ウォーターボーイズ&ガールズ その2
「ヤッホー、何話してんのー」
突如、翔太が水中から現れた。
「うわっ」と驚く俺と司。
「司君、神児君、さっきから何ずーっと話してんのさ?」と、尚もグイグイ来る翔太。
そういや俺もさっきから、ずーっと気になってたんだけれど、なんで、うちのチームのお疲れ様会に、こいつがいるんだよ?
「ってか、翔太、なんでオメーがここにいんだ?」
ああ、司も同じ事考えてたんだ。
「んっ?だって、ぼくんち、ここの近くだもん」
あ、そりゃ、どうも、すいませんでした。勝手に来てたのですね。
「んで、遥からここのチケットもらってたんで来たんだよ」とVサイン。
「だからなんで、テメーが遥からチケットもらってんだよ!!」
一瞬で怒スジの現れる司。
「えー、だって、毎年、遥のお母さんからもらってるんだよー。ここのチケット」
なるほど、そもそも、俺たちも遥の母ちゃんからただでもらったチケットで来てるんだ。遥の母ちゃんの取引先から毎年大量にここのチケットをもらうらしい。
すると、今日のスポンサーの遥が来た。
「あんたら何話してんのよ」
「ああ、ありがとうな、遥」、「おう、サンキュー遥」
俺と司は遥に感謝を述べる。
「別にいいわよ。家にあっても余るだけだし。ってか、浮き輪にお尻突っ込んだまま感謝されてもあんまりありがたくないんですけど」
そういって遥は司にプールの水をバシャっとかけた。
ものすごいうれしそうな顔になる司。
「なに、喜んでんのよ、きもっ!!」
遥はそう言い残すと、ススーっと泳いで行ってしまった。
「やっぱ遥ってかわいいよなー」と司はしみじみ言った。
「あれ、司君って、遥のこと好きなの?」
いきなりどストレートに来る翔太。
「おう、そうだよ、好きだよ、なんか文句あるか!」
それを真っ向から打ち返す司。
「そうなんだー、僕も好きー」とラリーの応酬が始まった。
「そうなんだ、テメー、いい根性してんじゃねーか」臨戦態勢に入った司。
やめなさいって大人なんだから。
「ありがとー司君」皮肉が全く通用しない翔太。
やだよ、こんなところで流血沙汰なんて。
すると……「あと、司君も好きー」と言って司に抱きついてきた。
おいおい翔太、おまえそっちの方にも興味あったのか!?!?
「ぼくねー、サッカー上手な人好きなんだー」そう言って目をキラキラさせる翔太。そして、「遥ちゃんもサッカー上手だから好きー」と。
そういわれてしまっては、なんだか悪い気がしない司。
「まっ、まあ、そんなことないけどな」と普段の司からは似合わない謙遜をする。
「あのねー、あのねー、司君、僕、お願いがあるんだけれど、」そう言って司の腕に抱きついたまま。
「なんだい、言ってみろよ」まんざらでもない司。
まあ、ビクトリーズのジュニアユースにいた時も、翔太の奴、司にべったりだったもんなー。
「あの、シュートってどうやるの?」
司の昨日決めた左45度のシュートのことだ。そういや、お互い、ペナルティーエリア左45度を得意としてたな。ビクトリーズの時、よく二人で仲良く左サイドを蹂躙してたっけ。
「おう、アレか、翔太、じゃあ、今度、教えてやるよ」と、意外と気前のいい司。あっさりと翔太と約束した。
「ホントー!!、ヤッター!!!」と浮き輪の上にいる司に飛びつくと、二人してひっくり返った。
「おまえ、気を付けろよ、まったく!!」
「あっ、ゴメン、司君、そういや怪我大丈夫だったの?」翔太が司の怪我を心配する。
「ああ、ちょっとひねっただけだ。大丈夫だ」
「ほんと、ちょー心配してたんだ。じゃあ、またすぐにサッカーできるんだね」
「ああ、この後だってできるよ。よかったら、プールの後、そこの公園で教えてやろうか?」
「ほんと、ヤッター、じゃあ、約束したよ、後でねー」そう言って翔太はまた泳ぎに行ってしまった。
「なんだか、随分優しいじゃんか、司」
俺は司の意外な態度に驚いている。
「ああ、あいつと話しているときに思い出したんだよ。俺のシュート、ビクトリーズにいた時に翔太にも教えてやったこと。ほら、俺たちこれからビクトリーズに行くかどうかわかんないじゃん」
「…………あっ!」
確かに、このたった2日間で既にいろいろ歴史が変わってしまった。
優勝したのがビクトリーズだし、遥と翔太が幼馴染だったってのもこの世界の話なだけかもしれない。
それに、翔太が代表戦で左斜め45度から打ったシュートが入った時、一番喜んでいたのはこいつだった。
「ほら、見たか、神児、あのシュート教えてやったの、俺なんだぞ」って……
「ところでさー、司」俺は司に話しかける。
「なんだよ、神児」
「俺たち、これから、どうなるのかなー」
「知るかよ、俺が!!大体巻き込まれたのは俺の方だぞ」司はそう言うと、浮き輪に乗ったまま器用に水を掛ける。
ぱしゃっと俺の顔にプールの水がかかった。
「ゴ、ゴメン」
「ったく、俺としてはさっさと、前の世界に戻って、遥と太陽に会いたいんだから、たのむぞ、神児」
そういわれても、俺が、なにかして、この世界に司を連れてきたわけじゃないし…………
「ってかさ、とりあえず、さしあたって、っていうか、どうすんだよ、サッカーとか、これから先のこと」
俺は目下の懸念について司に相談する。間違いなくこの時代の歴史は変わってしまったのだから、俺たちの昨日の敗戦によって。
「これから先のことねー、まあ、全国大会はこれで行けなくなったのは確定したけれど……中学ねー」
そう言って司は浮き輪の乗ったまんま、初夏の空を見上げた。
俺たちが言っているのは、中学になった時のサッカーの環境のことだ。
ビクトリーズのようなジュニアユースを目指すのか、それとも中学の部活に進むのか……
「ってか、それよりも、俺たち、当分、力をセーブしながらサッカーしなきゃいけないんだよなー」
俺はさっきの話題に戻す。
そうなんだ、未来のことをいろいろ考えたところで、この体を壊してしまっては元も子もない。
しかも、前回よりも怪我をしてしまう危険性が高くなっているのだ。始末が悪い。
それでも、今まで培った知識と技術を考えればトレードオフどころのアドバンテージではないのだが…………
「まあな、イメージはあるけれど、体が付いてってない状況なんだものな、今は……お前だって嫌だろ、シュート打った瞬間、靭帯切れたりすんの」
「……ほんと、あれだけは勘弁だ」膝の靭帯の切れる音。あんなのは人生で一度聞けばそれで十分だ。
「まあ、それに関しては、俺にちょっと考えがあってさ……」そういうと、司はニヤッと笑った。
「なんだよ、お前の考えって……」
「まあ、いろいろだよ。コーチやってた時に考えていたトレーニング方法とかあってさ……まあ、お前も付き合えよ、勉強になるぞ。最終的には、どっちの世界でも指導者になるのが最終目標なんだろ」
「まあ、そうかんがえりゃ、確かにそうか」
すると、その時、クライマーさんからの声が聞こえた。
「オーイ、ミナサン!!、オヒルニナッタカラ、ゴハン、タベマショウ」




