幼馴染の君への特別扱い
久々の短編なので「うーん?」な出来です。
求められてないオチでも怒んないでくださいね(´-ω-`)
あと、季節外れなんかじゃあありませんよ?
私の脳内では毎日がバレンタイン((((
幼馴染として、君の隣にいれる。
これが、他人から見てどれほど羨ましいことなのか、僕には分かりはしない。
君は異常なまでにモテるから、僕の幼馴染ポジションを羨む人もたくさん居ると思う。
幼い頃から隣には君がいて、僕にはそれが当たり前だったから、隣に君がいない生活なんて今となっては想像できないぐらいだ。
そんぐらい『幼馴染』の君は、僕にとって大切だった。本当に、大切な大切な『幼馴染』だった。
だから僕は大切な『幼馴染』ポジションから『恋人』というポジションに変わりたいなんて欲張りなことを願わない。
変に求めて壊れてしまうのなら、このまんまでいい。リスクのある賭けはするつもりはない。
片思いなら、このまんまでいい。
幼馴染のまんまが、心地よいのだ。
◇
二階堂 咲。
彼こそが、僕の幼馴染のイケメンモテ男くんだった。
ちっちゃい頃から、家族絡みで仲良くしてて、まだ本当にちっちゃい頃から、さっちゃんは女子からモテていた。
それは年上、年下問わず。
そんなさっちゃんを僕は隣でずっと見ていた。
さっちゃんのバレンタインデーは、段ボール三箱分ぐらいのチョコを貰うのが普通だった。
もちろん、靴箱には収まり切らないから、バレンタインデーの日のさっちゃんの靴箱はいつも半開きだ。無理矢理詰めた感が、半端ない。
そんな、靴箱に入り切らないたくさんの本命チョコを、僕も一緒になって持って帰るのまでが毎年恒例行事だった。
いつもさっちゃんは、クールだから沢山のチョコを前にして、顔に出して喜ぶようなことはなかった。
それは、嬉しくないんじゃなくて、疎いというか、興味がないからだからだった。
恋にも、チョコにも、赤面の女の子にも、さっちゃんは昔から無関心だった。
きっと、他人を想い想われるよりも、ただ友達と駄弁って馬鹿話する方が、楽しいんだろう。
まあ、恋に疎い分、男友達もさっちゃんにはたくさんいるし、寂しくはなさそうだ。クラスの真ん中にいる、恋には興味のないイケメン男子。さっちゃんはそういうポジション。
彼はいつも昔からそうだった。
「凛、チョコ食べる?」
バレンタインデーの日の帰路にて。
さっちゃんは手に持っているチョコを、僕の方に差し出しながらそう言った。
いつも僕の名前を呼ぶさっちゃんの声色は、包み込むように優しくて、いつもそんな声を僕に向けるから、不意に勘違いしてしまう。
その声色は、特別な人に向けるためのものだと僕は思うんだけどなあ。これだからこの幼馴染は……。ダメだな、これは。色んな意味で。
「もう。そのチョコはさっちゃんが、女の子から貰ったものじゃん。それは、僕じゃなくてさっちゃんが食べるものだよ」
「いや、凛がチョコなくて可哀想だったからさ」
僕の反論に、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべるさっちゃん。『チョコがなくて可愛そう』って…、悪意がなさそうだから、これまたタチが悪い。
さっちゃんは、手に持っていた明らかに本命らしきチョコを僕に手渡してきた。
僕はそれを、渋々、受け取る。
ハート型に縁取ったチョコ。
うーん、この形のチョコは流石に重いし、食べにくい。
どう考えても、僕が食べていいもんじゃない。それに、これにはろくでもないものが、仕込まれてそうに見える。
さっちゃんのファン(と呼んでいいのか)には過激な人もいるから。
僕だって、さっちゃんの隣を歩いてるだけで、様々な女の子から鋭い視線を飛ばさせる。殺気ダダ漏れの鋭い視線を飛ばされるのだ。いや〜、本当にオンナノコって恐ろしい。
いつか、僕の首も一緒に飛ばされるんじゃないかなあ、と思ってさっちゃんの隣を歩いてる。
「それ、食べたら感想聞かせてね」
僕の心情を察する様子もなく、さっちゃんは僕に屈託のない笑みを浮かべて、そう言った。その笑みに思わず、頬が朱に染まる。ダメだな、これは。
僕は、すぐに気を取り直すように「食べないよ、別に」と呟いた。
「いや、なんで」
不思議そうに首を傾げるさっちゃん。この幼馴染は、いちいちの行動が子供っぽい。
「だってこれ、さっちゃんのじゃん」
「まあ、そうだけど。変なとこ真面目だよな、凛って」
不貞腐れたように、寂しいような瞳を揺らすさっちゃん。そんな顔したってこのチョコは食わんからな。
「変なところが真面目ですみませんね」
「拗ねんなよ」
にへらと笑うさっちゃんが、可愛くて絞めてた口元が緩む。
もう。この幼馴染は、本当に、誰彼構わずにこういう顔するんだからっ!
