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熱闘!関東大会 その5

 前橋中対桐法中の試合が終わった。


 後半はいくらか落ち着いたとはいえ、結局スコアは5-4で前橋中が勝ち上がった。


 壮絶な殴り合いの末、結果的には前橋中が勝ったが、桐法中も後半のロスタイムまで前橋中陣内に攻め込んで決定的なクロス何本も入れていた。


 勝敗は紙一重の運の差と言ってもいいレベルだった。


 ディフェンスのいいうちのチームといえども、0点でしのげるとは思えない全国トップレベルの攻撃だ。


 やはり、このレベルのチームになると、どのチームも選手クオリティーがずば抜けている。今すぐジュニアユースのレギュラーで通用する選手が何人もいた。


「桐法中かー、戦うとしたら厳しい相手だねー」


「やっぱり、弥生もそう思うか」


「うん。うちの中学が桐法中に勝つための作戦は思い浮かばないけれど、桐法中がうちの学校に勝つための作戦はすぐに思いつくもん」


 弥生とこうやってサッカーの話を掘り下げて話す機会ってあまりなかったけど、こいつも司に負けず劣らずのサッカーオタクなんだっけ。


「やっぱ、両サイドバックの裏のスペースを狙うって奴か」


「うん、スリーバックの一番の弱点はそこだもん」


 まるで当たり前のことを言うように言ってるが、結構レベルの高い話をしているのを弥生は理解しているのだろうか。


「だよなー」


 俺は弥生に話を合わせつつ、司達が待つ競技場に歩いていく。


 八西中が流経中に勝っていることを願いつつ……


 ……5分後、競技場に着くと、スコアボードには八西中と流経中の試合結果が残ったままだった。


 スコアは4-0、前半に1点、後半に3点取られていた。完敗だった。

 俺達は八西中の選手達がいる控室に行く。


 ドアを開けるなり、やはり、お通夜モードになっている八西中イレブン。


 ある程度のこうなる結果は予想していたとはいえ、やはり負ける事には慣れてないチームなだけあって、司や関沢先生が一生懸命に選手達を鼓舞している。


「よー、おつかれー」


 そのくらいしかかける言葉が無い。


「ああ、神児か」司がそう言って、俺たちの方にやって来た。


「試合はどうだった?」


「4-0で負けた」


「うん、競技場のスコアを見た」


「そうか」


「試合内容はどうだった?」


「前半終盤まで0-0で踏ん張ってたけれど、アディショナルタイムに1点取られて、後半控えメンバーに変えてから3点取られた」


「まあ、それだったら、しゃーない」


「でも、4失点なんて久しぶりだからなー、前橋と桐法の方はどうだった?」


「5-4で前橋の勝ち」


「また、随分と出入りの激しいサッカーしてんなー」


「両チームともゴリゴリのサイド攻撃を得意としているチーム」


「あちゃー」そう言って頭を抱える司。


「うちの一番苦手なタイプ」そう言って弥生と一緒に頭を抱える。


 すると、司。


「こっちからも一つ、よくない知らせ」


「なんだよ、司」あんまり聞きたくないなー。


「真人と西田さんがイエローもらった。次の試合出場停止」


「あっちゃー…………」


 こんなんで、本当にあと4時間後に試合なんか出来るのかよ。


「ちなみに拓郎も一枚もらっている」


「……………」


 優斗をはじめ流経中の試合に出場した選手達を見ると、明らかに疲労困ぱいしている感じが伝わってくる。


「これ、下手したら、明日の朝一番でもう一試合しなきゃならないんだろ」


「いや、下手どころじゃなく、多分やるだろ」


 俺達は関東大会のあまりのタイトなスケジュールにため息をついた。


 とりあえず、選手達にはシャワーを浴びさせ気分転換させて、さっさと昼食を食べさせた。


 可能なら30分でも1時間でも仮眠をとってもらいたい。


 その間に関沢先生と俺達で作戦会議だ。


