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2件目 パワハラ上司

 えーと……、「このアカウントでは、皆様から寄せられた、スカッとする話を発信していきます。スカッとする話をお持ちの方は、メッセージでご連絡ください。#ザマァミロ」、これでよしっと。


 最近はまた新しい体験談が来るようになったけど、どれもどこかで聞いたことがある話ばっかりなんだよね。なんかもうちょっと、新鮮味のある話がいいのに……。

 


  シュレッダーの刃って

  すごいんですね。

  まるで、油ねんどに

  へらが食い込むみたいに、

  指に食い込んで。



 ……アザミさんのことは、もう忘れよう。

 あれからメッセージも来てないし、深く関わりたくもないし……。


 でも、あれくらいインパクトのある話を載せたら、「いいね」をたくさんもらえたりするのかな……?

 いや、でも、あんな話を載せたら、絶対に炎上しちゃうだろうし……、あ、新しいメッセージだ。


 ひとまず、アザミさんのことは忘れて、このメッセージを読もうかな。

 えーと、なになに……

 

「はじめまして、アザミと申します。いつも楽しく拝見しています」


 え……、アザミ!?

 まさか、あのアザミさん……、あ、でもIDが違う。同じ名前の別人か。


「この間、職場であった体験談なのですが、お役に立てますでしょうか? 僕からの提供ということは、明示しても構いませんので」


 また職場の話か……。

 まあ、聞くだけは、聞いてみようかな。


「アザミさん。ご連絡ありがとうございます、よろしければぜひ、体験談をお聞かせください」


「ありがとうございます。僕は会社の上司に嫌われていて、いつも暴言を吐かれていたんです。役に立たない、だとか、仕事がろくにできない、だとか、今のままだとどこにいっても通用しない、だとか。それで、仕事も雑用ばかり押しつけられていたんです」


 ああ、このタイプはあれか。

 使えないだとか、お荷物だとか言われていたけど、本当はすごく有能な人で、転職したり他の部署に移ったりした途端に活躍する話だ。

 マンネリではあるけど、まだまだ需要がある話の系統だし、このまま教えてもらおうかな。


「そうだったんですか。それは、つらかったんですね」


「そうなんです! でも、そんな上司に、ようやく天罰が下ったんです!」


 適当に同意をしてみると、さっきよりも早くメッセージが返ってきた。

 天罰が下ったってことは、自分が抜けたことによって元いた会社とか部署がめちゃくちゃになる、系統の話かな。その系統の話もまだまだ需要があるから、新しい記事にちょうど良いや。


「あるときですね、上司が僕を資料室に呼び出して、ファイリングした資料の並べ方が悪いって、言いがかりをつけてきたんです。順番を間違えてたところが、ところどころあっただけなのに」


 あー、資料の並べ方は、けっこう大事だったりするからなぁ。


「それで、最初は聞き流していたんですが、段々こらえられなくなってきて……」


 まあ、その気持ちは分からなくもないけど、聞き流していい注意でもないような……。




「頭にきて、資料が入った棚を蹴りつけてやったんです」




 ……え?



「そしたら、運良く十五センチ幅のファイルが、上司の頭に落ちてくれて」



「しかも、角度が良かったらしくて、頭の半分くらいが凹んでくれたんです!」



「いやぁ、本当に面白いくらい凹んでましたよ! それで、上司は鼻と耳から、血とか半透明の液体とかをだらだら垂れ流して」



「しかも、うー、とか、あー、とかだらしなく呻きながら、ビクビク痙攣してたんです!」



「いつも威張り散らしてるやつの無様な格好が見られて、本当にスカッとしました!」



 スマホの画面に、またグロい内容のメッセージが、次々と表示される。


「そのときの画像があるんで送ります!」



 いらない、なんて言う間もなく、画面に写真が表示された。


 うつ伏せに倒れた、頭が凹んで耳と鼻から血を垂れ流した男性。

 頭の周りに広がる血溜まりには、ところどころにベージュ色の塊が混じっている。



「僕の体験談を発信するときは、ぜひ、使ってください!」

 

 

 目元は黒い線で塗りつぶされているけど、こんな写真載せられるわけない。

 

「どうです、僕の体験談、使えそうですか?」 


「そうですね、検討してみます」


「はい! ぜひ! 詳しく聞きたいことがあれば、いつでも連絡してくださいね!」


「そうですね、もし聞きたいことがあれば、そういたします」


 詳細なんて、聞くつもりもないけど、当たり障りのない返信をしておこう。

 たしかに私だって、苦手な上司に痛い目に遭って欲しいなんて思ったことは、ある。

 でも――


「ぜひそうしてください! 多分、探せばもっと写りの良い写真もあると思うんで、必要ならいつでも送りますから!」


 ――血と脳を垂れ流した写真を嬉しそうに勧めてくる人には、深く関わらない方が良いに決まってるから。



「それじゃあ、僕はこれで失礼いたします」


「はい、体験談ありがとうございました」


 このアザミさんも、メッセージの削除だけして、しばらく放っておこう。

 それにしてもこの前のアザミさんといい、事故に見せかけてグロい仕返しをしてる人って、けっこういるのかな……?

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