そういうところだよ、さっちゃん。こういうのは特別な人だけにやるもんなの。
誰彼構わずにするもんじゃないよ。
「……?別に、誰彼構わずやってるわけじゃないけど」
「嘘つき、誰彼構わずやってるよ!」
「誰彼じゃなくて、凛だけだってば」
「はあ?もう、本当にそう言うところだよっ!!!」
さも当然のように放たれる爆弾発言。さっちゃんは真っ赤な僕を前にキョトンとしてる。うわあ、サイアク。
「さっちゃん、君って奴は……。はぁぁぁあっ」
「うわ。ため息でっか」
この幼馴染は本当に危ない。色んな意味で危ない。
こんなの勘違いしちゃうじゃん、なんなの?僕を惚れさせたいの?実はとんでもない人たらしおばけ?
ズブズブと幼馴染の沼にハマってる感覚が、僕を襲う。
さっちゃんが僕を見る目はただのいい奴なのに、僕だけが変わってく。僕だけ見る目が変わってゆく。
ずっと幼馴染のまんまでいたかったのに。ずっとこの心地よい距離のまんまでよかった。
僕だけが変わっていく。何も知らなくて良かった、この思いも何もかも全て。変わりたくはなかった。
「おい、凛」
「はやく帰んないと、日が暮れるぞ?」と僕の目をじぃっと覗くさっちゃん。思えば歩くスピードがだいぶ落ちていた。
「たしかに」と適当に相槌を打つ。
ふたりきりで歩く田舎の帰路。周りは、一面田んぼで楽しみのない。誰も人はいない。
そんな風景だから、どうしてもさっちゃんの横顔に目がいってしまうのも、何ら不思議はない。
好きだからとかそんなんじゃない。
「暗くなってるから気をつけてな。じゃ、また明日」
「そだね、また明日」
手を振るさっちゃんに、僕も反射で手を振りかえす。本当は、まだ別れたかなんかはなかったけど、ここからは別々の帰り道になるのだから仕方ない。
こんな面白みのない風景だから、こんな面白くもない毎日だから、目が自然とさっちゃんの後ろ姿を追っていくのも不思議じゃあない。そうだ、不思議なんかじゃないよ。
大丈夫、ただなにかを恋と履き違えてるだけ。
いつか、わかるさ。
この田舎を出て、広い世界に出れば。
きっといつか、わかる。この想いの正体。
「…………わかると、いいんだけどな」
僕は見送ったさっちゃんの後ろ姿に、言葉を吐く。
遠く小さくなってく幼馴染の後ろ姿が恋しい。
「おーい。何が、わかるといいんだ?兄貴」
そんな言葉に反応するのは、聞き慣れた気の強い声だった。しんみりした気持ちも粉々に粉砕される。ああ、これはあれだ。やんべえところを、やんべえ人に見られた。
「うるっさいよ、茜」苦し紛れにそちらを見て言う。
「うるさいとは、自らの妹に酷い言い草だ」とセーターに身を包み肩掛けの鞄を手に持って、我が妹の茜は言った。
うわあ、イチバンめんどくさくて、今イチバン会いたくない人に会ってしまった。
僕が、心からのめっちゃくちゃ嫌な顔をしても、茜は気付いてないようでニヤニヤと話をし始めた。
そんな気にしない鋼のメンタルが僕にも欲しかったよ。
「なーに?咲くんの帰り道の方、見てさっき言ってたよね、兄貴」
ニヤニヤしてる茜。こんな顔されると、言いたくない、認めたくない。
「違う。言ってない、断じて」
そう言う僕に、呆れ顔の妹。
「嘘つけ。そうやって自分の気持ちを誤魔化すんだな、兄貴よ」
茜は「これだから、兄貴は」とジト目でこちらを見てきた。その視線が痛い。そこらへんの過激派さっちゃんファンの女の子より視線が厳しい。イモウトってほんとに怖い。
「どーせ、好きなんだろう?咲くんのことが」
にゃろお、この妹、完全に図星をつきやがる。その発言に、僕は不覚ながらも言葉を失う。
「図星と言ったところか。そんな調子で告白を後回しにしてると、咲くんが誰かと付き合うぞ〜?」
「いや、兄を脅すんじゃないよ」
「脅してないよ。現実の話ぞ?」
