Go Forward その5
すると、いきなり、急造スリーバックに突っ込んでくる空気の読めない元キャプテン。
「いっくよー、神児君!!」と翔太。
「くんなっ!!!」と俺。
けれども、最近、試合に使われなくてフラストレーションがたまりにたまっていたのだろう。前U-19日本代表キャプテンは足元にボールを吸いつけながらグリグリと体をねじ込んでくる。
あいかわらずドリブルの切れはえげつない。ここ数カ月、こいつのドリブルと対峙してなかったが、その間にもドンドンと進化している。
やっば、抜かれる!!と思ったところで、司がヘルプに来てのダブルチーム。すぐさま、右サイドバックの杉本君もやってくると、何とかボールをクリアできた。
「あっぶねーなー、相変わらず」
「まあ、翔太の事だから、最初はお前とデュエルやりたかったんだろ」と司。
だろうなー、けど、こっちはたまったもんじゃない。
そんな感じでボールの行方を見て見ると、おお、優斗が頑張って前線でキープしている。
おー、がんばれーとDFラインで応援する。ってか、ほんと久しぶりだな、CBから試合を見るのは。
と、ここで、とりあえず、上司に確認。
「あのさ、司、行けそうだったら、前線に行っちゃってもいい?」
「まあ、いいけど、ちゃんと戻って来いよな」と司。
「もちろんですよ。司さん」
なんて言ってたら、優斗があっさりボールをカットされると、相手のDFラインからいきなり縦一本が入って来た。
「おおおー、いきなり、そう来るかー」
すると、それに合わせて大学選抜のセンターフォワードが競り合ってくる。
おお、なかなか、ガタイがいいですね。って、どうにかヘディングで跳ね返すとそのこぼれ球を翔太が拾う。って、少しは手を抜けよお前ー!!!
ギリギリ何とかディフェンスするが、セカンドボールをことごとく拾われ次から次へと波状攻撃が止まらない。
見ると、両サイドバックもディフェンスラインに吸収されて気が付くと5バックになっている。
キッツいですー!!
と思ったところで、翔太のシュートの跳ね返りを詰めてきた室田さんに押し込まれて1-0。
うーん、キビシー!!!
というわけで、前半は関東大学選抜with中島翔太に押し込まれまくりでいいとこ無しで2-0。
見ると高柳監督もそしてなぜか司も頭を抱えて考え込んでる。
いうても、俺と健斗と司のスリーバックはそこそこ機能してると思うよ。
でも、両ウイングバックが押し込まれちゃって一方的なサンドバック状態なんだもん。仕方がないよね。
俺たちの代わりに入っていた選手もいきなりスリーバックの両サイドっていう慣れないポジションもあるせいだろう。
ポジショニングもなんだか微妙なんだよね。多分クラブだと4バックの両サイドなんだろう。
「で、どうする、司、後半もスリーバックで行くのかよ?」
「うーん」と腕を組むと「ちょっと待ってろ」そういって監督のもとに駆け寄る司。
しばらくしてから、「後半は4バック」と指を4本立てて司。
「へっ、どうすんの?」
「センターバックはお前と健斗、で、俺は左サイドバック、んで、右はそのまま」
「へーい、了解しましたー」
そんな感じで、後半は4-2-3-1で試合再開だよ!!
すると、ポゼッションは出来るようになったんだけれど、後半10分、あっさり翔太に点を取られた。
カウンターに弱いー!!
どうしたもんだか、なんとか前線の選手も戻って来て守備に奮闘してくれるのだが、いかんせん慣れないポジションで皆さんなかなか連携が取れない。
ってか、後2カ月でU-20W杯よ、大丈夫なんですか!?!?
というわけで、結局4-1で関東大学選抜and中島翔太にボロ負け。
室田さんや翔太から「大丈夫?」と心配される始末。
正直に言います。大丈夫じゃありません!!
ってか、深刻なCB問題。どうすんだ、コレ!?!?
んっ、そういや、1点取ってる!!
といっても、試合終了間際、山下君達と優斗の連携でなんとか1点、意地で取り返しただけなんだけど……
ところで優斗はどうなった!!
優斗に声を掛けると、心ここにあらずと言った感じ。
「どうだった、優斗」
「どうもこうも、ボール全然こーへんやん。僕もずーっとボール追っかけてたばっかだし」
うーん、まいったね、こりゃ。
ここに来て、攻守の柱が抜けちゃったんだから。ってか、富安君も岩山さんも来月の合宿には戻って来てくれるんでしょ!?!?
そんな感じで本来ならば和気あいあいとした夕食後の選手達の自由時間もお通夜モード。
そりゃ、俺達の結束でどうにかなるのならそれでもやる気は残っているけど、主力がことごとく引き抜かれていくこの状況じゃ、気合の入れようがない。
正直、次は誰がいなくなるのかという疑心暗鬼状態。
まあ、U-23からお声が掛かるのならそれはそれでいいんですけどね!!
そんなことを思いながら将棋盤を持ってうろうろーうろうろー、司は優斗を誘って卓球台で山下君達と打ち合っている。
うーん、岩山さんがいないと、一緒に将棋打ってくれる人がいなーいと思いながら周囲を見回していると、
「おう、鳴瀬、よかったら一局指すか!」と悠磨君からお声が掛かった。
「あれっ、悠磨君指せるの?」
「おう、岩山さんに鍛えさせられてるからそこそこ指せるぞ」と。
「ではでは、一局指しましょう」
おやおや悠磨君は振り飛車派なのですね。
そんなことを思いながら将棋を指していると、
「おう、明日の試合どうすんだよ」と悠磨君。
「岩山さんと富安君がいないとやっぱきっついんだよねー。ついでに板谷君もいないし。ってか、そっちはどうなの?」
「こっちはとりあえず、翔太がいなくなっただけだが、お前と北里がサイドバックからいなくなると、攻撃が単調になるんだよなー」
そんなことを言いながら美濃囲いをする悠磨君。
「そういや、うちの優斗はどうでしたか?」
「おう、しっかり前線から守備してくれるし、トラップやシュートも特徴があってなかなかいいぞ。ただ、いかんせん、ボールが持てないんで守備に追い回されてるなー」
「どうしましょ、明日」
「どうすんべ、まったく」
そんなことをしゃべりながらパチリパチリと将棋を指す。
みると、山下君達が試合に勝ったのか例の水鳥のポーズですいすいとダンスをしていた。




