総理大臣杯セミファイナル その5
本日、「フットボールのギフト」の前日譚とされる小説「私の彼はフットボーラー」を投稿いたしました。神児達がなぜこの世界に来てしまったかの。その理由が書かれたお話です。
よろしかったらこちらの方も是非ご一読してください。
アドレスはこちら→ https://ncode.syosetu.com/n0959hy/
もしくは「私の彼はフットボーラー」でご検索ください。
感想や評価を頂けたら嬉しいなぁー。
後半は明和のキックオフから始まった。
流通経営のメンバーを見てみるが変更は無し。明和と一緒だ。
メンバー変更をして相手のバランスを崩すことよりも、自分たちのバランスを崩すリスク嫌ったという事だ。
たしかに、最後の砦でスミスさんがいると考えれば、あながち消極的な策ともともいえない。
流経は流経で勝利のシナリオを着々と進行させているのだ。
それでも、お互いの守備の強度は前半程では無くなってくると、単発的とはいえ互いにパンチを繰り出してきた。
とくに、前半は鳴りを潜めていた江本さんが中心となって明和の守備陣をかき乱してくる。
ジャーメイヤーと江本さんのホットラインはこの大会でも機能しており、流通経営の最大の得点源だ。
拓郎を前線に上げるという事は、拓郎の代わりの誰かにこのジャーメイヤーさんを任せなくてはならないという事だ。
森田さんからのロングパスをジャーメイヤーさんは胸で収めると、サイドに流れていく。それにつられて明和のディフェンスラインがスライドしていくと、その隙間を見つけて江本さんが飛び込んできた。
「危ない!!」
しかし、すんでのところで司がボールをクリアーする。
危機察知能力に関してはうちの司も森田さんには負けてはいない。
前半は消え気味だった10番の選手も積極的に明和のディフェンスラインの中に入り、裏を取ろうと狙っている。
明和も前半の攻め疲れがあるのか、後半開始早々の攻撃は単発なものとなっている。
しかし、確実にやって来る後半の勝負所、両チームの選手とも、その瞬間を今か今かと待ち構えている。
日が落ち切ったとはいえ、不快指数が限りなく100%に近いピッチの上で、体力だけではなく精神力まで削りながら、互いの隙を狙ってくる。
すると、チャンスは先に流通経営にやって来た。
森田さんからのハイボールをジャーマイヤーさんが拓郎に競り勝つと、落としたボールを江本さんがシュートをする。
しかし、すんでのところで木本さんがシュートブロック。
だがそのボールを回収したトップ下の10番がそのままシュート。
すると、吉村さんが横っ飛びで決死のセーブ。
その浮いたボールにジャーマイヤーさんが飛び込もうとしたところで、今度は拓郎が体を入れてボールをクリアした。
同じ相手に2度は負けない。拓郎の覚悟が伝わってくるナイスクリアだった。
ゴール前に詰めていた森田さんが悔しそうに天を仰ぐ。
そうなると、必然的に次は明和のチャンスになる。
司に最大限の注意を払っている森田さんの死角を突いて、俺はスルスルとボールを持って内に切れ込む。
なにも偽サイドバックは司だけの専売特許じゃない。
司と一番長く一緒にいる俺だ。そこらへんのノウハウは十分に理解しているつもりだ。
ワンフェイクを入れて、さらに内に切れ込んでいく。
前の試合で2得点した選手に対して、ちょっとマークが甘くないかな。
ゴール前25mまでボールを運ぶと、この大会絶好調の左足を鋭く振り切った。スカッド発射だ!!
上手くブレろよ。最後の最後は神頼み。まあ、それがフットボールの醍醐味ってもんだ。
しかし、今日はついてないのか、ブレたのはいいがその方向がスミスさんの方。
「そっちじゃない!!」
俺はそう叫んだが、スミスさんは体を呈して必死にブロック。
そのこぼれ球に優斗が突っ込むが流経大ディフェンスのクリアによってボールはゴールラインを割っていった。
司の顔がこれ以上ないくらいに集中していくのが分かる。
前半と同じ、左サイドのコーナーキック。
司はコーナーアークにボールをセットすると右手で三本の指を立てた。
ディフェンスラインから拓郎はやってくると、流通経営のディフェンス人たちは拓郎に1枚、いや2枚、ちがう……3枚付けてきた。
ジャーマインさんも最前線から戻って来て拓郎にマンマーク。
それだけ拓郎のことを脅威だと思っているのだろう。
さすがに3枚も付いて拓郎も首をかしげて司に確認する。
拓郎も三本指を立てる。司はコクリと確認すると、拓郎はマークを三枚引き連れてゴール正面、ペナルティーエリアギリギリのところまで下がって行った。
拓郎に付いた三枚のマークは森田さんに確認するが、森田さんは「そのまま!!」と声を上げる。
先ほどの絶妙のフリックをした優斗にも江本さんがマークで付いている。
それが分かっているのか、優斗は盛んに前後にステップを切りながら小刻みにポジションを移している。
笛が鳴る。司がうなずく。助走を取って再び右足でインスイングで巻いて蹴る。
さっきよりもさらに短く、さらに低く。流通経営のゴールにたどり着く前にゴールラインを割るようなボールを蹴って来た司。
そしてそれに足から飛び込む優斗。
優斗のアウトサイドに当たったボールは、大きく軌道を変えてゴール前に飛び込んできた。
それはスミスさんも飛び込めない絶妙のコース。
すると拓郎は巨体を揺らしながら三人を引き連れ、流通経営ゴールのニアに走り込む。
明和が誇る重戦車は止まることなく三人を引きずりながらゴール前に達すると、そこに待ち構えていたスミスさんもジャンプ。1人対4人の戦いだ。
けれども拓郎は最後の最後まで自分の任務を全うすべく、4人に囲まれながらも、その巨体を必死もがきながらもぐいっと反らせてのスプラッシュジャンプ。
いつ見てもシャチがジャンプしてるようにしか見えない。
そして、優斗がフリックしたボールがやって来ると、拓郎は体全体を使ってのフルスイング!!
ブンッという音が聞こえてきそうだ。しかしボールは拓郎の頭上をギリギリで通過する。
それはそれは見事な空振りだ。ナイス囮、後でミルク饅頭、腹一杯食わせてやるからな。
森下拓郎一世一代の演技により、スミスさんを含め、流通経営大の選手全員をニアに誘い込んだ。
俺はその拓郎の陰に隠れてドフリーになると、ゆっくりと放物線を描いて落ちてくるボールを、ガラ空きになったゴールにダイビングヘッドで押し込んだ。
総理大臣杯準決勝、明和大学vs流通経営大学のスコアは、後半23分、1-0となった。