茜は、途端に真面目な顔つきになって「本当に言うけど、いつまでも遠慮してっと本当に大切なもの失うよ」と言った。
耳に痛い言葉だ。妹が真剣な顔してる時は、現実的なことしか話さない。
わかってるよ、失うことぐらい。
だって、現在進行形で、さっちゃんは異常にモテる。今にでも告白したい人はいくらでもいるだろう。
たとえ、さっちゃんがモテなくったっていつか失うのは目に見えてる。
じぃっとぼーっとしてるだけじゃ、失うことぐらい高校生なんだしわかってる。中学生の妹に言われなくとも。
「兄貴ってえ、咲くんのこと、ほんとに好きなの?」
茜は今更ながら、事実確認してくる。答えなんてわかってるはずなのに。
「そうそう。好きなの、大好きなの、さっちゃんが」
「そこは認めるんだ」
「だって恋愛的に好きだもん。事実だもん。でも、友愛的にも好き。だから、“いい”の」
「ふーん、何が“いい”の?」
不思議そうに首を傾げる茜。
何が“いい”って、告白しなくたって“いい”の。
僕はさっちゃんを友愛的にも好きだから、ただ幼馴染として安定したポジションを得られる今のまんまでいいって言ってるの。
友愛的にも好きだからさ。その好きを伝えられるこの距離でいい。さっちゃんと何かの特別になんなくていい。僕はもう『幼馴染』と言う名の特別を得てるから。
「はぁん。そういう古典的なタイプの大馬鹿やろーなのね、兄貴は」
「え、馬鹿ってひどない?」
「ごめんな、兄貴。辛い言葉しか掛けられなくて」
「わかってんなら辞めてくれ」
「やです」
なんつー断言の仕方…。酷い我が妹を前に、ため息をついた。
「だって、私がガツンと言わないと兄貴は動きそうもないし」
妹も一緒にため息をつく。まるでため息をつきたいのは私の方だ、とでもいいたげに。
「高校生になってまでなにやってんだよ、兄貴は。このままでいいなんて馬鹿みたい」
「仕方ないじゃん、ほんとに、このままでいいんだから」
「恋愛小説じゃあるめえし」
とやかくそう言ってる内に家に着いた。
玄関ドアを開けようとして、さっちゃんから渋々受け取ったチョコを返してなかったことに気づいた。
「うぇあっっっっ?!?!!!」
思わず謎の奇声を上げてしまった。
やんばい、さっちゃんにこれ、返すの忘れてた。じいっと、手に持っているハート型のチョコを直視する。
やっべ。
「おお、なんだ兄貴。可愛らしいチョコを貰ってるな」
茜は物珍しそうにジロジロとチョコを物色してくる。
「ち、違う。これは、僕が貰ったんじゃない」
「ほへえ?どういうこった」
「これは、さっちゃんのチョコ」
かくかくしかじかを茜に明かした。茜は終始ニヤニヤと聞いていた。この妹は相変わらずだ。
聞き終わった後、茜は
「そーなんだそーなんだ。じゃ、食べればいいじゃん?」
とにこやかに言った。いや、やだよ。
「明日にでもさっちゃんに返すよ」
「ほへ、何故に?!」
「ふつーに、僕のじゃないから」
「つまんな」と吐き捨てる茜。
それから「ほんと、変なところが真面目だよね」と言ってきた。
「それ、さっちゃんにも言われた」
「あっそ」
自分で言ってきたくせに、本当に興味がなさそうだ。茜は、一体、何に興味があって何に興味がないのか、未だ謎だ。
「そんなに食べたくないなら、私に頂戴よ」
そうやって茜はニカッと笑って言う。
え、ん?『私に頂戴』??
「どうせ、食べないんでしょ?でも、咲くんから貰ったんでしょう。ならばくれ」
なんつー、話の成り行き。僕は「あ、はい」茜の勢いに負かされて了承してしまう。
そして、手に持ってたハート型のチョコを茜に手渡した。まあ、さっちゃんはあげるって言ってくれてたんだし、まあいいか。捨てられるよりは、何倍もマシだし。僕は食べる気なかったし。
チョコを受け取った茜は「TY」と言って嬉しそうに家の中へ入っていってしまった。
え、てぃ、TY?
