FIFA U-20ワールドカップ その2
「ふぉ、フォワードですか?」と自分を指さす俺。
「ああ」と高柳監督。
「右サイドバックじゃなくて?」
「ああ」
「点取ったりする?」
「ああ」
「…………マジっすか?」
やばい、ちょっと頬が綻んでしまった。
いや、右サイドバックが嫌だってわけじゃないんだぜ。ディフェンスだって嫌いじゃないし。
でも、フットボーラーの本能としてフォワードって言葉の響きはやはりちょっと特別なんだ。
もともとは俺もフォワードの選手だったし、それに代表のフォワードって……やっぱフットボーラーとして目指すべきところはそこじゃないですか。
「妙に、嬉しそうじゃねーかよ、神児」と背後から司。
ヤバッ、俺の心の中、見透かされてるかも……
「そ、そんなことないぞ」
「まあ、いいや、それよりも、山下君達居なくなってお前も感じてるだろ」と司。
「……はい」
「前線から全然プレスかかんねーんだよ」と困った顔の悠磨君。
そうなのである。このU-20日本代表の基本戦術はショートカウンター。
前線からの激しいプレスが真骨頂なのだ。そしてその中心にいたのが山下和馬君と翔馬君。
二人の息の合ったプレスがこのチームの攻撃の合図だったのだが……その二人が突然いなくなった。
おめでとうございます。マリナーズでもそのプレーで活躍されてますね。
それになんかU-23の手倉木監督も二人のプレーに興味津々らしいですよ。
そんなわけで、代わりにフォワードの選手が召集されたけれど、すぐにその代役が見つかるってわけでは無い。
優斗はどちらかというと裏抜けするタイプだし、ポジションで言うと左の選手。そういうプレイはできなくはないが得意ってわけでもない。
三苫君も左サイドのタッチライン際でドリブルゴリゴリタイプだし……つまり、前線からの献身的な守備。
ちょうど、今シーズン活躍する予定のレスターの岡崎さんみたいなプレーを求められているわけですね。
ってことは、アレだ。
「ああ、俺が監督に推薦したんだよ。お前が前線からの守備もできますってな」と司。
そういう司はあまりうれしそうではない。まあ背に腹は代えられないってわけだ。俺が右サイドバックから移ったら今まで見たいに偽サイドバックが出来るわけでは無いからな。
それよりも負けてしまってはしょうがないか……
「ってことは今日のフォーメーションはどうするんですか?」と俺。
「4-2-3-1でトップは悠磨、左から三苫ー稲森ー鳴瀬、んでボランチが大山と岩崎、DFは北里ー森山(拓郎)ー高橋ー林で行く」
「つまり、チャンスが来たら悠磨君と優斗でハメに行けと」
「そういう事だ」と監督。
「という訳で、明後日のウズベキスタン戦までにそれなりの形に仕上げるぞ」と司。
司はいつの間にかこのチームでのプレイングマネージャーみたいな立ち位置になっている。
まあ、サッカーの戦術眼ではこのチームでは右に並ぶものはいないからな……明和でもだけど。
…………二日後、
「でっけーなー」と俺。
「でっけーなー」と優斗。
「ありゃ、何センチあんだよ」と悠磨君。
「まあ、ヘディングは無理だな」と司。
対峙するウズベキスタンのDFラインを見ると180cm後半の選手がずらりと並んでいる。中には拓郎よりもでっかい奴がいる。
一応、対ポルトガル戦を意識してマッチメイクをしたらしいのだが、DFラインに関してはそれよりも手ごわそうだ。
そんなことよりも、まず、うちのチームのフォーメーションが機能するのか、監督からは勝つのも大切だけど、そこら辺の動きも意識してくれと言われている。
ピッチサイドでは、同じグループの関係者なのだろうか、こちらのフォーメーションの様子を熱心にメモっている人が何人かいた。
まあ、非公開って訳でもないんで、お好きにどうぞ。
そんなことを思っていたら「ピーッ」と試合開始の笛が鳴った。
ウズベキスタンからのキックオフ。
ウズベキスタンのフォワードがDFラインまでボールを下げたのを見計らって一気にプレスに入るU-20日本。
悠磨君が雄たけびを上げながら相手のDFにプレスに行くとそれを合図に俺達はボールに詰め寄る。
監督からはキックオフ直後から全開で行けと言われている。どこまでその強度が続くか見てみたいらしいのだ。
お望みならばいつまででもと思っているのだが、この試合、交代は無制限で一旦引っこんだ選手もまた出られるらしい。
どうやらいろいろ試したいのはあちらさんも一緒みたいだ。
すると、リスクを背負ってボールを回し始めるウズベキスタンのDFライン。ここまでガッツリとティキタカしてくるとは聞いてなかったぞ。
たしかに事前に見たポルトガルっぽいっていえばそんな感じだな。ウズベキスタンと言えば潔いくらいの縦ポンサッカーかと思っていたのだが……
すると開始早々、ウズベキスタンのCBが信じられないようなトラップミスをした。明らかにしまったという顔。
慣れないものはするものじゃないの典型だ。
CBにプレスに行った悠磨君は相手からのプレゼントパスを慎重にトラップしてあっという間にGKと一対一。
その瞬間、試合前の悠磨君の言ってたことを思い出した。
「とりあえず、景気付けで一発目、神児、お前がシュート打てよ」……と。
直後、悠磨君からノールックでのヒールパス。俺の目の前にボールがコロコロと転がって来た。
うほっ、いいボール。悠磨君、サンキュ!!
ウズベキスタンのDF陣は悠磨君の動きに引っ張られ、俺の目の前はぽっかりとコースが空いている。
「いただきまーす」
俺はそう叫ぶと渾身の力で左足を振りぬいた!!




