十八歳だった その2
ここで、「アレ?」……前の世界でお前らが通ってたのって筑波じゃないの?と思った皆さま。よく俺の言ったことを覚えていてくれてありがとうございます。
実は筑波は国立なのでいろいろと融通が利かないところがあるのです。休学とか単位の取得方法とか、二種登録を取得した際のやりとりとか……
まあ、そこはおいおい後で説明しよう。
それに、今回は大学は実家から通おうと思っていたので、そうなると茨城県って遠いんですよ。
というわけで、前の世界でも筑波と散々迷った、私学の雄、明和大学に決めたのです。
サッカー部も強いしね!実家から電車で一本だし。
って、まだ合格すらしてないけれど大丈夫か俺達?
「でも、うちの子、そんなに頭良くないですよ」とお母さん。
「そうや、この前にーちゃん分数まちがっとったんよ」とどうやら宿題でも見てもらっていたのかな陽菜ちゃんは。
「大丈夫です。試験に数学は出ませんから」と自信満々の司。
「あっ、そうなんですか」とほっと一安心のお母さん。やはり優斗は算数が苦手か。
「えー、試験に算数無いのー、なんかずるーい」と陽菜ちゃん。
算数が無くてずるいどころか、前の人生では作文だけで筑波に行きました。なんかどうもすみません。
「まあ、英語は去年、司君達に特訓されて英検2級とれたからやればできると思いますけど……」
そういうとなにやら希望の光が見え始めたのか、だんだんとお母さんの表情も明るくなってきた。
「いや、お母さん、明和の入試って、英検2級持っていると、試験免除で80点の配点をされるんですよ」と司。
「えっ、そうなんですか?」とちょっとびっくりのお母さん。
「ですので、残り三カ月で日本史と古典を徹底的に叩き込めば多分大丈夫です」
「でも、にーちゃん、漢字ちょくちょく間違えるでー」
「ああ、試験もマークシートが殆どですので、そこも大丈夫だと思いますよ」
「そうなんですか!」と声を大にして喜ぶお母さん。
「試験の対策は既にばっちしできていますので後は優斗君のやる気次第です」とやり手の塾講師のような顔になる司。
「正直、成功するかどうか分からないサッカー選手よりも優斗には大学行ってもらった方がその後の人生の助けになると思うんですよ」
どうやらお母さんも優斗の大学進学には大賛成らしい。
「では経済的なことでしたら、奨学金の事も色々調べておきますので、お母さんが優斗の大学進学をご希望なら、僕達も一生懸命にサポートしたいと思います」
「ありがとうね。司君。実はその事で、ちょっと相談が…………」
…………一週間後、
クリスマスも明後日に控えて、八王子の街もにぎやかに彩られている。
ロータリーの中央に備え付けられたクリスマスツリーも煌びやかな装飾を施し、待ちゆく人たちは皆、どこか幸せそうな雰囲気を空気を漂わせていた。
そんな中、俺は司と二人、物陰に隠れながら、優斗の後姿を見失わないように見つめている。
「いったいなんでお前と二人で、このクリスマスクリスマスした街を歩かなきゃならないんだよ」とぶつぶつ俺。
「だったら、お前はついてこなけりゃよかったじゃんかよ」と司。
「ここまで足を突っ込んで、はい、じゃあ、後はよろしくなんて言えるかよ」
「じゃあ、文句言わずにだまってろ」
「はいはいはい」と俺が言ったところで、優斗はポケットから携帯電話を取り出し、誰かと話し始めた。
「よし、ターゲットが動き始めるぞ神児」と司。
おい、お前、もしかしてちょっと楽しんでないか?
優斗に気付かれないように後を付いて行くと、大きなビルの一階にある喫茶店の中に優斗は入っていた。
店に入ってからしばらくして、優斗に気付かれないように俺達も店に入る。
俺はウエイトレスのお姉さんにお願いして、優斗の座っている隣の列の斜め後ろの席に座る。
ちょうど観葉植物が邪魔をして俺たちの姿は見えないはずだ。
すると優斗に注文を取りにウエイトレスがやって来た。
「ココアを一つ」優斗の声が聞こえた。
すると俺たちの前にもウエイトレスのおねーさんがやって来た。
俺は優斗に声が届かぬように「ブレンド」と潜めて言うと、
司は、「えーっと」とメニューを広げてなにやら真剣に選び始めた。
おい、お前、今、どういう状況だか分かっているよな。
そして、「カフェショコラのチョコレートクリーム多めで、あと当店自慢のベイクドチーズケーキも一つ」
……おい、司、おい、司!!
俺がギロリと睨みつけると、
「あっ、すいません、やっぱ二つで」と何を勘違いしたのか俺の分までケーキを注文しやがった。
まったく何をやってんだか……
しばらくすると俺たちの目の前にコーヒーとチーズケーキが置かれてた。
早速フォークをもって食べ始める司。
「おい、神児、これうまいぞ」
このアホタレ!なに人の名前を口出してんだよ!!
俺が声を殺して文句を言うと、やっと自分のミスに気付いたのか、その後は何も言わずにケーキを食べ始める。
けれど、その最中にも「うまっ」だの「意外とチョコショコラにもあうな」だの「これ、お土産に持って帰ろうかな」だのボソボソぼそぼそ独り言をつぶやいてやがる。
もー、おまえ、何しにここに来てるんだよ!!!




