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三月の勝者 その5

 今は、2015年3月3日の午前9時50分。ここは司んちのリビング。


 メンバーは俺に司に優斗に拓郎に武ちゃんに順平に大輔。おまけに遥と弥生と莉子もいる。


 こんな平日の午前中からみんなで集まって何をしているのかというと、勘のいい読者の方にはお分かりだろう。


 そう、今日の午前10時ジャストに今年度の明和大学教育学部の合格発表が行われるのだ。


 まあ、昔みたいに現地まで行って合格発表を見に行ってもいいのだが、万が一誰かが落ちていたら帰りの道中が気まずいと思い司の家のPCで見ることになったのだ。


 ついでに司の家だったら、その後の合格祝い、もしくは残念会でご馳走にありつけるという事で、食いしん坊の我々は合格発表を今か今かと待ち構えながら、司の家のリビングのノートパソコンの前にいる。


 ところで翔太、お前なんでここにいるんだよ?



 そんなことをしている間に時計は午前9時59分。さっきからノートパソコンのブラウザには明和大学の合格発表のページを表示している。


 後は時間になったらブラウザの更新のボタンを押すだけだ。そう考えるとつくづく便利な世の中になったと思う。


 親父の時代には地方の学生のために現地で合格掲示板を見て電報を打つサービスがあったと聞く。


 あれ、もしかしてそのサービス今でもあったりするのかな?


 そんなことを考えていたら「ピピピピピ」とスマホのアラームが鳴った。


「さあ、行くぞ」


 俺はそう言うとマウスのボタンをクリックした。



 ――三十分後、


「それでは、全員の合格をお祝いして、カンパーイ」とおじさん。


 みんなのお手元には白酒ならぬ甘酒が注がれている。うーん、僕はアルコールがちゃんと入った白酒でもよかったんですけどねー。


「はい、じゃあ、お待たせしましたー」


 おばさんがそう言うと、すし桶に入れられたちらし寿司がどーん!!と。


「キャー、きれーい」と遥。

「さすが今日はひな祭りだね」と弥生。

「きれいに盛り付けられてるねー」と莉子。


 今日は桃の節句とあって、お雛様の定番のちらし寿司が出てきた。


 見ると、錦糸卵の間に、イクラやらアナゴやら車エビやらがきれいに並べられている。


 おやおや、時折みえる黒い粒々はもしかしてキャビアですか?


 おばさま自ら北里家自家製のちらし寿司を取り分けてくださると、食いしん坊な我々は、早速美味しくいただきます。


「「「いっただっきまーっす!!!」」」


 おやおや、このアナゴもおうちで炊かれたのですね。ホクホクでとっても美味しゅうございます。


 それに、プリプリの車エビにしっかりと仕事がしてある〆鯵、いくらもキャビアも酢飯にとってもあっているし、何よりご飯の中からごそっと出てきたカニさんが堪りません。


「いやーん、カニがいっぱい入ってるー」とカニ好きの莉子がプルプルと感動で打ち震えている。


「いやー、いい毛ガニが手に入ったからいっぱい入れちゃった。ちょっと多すぎたかしら?」とおばさん。


「いえいえ、そんな事全然ありません」と弥生。


「そうそう、カニ味噌もあるから食べる人ー」とおば様。


「はーい」ともちろん俺たち全員が手を上げる。


「いやー、このハマグリのお吸い物もとってもおいしー」


「この三つ葉が結わいてあってかわいいー」


 やっぱ、桃の節句とあって、女の子が喜びそうなメニューの目白押しだ。


「そうそう、忘れてた忘れてた」おばさんはそう言うと台所に行き、例の金ぴかりんのお重を持ってきた。


「やったー、待ってました。金ぴかりん!!」諸手を上げて喜ぶ拓郎。


「さあ、今日は一体何が入っているのでしょうか?」と大輔。


「なんか、いつもいつも、おばちゃん、すいませんなー」と優斗。


「あっげもの、あっげもの」そう言って上半身でリズムを取る順平。


「別にいつものおかずよー」とおばさんはそう謙遜をいいながら、パカっとお重の蓋を開ける。


 すると一段目は唐揚げのオンパレード。二段目はシュウマイ春巻きエビチリと中華料理のオンパレード。三段目はてらてらと怪しく輝くローストビーフ。四段目には毛ガニのクリームコロッケに黒×黒のメンチカツと特製コロッケ。そして五段目には勝負に勝つと縁起を担いだのでしょうか、ヒレカツやロースかつやエビフライがこれでもかと。


 すいません、おばさま、今日もごちになります。


 次々と箸が伸びるとドンドンと食欲魔人の胃袋の中に消えていく。


 全員仲良く合格とあって、皆が皆、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。


 どうしてお前らはお酒も入らないのにそんなにはっちゃけれるのかがほんと不思議だ。


 すると、司と遥がみんなの目を盗むかのように二人だけですっとリビングから何も言わずに出て行ってしまった。


 おやおや、ちょっと気になるじゃないですか、上司。


 一体二人でなんの話ですか?


 その後二人は、何事もなかったかのようにリビングに戻ってくると、その後は、合格したことを学校やクラブに連絡しなくちゃならないのでてんやわんやになってしまった。


 もちろん家では俺のおふくろと親父が合格祝いを今晩やると言っているので、後ろ髪を引かれる様で残念なのだが、司の家のご馳走はそこそこにして家路に向かう。


 それにしても、リビングに戻って来た司と遥の様子がいつもとちょっと違っていた。


 うーん、ちょっと気になるなー。


 前の世界の時は、司と遥はこの時期にはしっかりとくっついていたのだが、今の世界にやって来て、二人の関係はというと、相変わらずつかず離れず。


 付き合っているのか?というと、うーん、微妙っすねーといった感じだ。


 ところで、お前はどうなのだと言われると、俺と弥生との仲も司と遥たちに比べてどっこいどっこいと言った感じなんだ。


 正直、俺も司もサッカーの方が忙しくてそれどころじゃないって言うのが実際の話だ。


 この後すぐに大学でのサッカーも始まるし、U-19の代表からもそろそろ召集がかかるだろう。


 けど、だからと言って、司の遥に対する気持ちが前の世界からまったく揺るぎが無いってのは、司の近くにいる俺の目からしても疑いようのない事実なんだ。


 前の世界で、サッカーを奪われてしまい抜け殻のようになった司を支えたのは遥だし、それを知っている司が今の世界の遥にこだわるのも十分に分かる。


 それに司に関しては浮いた話というのは前の世界でも、そしてこちらの世界に来ても聞いたことが無い。


 サッカーをやっている時とは正反対位に、司は一途に遥のことを愛しているのだと思う。そして太陽君の事も……


 まあ、だからと言って、俺がおいそれと口をはさむ事柄ではないというのも重々承知している。


 今の遥が知らない、前の世界からの司と遥のことを知っていたとしても。


 ただ、ここ最近、口には出さないが、司からある決意みたいなものが伝わってきているというのもまた事実なんだ。


 俺はそんなことを思いながら司の家を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 司「遥、一緒にツールド沖縄制覇しないか?」 遥「誰がするか!」 あくまで妄想ですが。
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