決戦、韓国戦 その8
韓国選手の誰も彼もがガックリとうなだれてボールをセンターサークルに戻す。
後は試合終了の笛の音を聞くだけだと、俺達もみなそう思っていた。
投げやりな感じで韓国のフォワードがちょんとボールを蹴る。
すると突如、そのボールをかっさらうかのように、コリアンエキスプレスが発車した。
すぐに異変に気が付いた司。
「プレース」と大声を上げる。
時計を見るとアディショナルタイム5分が経過している。
しかしその一瞬の甘い判断が致命的だった。
どこの世界にオンプレー中に時計を見る馬鹿がいるのだ。
日本チームの誰もが「審判よ、さっさと笛を鳴らしてくれ」と心の底から願ってしまった。
一旦気持ちにブレーキを踏んでしまってはすぐに立て直せない。
言葉通り、最後の力を振り絞ったファン・ソンミンの決死のドリブルが日本陣内を突破していく。
「なんでもいいから潰せー」悠磨君が声を荒げる。
「止まれー!!」森田さんがファン・ソンミンの肩に手を掛けるが、一瞬で振りほどかれる。
だが、そのおかげでファン君のスピードが僅かばかり緩まると、富安君、岩山さんと立て続けに襲い掛かった。
しかし、それでもまだファン・ソンミンは止まらない。
まるでラグビーの選手のように二人を引きずりながらズルズルとペナルティーエリアまで侵入すると、ついに二人を振り切り、ファン・ソンミンは最後の力で、日本のゴールに向かって、シュートを放った。
が、最後の最後で俺はファン君に追いつくと、伸ばした右足で、シュートをブロックする。
俺の足に当たったボールが転々とゴール前に転がっていく。
すぐさま司がそのこぼれ球を大きく蹴り出すと、「ピーッ」と、審判が試合終了を知らせる笛を吹いたのだ。
「おぉぉぉぉー!!」と、その場でガックリと跪き、泣き崩れるファン・ソンミン。
見ると韓国の選手達は誰もが泣き崩れていた。
すると日本の選手達も、ギリギリのところで命拾いしたのだと、誰もがその場で腰が砕けたようにへたり込む。
危なかった。
本当に危なかった。
あと、ほんの数センチ、俺の足が間に合わなかったら、俺達が逆の立場になっていたのだ。
「ナイスクリア、神児」と、ようやく司が立ち上がると、命拾いしたといった感じで顔を引きつらせて言う。
「よく間に合ったなー、お前」と冷や汗をたらしながら悠磨君が声を掛ける。
「まったく、とんでもねえなアイツ」と最後の最後で振り切られてしまった岩山さんが、まだその場で泣き崩れているファン君を見て言った。
すると、誰からともなく、泣き崩れている韓国選手達に肩を貸す日本の選手達。
俺もファン君に手を差し出す。
「ナイスファイト」片言の英語だが俺の気持ちは伝わったかな。
ファン君は俺の差し出された手を握りしめると。
「ナイスファイト」と俺に対して言ってくれた。
将来のプレミアリーグの得点王からそう言われたんだ。
これって一生の自慢にしてもいいよな。