 昼食を取った後、選手達は一旦ホテルに返して、各部屋で休憩をさせる。


 試合開始まであと2時間。


 俺と司と関沢先生はホテルのロビーで桐法中との作戦を練る。


「マジか司……」


「ああ、マジだ」司の目がこれまで見たこともないくらい真剣な目になっている。


「ただ、選手達にはどう説明していいのか」と関沢先生も動揺している。


「ここは俺達で責任を取りましょう」と司。


「でも、そこまで勝負に徹するのか?この中学生の年代で」と俺。


「そりゃ、選手の気持ちになって考えれば納得できないことかもしれないが、怪我のリスクを考えたらこれしかないんだ」と司。


 そうか、司、やはりお前の考えの根っこにあるのはそこなんだな。


 誰よりもケガに苦しんだお前が言うのなら俺はもう何も言わない。


「わかった、司、俺はお前の言うとおりにする」


「ああ、このチームを立ち上げから携わったのは間違いなく北里だ。教員の俺が言うのも恥ずかしい話だが、お前が言ってくれるのならみんな納得してくれるだろ。そして、責任はすべて俺が持つ。で、あいつらにはいつ話す?」


 時計を見ると、14:00を回っていた。


「すぐに全員を集めてロッカールームで話をします」と司。


「俺が先に話した方がいいか?」と関沢先生。


「いや、僕が先に話します。先生は最後にみんなに声を掛けてください」と司。


 …………20分後、ロッカールーム。


「では、今から桐法中のメンバーを発表する」そう言って司の出したメンバー表は、



    〇    〇

    金沢  〇 大友

      和田

   〇       〇

  峰岸 〇  〇 田村

     小川 米本

    〇  〇  〇

    石田 山本 佐藤


       〇      

      池阪


 全員が控えメンバーで構成されたメンバー表だった。


 ざわめきたつ控室。


 すると、一番最初に声を上げたのは優斗。


「ぼ、ぼくも入って無いんかい、司君」


「さ、さすがにそれは厳しすぎるだろ」と竹原さん。


 メンバーの中には都大会はもちろんのこと2次トーナメント以来というメンバーもちらほらいた。


「すまない、全ては明日の第七代表決定戦のために主力メンバーを温存するためだ」


 司が言いづらい事をはっきりと言い切った。


「このメンバーで、桐法中相手に戦えってのか?」と順平。


「そうだ」


 司は瞬きもせず言い切った。


「明日の試合のために、こいつらに負けてこいって言ってるのか?」と武ちゃん。


「そうだ」


 控室の中の空気が険悪になる。


 もしかしたら、明日の試合を待たずに八西中のチームが分解してしまうかもしれない……そう思った時、


「ありがとうな、北里」と三年の金沢さんが、


「はいっ?」と竹原さん。


「俺、稲森に、ポジション奪われて全然出番無かったじゃん。三年最後の公式戦なんだ。花道作ってくれてありがとうな。


 ところで、この試合俺が活躍して桐法中に勝ったら、次の試合俺がスタメンなんだよな」とニヤリ。


「も、もちろんです」と司。


「じゃあ、いい話じゃないか、俺達にとってもラストチャンスだ。そうだろ、みんな」


 金沢さんがそう言うと。


「下剋上だよ」と山本さん、


「伊達にお前らの相手いつもしてるわけじゃねーからな、あんまり俺たちのこと舐めんなよ」と米本さんが、


「まあ、残念だけど、明日の試合無いかも知れないなー、俺達が勝つから」と田村さんが、


 この大会で中学サッカーが終わる三年生達が最後の意地を見せてくれる。


 そして、「なあ、北里、全国に行こうな」と順平の控えを文句ひとつ言わず1年以上にわたって務めてきた池阪さんが…………


 すると、「それでは、八西中の皆さん、グラウンドに出てください」と係員の人から声が掛かった。

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