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タイタン オブ チャイニーズ その3

 観客席に目を向けると、先制点に歓声を上げている遥たちのすぐ近くで、赤いジャージの集団が冷静に俺たちのプレーを観察している。


 なるほど、あちらさんもうちのチームの偵察に余念が無いのか。


 中国のキックオフで試合が再開する。


 中国は先ほどと同じようにヤン・ミン君の頭に合わせてロングボールを入れる。


 俺達も十分に警戒していたはずだが、ここで中国が勝負に来ていることまで気が回らなかった。


 見ると、ヤン・ミン君を中心に、三枚のフォワードと四枚のミッドフィルダーで一気に日本ゴールに襲い掛かって来た。


 得点直後の一瞬の隙をついてパワープレイで点をもぎ取りに来たのだ。


 中国の覚悟まで、気が回らなかった俺達は、大和田君の必死の飛び出しでどうにかコーナーキックに逃れることが出来たのだ。

 

 しかし、この試合初めて、中国にコーナーキックを取られてしまった。


 中国はここが勝負どころと考えて、センターバックを二枚残して後は全員が上がってきている。


 もちろん、その中心には、ヤン・ミン君が立ちはだかっている。


 これまで、クラブでも代表でも散々コーナーキックの練習をしてきたが、190cmの選手を相手にして練習などしてこなかった。


 日本選手みんなが戸惑った顔で、中国選手のコーナーキックを見守る中、ヤン・ミン君が、その巨体を生かして、ニアサイドに飛び込んできた。


「富安ー」


 中国選手の巧みなスクリーンアウトで進路を塞がれてしまった岩山さんが相棒の富安君に必死に声を掛ける。


 富安君が必死に立ちふさがり、ニアを防ごうと思ったその時、ヤン・ミン君がバックステップをして、ファーに下がった。


 ヤバイ、マークがズレた。


 すると、中国人キッカーは、ヤン・ミン君の頭に合わせるために高いボールをファーサイドに蹴る。


 完璧に揺さぶられた日本のDF陣は必死にヤン・ミン君に競り合おうとするが、頭一つどころか確実に二つ分抜け出ているヤン・ミン君がコーナーキックを確実に頭でミートする。


 何とか、指先でもと小村さんが必死に競り合うが、ファーに流れたヤン・ミン君はなんと、そこから折り返したのだ。


 日本人選手の誰もが虚を突かれたそのパスに誰もついていけてない。


 そして、ゴール前にぽっかり空いたその瞬間を狙って、中国の選手が飛び込んできた。


 前半27分、試合は振出しに戻った。日本対中国は1-1の同点となる。


「しまった。完璧にやられた」と悔しそうに司。


 まさか、中国がここまでセットプレイをデザインしてただなんて想像もしていなかった。


 油断大敵、用心に怪我なしなのだ。


 俄然勢いを取り戻してきた中国イレブン。


 ヤン・ミン君だけでなく、他の前線の選手も積極的にプレスを掛けてきた。


 日本チームが混乱している今がチャンスと見ているのだろう。縦パスだけでなくサイド攻撃も仕掛けてくるようになった。


 しかし、幸いなことに、サイドの選手のクオリティーが低かったおかげで、何度か入れたクロスもヤン・ミン君の頭には合わなかった。


 そしてそのまま、試合は1対1のままハーフタイムに入る。


 控室に戻ると監督から、

「後半は今以上にボールを回して中国の体力を削りに行く。選手交代はトップの南に変わって鈴木、堂口と大竹に変わってと和馬と翔馬。前半の終盤にかけて明らかにヤン・ミンのが消耗してきた。迂闊なファールには気を付けて、試合を決めてこい」との指示が出た。


 司には「北里、積極的に中に切れ込め、後半、お前が大竹に代わってゲームを作れ」と、


 そして俺には、「神児、後半は行けるところまで行け、室田と中川がいる。後のことは気にするな」と。


 監督からは体力の出し惜しみはせずに行けるところまで行けという事だった。


 司からも「神児、頼んだぞ」と。


 後半、日本のキックオフからスタートした。


 見ると中国は5バックに戻して、その中央にヤン・ミン君がいる。


 なるほど、体力を消耗した中国は、後半は凌いで凌いで、最後のパワープレイに望みを託すという訳か。


 そういう事なら承知した。


 その前に確実に息の根を止めてやろうと俺達は決意する。


「ヤン・ミン、センターバックに戻っちゃったね」と翔馬君。


「でも、関係ないよね。ズタズタにしてあげようよ」と和馬君。


 二人の山下君は不気味に目を光らせた。

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