2 彦根というイケメンではない男
扉を開けると案の定、彦根真だった。
身長は俺よりも高くて185cmもあるのに、声量はまるでベッドに横たわって起き上がる事が出来ないくらい危篤な患者の、口元まで耳を近づけないと聞き取れないくらいの囁きだった。
俺じゃなかったら聞き取れなかっただろうなと、内心泣いていた俺は彦根の登場で勇気づけられた。
「泣いてないわい! お前こそもっと声張らんかい、聞こえんわ」
「聞こえたからドア開けたくせにー」
やり返す言葉が思いつかない。いや落ち込んでいた俺を元気づけたのだから感謝するべきであって、やり返すなど友達失格である。
「恋愛はもういいよ。恋愛のメリットを感じられない」とうそぶいた。
彦根は俺とは目を合わさずに口元をニヤリとさせながら一言。
「楽しい」
「なにが?」
「いじるのが」
「彦根くんはかわいい女の子をいじるのが大好きだったね」
「それ以上の事もね」
俺はため息をつく。
この大学生、顔面はそんなにカッコよくもないのに、現在彼女一人、彼女にしたい人もう一人、キープは三人も確保しているのである。
彦根はコミュ障を疑うレベルで相手の目を見て会話することがない。本人曰く可愛い女の子以外とは目を合わせられないそうだ。逆に言うと可愛ければ欲望によってして、目を合わせられるらしいね。
彦根は身体も大きいし、おしゃれ大好き人間で自信ありそうだが繊細なのだ。
「それでなんかあった?」用もないのにトイレにまで押し掛けには来まい。
「明日、期末試験あるから代わりにシフト入ってー」
「はぁ?3コマだろ?間に合うじゃん」
「明日月曜時間割なのを忘れてたからさ、お願いします・・・」
それはお前が悪い。
まあでも、俺は明日暇だし。
「じゃあ今度何か彦根君のおごりで」
「覚えてたらね」
「俺は絶対覚えてる」
「忘れるよ。じゃあよろしくー」と彦根は相変わらず目を合わせずにそう言い残して去っていった。