3 副店長、解雇される!
翌日、彦根の代わりにシフトに出た俺はスタッフルームのコルクボードに掲げてある社告を見て驚いた。
いや、驚くより先に身体が動いていた。
すぐさまスタッフルームを飛び出すと店内を見渡す。目当ての男はいない。
「倉庫か?」そう独り言を呟くとお客さんが怪訝な顔をしてこっちを見た。
どうでもよい。
ずかずかと陳列台の間を抜けて行く。商品の服がちゃんと畳まれていないのが横目に見えたがそれもスルーだ。今現在の俺の最優先事項は目的の人物に会う事であるのだから。
倉庫は店の入口から出ないと入れないので、一度店を出る。
「舞島さん、彦根さんの代わりにシフトですよね? え?帰るんですか???」と声をかけるレジの子に対しても無視だ。
入り口を出て、店のわきにある倉庫までズンズン歩いていくと奴の姿が見えた。
ちょうど倉庫から出てきたところのようだ。
「あれーセイイチ君どうしたのー?」
すっとぼけやがって。いやあ奴の事だ、本当に俺が来た理由が分からない程度には頭が悪い可能性もある。
ズカズカと奴のところまで行くと、流石に鈍感男でも何かおかしいと思ったらしい。
「どうしたの?」
「店長」努めて冷静に声を発することに集中する。
「なに?」
「店長がどうして副店長を解雇されたのか理由を伺いたい」
伊藤店長はとぼけた顔をする。
「解雇じゃないよ、一身上の都合により退職。自己都合退職だよ!」
「宮根副店長が自ら退職を希望する事はないでしょう。彼は社長からも甘やかされていましたしね。なにより転職するまでの繋ぎで現職場で働いている彼が、その転職活動途上で今のキャリアを捨てるメリットはありません。店長がクビにしたんでしょう」
「だーかーらー、店長に社員を解雇する権限はないよね。それは人事だよね?」
「そうさせたんでしょう」
「どうやって?俺は社長に嫌われてるのに?」
おそらく煙たがられているからこそ副店長を生贄にしたんだろう。
「本当の理由が知りたいだけです」
店長は深いため息をついた。ちょうど俺の背後に位置する店の外灯が付いた。
俺から目をそらした店長はおそらく店を眺めているのであろう。
「答えてくれないなら、それでもいいんですよ」続けて言う。
「職場の人間がどうなろうと会社は回りますから」
その一言で40代の伊藤和彦の心が揺さぶられたようだった。
「まあ、セイイチくんは店長いし話そうか。このままだと俺も飛ばされるかリストラだしなあ。店もつぶれるだろうしなあ。スタッフルームの社員の部屋に場所を移そうか」と伊藤は西日を受けて目を細める。
「そうしましょう」そう言って二人で店に戻ることになった。