


「じゃあ、先日ニュージーランドで行われたU-20ワールドカップ対アメリカ戦の解説をはじめまーっす!マケレレ!!」と言った。


挿絵(By みてみん)

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