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決戦、韓国戦 その1

 夕食が住んでミーティングルームに行くと、懸念だった中国戦に勝ち切ったというのに、どことなく空気が重い。


 やはり、最後の点の取られ方が悪すぎたのか、でも、あの1点は俺たちのミスというよりも、ヤン・ミン君の執念の賜物と言っていい。


 現に、見学に来ていたJのクラブのコーチたちが、試合後、我も我もと必死にヤン・ミン君をスカウトするために中国チームのスタッフ達と話し合ってた。


 山下君達が卓球で田中君と三苫君のペアに勝ったというのに特に喜ぶわけでもなく、淡々と次のペアに交代している。


 アレ?ここでのルールって勝ち残りじゃないんですか。


 俺と将棋を指している岩山さんも会心の王手飛車取りが決まったというのにあまりうれしそうではない。


 すると、それを見ていた悠磨君。

「なんだよ、なんだよ、どいつもこいつも負けたような面しやがって」と声を上げる。


 そして、「俺達は香港と中国に勝ったんだよ。それの何が不満なんだよ。それともアレか、韓国とは最初から引分けるつもりでもいるのかよ!!」


 悠磨君が中国戦に勝ったというのに必要以上に落ち込んでいる仲間達にカツを入れる。


 すると、「そんなわけないだろ悠磨」と同じ鹿島のチームメイトである岩山さんが声を上げる。


「だったら、別にいいじゃねーか、最後に韓国に勝って全勝で気持ち良く優勝すればよ」と大正論の悠磨君。


「そりゃ、言うのは簡単だけど、相手はあのファン・ソンミン率いる韓国だぞ、そんな楽に行くわけないだろ」とおそらくあさっての試合では俺と一緒にファン・ソンミンの相手をしなくてはならない森田さんが口を開く。


「だったら、最初から俺を出せ!ファン・ソンミンだろうが何だろうが、俺があいつより点を多く取ればいいんだろうが」と鼻息荒い悠磨君。


 すると、そこで司、

「まあまあまあまあ、そんな最後の一点をグズグズ悩むよりも、あちらさんがヤン・ミンを後半センターバックに下げてくれたことをラッキーだと思わなくちゃ」と。


「まあ、確かに」と司の次にこのチームでの戦略眼があるであろう岩山さんが言う。


「たしかにあそこでヤン・ミンを下げてくれて助かったよな」と富安君。


「前に突っ立っていただけでも厄介だったからな」と大竹さん。


「ホント、5-2で勝ったとはいえ、取りこぼさなくて良かったよ」と三芳さん。


「まあ、そんな事よりも、切り替え切り替え、今日の韓国対香港戦のビデオもう一回見よう」と室田さん。


「もしかして、どっかでファンの癖が見つかるかも知れないからな」と中川さん。


 こういう時はネガティブになってもしょうがない。逆に退路が立たれたと思えばプレイに思い切りの良さが出るというものだ。


「そもそも、うちらはイタリアでもスペインでもないんだ。得失点差なんて気にしてたら、逆に変に縮こまって勝てる試合も落としちまう」と岩山さんはキャプテンらしく士気を高める。


「そりゃそうや」と堂口君も賛成する。


「おーっし、話がまとまったところで、翔馬、和馬、リベンジだ」とラケットを振りながら悠磨君。


 そういや、悠磨君と三芳君のペア、山下君達に全く勝ててませんよね。


「懲りないなー」と翔馬君。


「返り討ちにしてあげるよ」和馬君。


 最終戦の韓国戦に向けて、いい感じにチームが開き直って来た。



 翌日は中国戦の疲れを考え、午前中だけの軽い練習をすると、その翌日は、セットプレイやディフェンスの決まり事など最後の確認をした。


 12日間に及ぶ、U-15日本代表の戦いもいよいよ明日で終わりとなる。


 前の世界から数えると、実に24年もサッカーをしてて、初めての代表での大会だ。司だって日の丸のユニフォームを着て戦ったことは初めてだったろう。


 この大会、長かったのか短かったのかよく分からない。もしかしてこのサムライブルーのユニフォームに袖を通すのもこれで最後かもしれないのだ。


「悔いを残さず終えようよな、司」


 明日の試合に備え、既にベッドで横になっている司に声を掛ける。


「ああ、絶対に優勝するぞ、神児」と、凛とした声ではっきりと司は宣言する。


 その声の様子から覚悟が伝わってくる。


「任せておけ、司。そのためにこの世界にやって来たんだからな」と俺。


「頼りにしてるぞ、神児」と司は幾分おどけながら言う。


「まあ、お前に言われちゃしょうがない、金メダル持って帰ってあいつらに見せてやろうぜ」


「ああ、金メダルだ。それ以外は欲しくもない」


「もちろんだ、司」


「あいつらのために……そして、太陽のために絶対に手に入れてやる」


 久しく聞いてなかった司の息子の名前。そうだよなお前は一時だって太陽君の事を忘れたことなど無いのだろう。


「わかったよ、司。あいつらのために、そして太陽君のために、俺は最後まで走り切るぞ」


「任せたぞ、神児」

 

 時計を見ると、既に夜の10時を回っていた。

 

 韓国との決戦まで、いよいよ12時間を切った。

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