我が妹から飛び出す謎の言葉。何の略語だ?てぃーわい…TY……thank youか。なるほど。最近はそういうのが流行りなんだな。
こんな田舎だし、一緒にいるさっちゃんも流行りには疎いからそういう言葉を触れるのは、妹との会話中しかない。
TYね。
今度、さっちゃんに言ってみよう。きっと、彼のことだから驚くだろうな。驚く幼馴染の顔が楽しみだ。
恋人としてのさっちゃんの驚く顔が見れなくても、幼馴染として近くで様々な表情を見れればいいのだ。
そう、きっと、このまんまでいいの。
誰も傷つかない今のままで。
◇
「ただいま〜」
「お帰り」
母との適当なやりとりをして、二階にある自室へと兄貴に貰ったチョコを抱え階段を登った。
兄貴がくれたチョコは、ハート型の旨そうなチョコだ。なかなか高そうなチョコだなー。これはブルガリとかじゃね?ひええ、こりゃあ食べる宝石の名に相応しいチョコだ。
咲くんは、こんなもの貰っちゃうなんて、本当にモテモテだよなあ。羨ましい。
まあ咲くん、かっこいいし、兄貴を惚れさせるしモテるには申し分の無い人だ。
兄貴は咲くんのこと片想いのまんまでいいなんて、本当に変わってる。
本当に変なところが真面目なのだ。幼馴染のまんまでいいとか、誰も傷つかないならいいとか。
今、この時点でもう、ひとり傷ついてんじゃないか。幼馴染を前に、兄貴自身が自らの感情と格闘してボロボロじゃないか。
そこまでして、『幼馴染』の咲くんが大切で、離れたくないんだろう。
たとえ、自らが傷ついたとしても、ね。
自分の部屋に着いて、ガチャンと扉を閉める。そして、チョコのラッピングを開封しようとした。んー、美味そう。
楽しい楽しい開封の儀をしましょ、開封の儀ぃ〜♬
ん?
開けようとラッピングを剥がしていると、一枚の手紙が挟まってることに気づいた。
すっとその紙を抜く。なんだ、これ。ラブレターとかなんか?
シンプルな白い小さな厚紙に見慣れた丸文字で書いてあったのはーー
……ああ。こいつぁ、やべえ。
◇
ドタドタドタドタドタ
バタン
「これは兄貴が食べろっ!!!!」
とんでもない形相で、妹が入浴中の僕に迫ってきた時はびっくりした。手にはあの例のチョコだ。
「な、なんで」
驚きながらも聞く。
もしかしたら、よからぬものが入ってたとか…?
まあ、何にしろ、入浴中に入ってくるのはやめてほしい。この妹は羞恥がないのかなあ、女としての。
まあ、家族だから僕は別にいいんだけどさ。女としてのさ、羞恥っていうの?ないのかな。
茜はそんなこと気にする様子もなく
「何も言えることはない」
と力強く言って「とりあえず、これはお前が食え」と言い放った。この勢いは何かあったんだろう。不思議と嫌な予感はしない。ま、まあ食べろって言われてるし食べた方がいいんだろう。
「わ、わかった。僕が食べるよ」
そう言う僕にホッと一息ついたように茜は、落ち着いた顔になった。
落ち着いてくれたのは、何よりだけど、その前に…
「僕が食べるけどーー」
「入浴中に入ってくるのはやめてね?」今の僕から、妹に言えるのはそれだけだった。
◇
きっと、兄貴はこの後、ドタドターッと走りながら顔を真っ赤にしてこの部屋を訪れるだろう。あの例のチョコを片手に。
予言者じゃなくても、私にはわかる。
なんたってあのチョコに書かれてた文はーー
ドタドタドタドタ
ガチャッッッ!
「あかねっ!!!」
ほーら、言う通りだ。良かった、あの文の本当の意味に気付いたんだなあ。気付かないぐらい鈍感じゃなくて良かったよ。
兄貴はリンゴのように真っ赤な顔で、例のチョコの手紙を片手に
「う、嘘だよね?」
と言った。
「嘘じゃないだろ、そこにそうやって書かれてんだから」
私は至って冷静を装いながらそう言った。本当は驚くほど動揺してる。良かったね、本当に。
あの紙には、咲くんが書くような独特な丸文字もどきの字で『特別な君へ』と書かれていたのだった。
ずっと咲くんといっしょにいた兄貴だから、この字体で咲くんって気付かないわけがない。
その言葉だけにとどまらず、その下には、小さな字で『こんなことするのは、凛だけにだからな』と書かれてた。
こんな特別扱い宣言、遠回しの告白だ。しかも、ハート型のお高いチョコ。幼馴染にすることではないだろう。
きっと、咲くんも兄貴にーー気があるんだろうな。
兄貴は幸せの滲み出た笑顔で、もう一度
「嘘だよね…?」
と呟いて、あの例のチョコをぎゅっと胸に抱きしめた。
いつか、検索除外されてても怒んないでくださいね。
というか、小説家になろうでは、BLはあんまり活性化してないんですねえ。
不器用な男の子たちの恋が、なろう界に広まりますよーにっ(どんなこと願ってんだよ汗)。