天皇杯二回戦 対SC東京戦 その翌日
SC東京との死闘を終えた翌日、俺は明和のグラウンドに行った。
今日は昨日の試合の疲れを残さぬよう軽めの練習で流す予定だ。
すると、グラウンドには既に司が来ていて、何やら取材を受けている。
「なんすか、あれ?」
俺は近くにいた木本さんに聞いてみた。
「ああ、サッカーマガジンの記者さん、なんか北里にインタビューしたいんだってさ」
「へー、またなんでですか?」
「いや、最初、西島監督に話聞いてたら、昨日のゲーゲンプレスが北里の発案だったって聞いて、急遽北里にインタビュー頼んだみたい。それにほら、こんなに写真にでっかく映って、記者さんにもキャッチーだったんだろ?」
そういうと、木本さんはスマホを取り出し、応援団のど真ん中で明和の校旗を掲げている司の写真を見せてくれた。
「へっ、木本さんわざわざ写真撮ってたんですか?」
「んなわけねーだろ。ツイッター開いたらこの写真が流れてきたんだよ」
「なるほど……」
実は昨日は試合が終わった後が大変だった。
SC東京相手に番狂わせをおこした俺達に取材陣が殺到。
ジャイアントキリングを成し遂げた興奮冷めやらぬまま、応援団の人たちに挨拶をしに行くと、調子に乗った司が紫紺の校旗を掲げてのパフォーマンス。
しかもそれが好評だったのをいいことに調子に乗って新聞記者の人に写真をお願いする始末。
すると何という事でしょう、本日のスポーツ新聞のサッカー面で司の写真がでっかく取り上げられてしまったのだ。
ついでにツイッターやらインスタやらのSNSにも拡散してのトレンド入り。
ハッシュタグ「#SC東京取ったどー」で検索すると、もれなくこの写真と昨日のスコアが表示される。
全国デビューおめでとうございます。
まあ、もともとアイツ、こういうの嫌いじゃなかったからなー。前の世界から。
小六の時に全国大会に優勝してテレビのレポーターや雑誌の記者さん相手にニコニコしながらインタビューを受けてたのを思い出した。
ちょっと面白そうだな、覗きに行ってやろう。
俺は司に気付かれぬよう、死角に回ってインタビューを盗み聞きしてやろうと思った。
ベンチに座って明和のジャージを来た司はニコニコしながら、美人の記者さんのインタビューを受けている。
俺は後ろの茂みに隠れインタビューを盗み聞く。
見ると、優斗が茂みの横の物置の陰に、拓郎がその横に生えている木の陰に隠れている。
みんな好きだな、おい!
「昨日のSC東京戦での戦術は北里選手が考えられたと西島監督からお伺いしましたが……」
美人の記者さんがボイスレコーダー片手にインタビューしている。
「いや、僕だけでは無くて、監督と一緒に考えた戦術です。限られた戦力でどうしたらSC東京と互角に戦えるかと……」
司はよそゆきのフレンドリーな笑顔で姿勢正しくインタビューを受けている。
俺にもそういう態度で接してみろよ。一度でいいからさ……
「結果として互角どころか、見事な勝利でした。ジャイアントキリングおめでとうございます」
「いや、今回はたまたま良い運のめぐりあわせだっただけです。SC東京さんもACLで日程が大変そうでしたし、それに対し、うちは前の試合から一週間の休み取れましたので」
「それにしても、前半の3得点はお見事でした。アレは狙い通りだったのですか」
「いやいや、たまたま運が良かっただけですよ。みんなが自分のベストを引き出してくれたおかげでたまたま3点取れただけです。出来すぎでした。まあ、最初に決定機外した選手もいましたけれど……」
拓郎と優斗からの視線が痛い。さりげなくディスってんじゃねーぞオイッ!
「後半の選手交代と戦術変更については?」
「アレに関しては西島監督と事前に決めていました。僕としては後半もう少しやりたかったのですが、いくつかの決まりごとがあるために、ハーフタイムでしっかりと理解度を深めておいた方がいいと監督がおっしゃってくれまして……結果としてはその方が吉とでましたね」
インタビューに関してもサッカーと一緒でそつなくこなす司。
もう少し面白い事言えよ、おまえ。見ると、優斗と拓郎も退屈そうにスマホを見出したぞ。
「次はいよいよ3回戦、ベスト32となりますが……」
「そうですね、ただ、3回戦まで時間がひと月以上開いていますし、その間に僕たちは夏の総理大臣杯を戦うことになってますので」
「そう言えば、明和大学の今季の目標は三冠だとお聞きしてますが、」
「はい、僕達が所属している関東1部リーグ、夏の総理大臣杯、冬のインカレ、この三つを取ることは明和の悲願でもあります。まだ達成したことはありませんので」
「そうなると、当面の目標は夏の総理大臣杯の優勝ですか?」
「はい、僕達は去年は予選で負けてしまい総理大臣杯には出れませんでしたし、関東リーグも3位でした。できれば総理大臣杯と関東リーグの優勝を手に入れたいと思っていますが……ただ」
「ただ?」
すると、一拍置いて司。
「はい、ただ、それ以上に、昨日プロの方と戦ってみて、天皇杯での結果を残していきたいと思いました」
「やはり、大学生とプロとでは違いましたか?」
「プレーの強度、体の当たり一つとっても違ってました……」
うーん、わざわざ盗み聞きするほどの物でもなかったな、さて、どうやって撤収しようか……と考えていたところで、
「では、今期の明和大学の目標は?」と記者さんがインタビューの締めに掛かろうとしたところで、司が指を4本立てた。
「四……四勝、それともベスト4ですか?」
すると司、「いえ、一つ目は総理大臣杯」そう言って人差し指をあらためて立たせる。
「はい」
「二つ目は関東リーグ優勝」同じように中指を……
「はぁ……」
「三つめは冬のインカレ」
「で、四つ目は?」
「天皇杯です」
「四本って……四冠って意味ですか?」
「はい、最後に大学生が賜杯※1を取ってから来年で半世紀経ちます。そろそろ返してもらおうというのが西島監督のお考えです」
……はぁ!!おじいちゃん、そんな事言ってたのかよ!!
無言で拓郎や優斗の方を見てみるが、知らない知らないと言った感じで首を横に振る。
みるといつの間にか木本さんも拓郎の隣にいて一緒に首を振っている。
「えーっと、それって、記事にしちゃってもよろしいですか?」
あまりの大言壮語に記者さんが確認を取って来た。
「もちろんです。念のため帰りに西島監督の所に寄られてみてはどうですか?」
「はい」
そういって、記者さんがニッコリと笑う。
なんの面白みもないインタビューかと思ったら、最後の最後で爆弾発言をブチかましやがった。
すると司、「明和の今期の目標は大学三冠に加えて、半世紀ぶりに天皇杯の賜杯をプロから取り戻すことです。それが西島監督の悲願でもあります」
そういや、その昔、おじいちゃんが現役だった頃、和稲田大学と賜杯を争ったことがあるとか言ってたな。
なるほど、おじいちゃんにとっては50年越しのリベンジなんだ……
ふと周りを見ると、優斗も拓郎も木本さんも、顔を引きつらせて首をかしげている。
そりゃ、そうだよなー。
その時俺は、これは司一流のリップサービスだと思っていたのだ。
そう、この時は……
※1、賜杯=1.天皇や皇族の名義で、競技の優勝者に賜るカップ。
2.天皇などが記念に下さるさかずき。
3.サッカー天皇杯の優勝トロフィーのこと。




