『スフ』
「ターリャ、大丈夫か?」
目を覚ましたターリャが辺りを見渡してキョトンとする。
「街?」
「いや、違う」
「だよね。ここどこ?」
「さぁ。俺もわからん」
だけど助かったのは事実だ。
あのまま砂嵐の中にいて無事だった想像ができなかった。
偶然なんだかなんなのか知らんが、助かった。
おまけにこんな冷たくて美味しい水まで手に入った。
すっかり体調が良くなったターリャが辺りを見回している。
「どうした?」
「なんでかな。ここにいると凄い体が楽になる」
「涼しいからじゃないのか?」
ここは涼しい。
アイリスにいた時のような冷たい空気が流れている。
そういえば今何時かと方位磁石を見ると、すでに夕方。
こんな時間に下手に動くのも良くないだろうな。
仕方がない。
「今日はここでキャンプだ」
「いえーい!」
「しーっ、静かに。こんな空間だと響くから」
ターリャが口に手を当てて頷く。
マントにくるまり少し眠る。
俺達は思った以上に砂漠での旅に消耗していたようで、数秒もしないうちに意識が溶けた。
目が覚めた。
目が覚めたということは朝に近いと思うのだが、なにせこの建物は窓が一切なく太陽の位置が把握できない。
とはいえ、この方位磁石で時間はバッチリ──
「……壊れてる」
太陽の位置を示す針がぐるんぐるんしていた。
おかしいな。
昨日寝る前までは壊れてなかったはずなのに。
「まぁいいか。こんな暗闇だったら昼も夜も同じだ」
「んん……」
「起こしたか」
「んーん。目が覚めた。おはよう」
「おはよう」
目を擦りながらターリャが起きる。
顔色が凄く良い。
恐らく魔力が完全に回復したんだろう。
顔を洗い身支度を整える。
水も補充完了。
馬達もヤル気満々。
「さてと、行きますか」
「おー!」
迷宮(?)探検へ!
迷宮探検と意気込んだが、道は一本道だった。
俺のワクワクを返せ。
「ねぇ、門で見た石像が一杯ある」
「そうだな。……これってガーゴイルとか言うのか?動いたら嫌だな」
過去にこんな感じのダンジョン依頼で、ただの飾りかと思ってた石像、ガーゴイルに襲われたことがある。
もしこの高い天井に頭が着きそうになっているこの石像が動き出したらと想像してブルリと身を震わせた。
考えないでおこう。
しばらく行くと扉が見えてきた。
「大きいな」
今まで見たなかで一番大きい扉だった。
石作りで、美しく装飾が為されている。
そんな扉を前に悩んだ。
「行き止まりだな、確実に」
「そうなの?」
「そうとしか思えん」
石作りの扉はあまりにもデカイ。
こんなんゴリラでも開けることができるかどうかわからない。
「ふーん」
そっか、残念とターリャが扉に触れた瞬間、扉の装飾が煌めいて勝手に扉が開いていった。
「え」
「わぁ、開いたよ」
あんなに重そうだった扉があっさり開いた。
何でだ。
意味がわからないけど、先に進むことにする。
中に入るとまたしても広い空間。
今度は水も砂の山もない、火のような明かりが壁から放たれた円形状の空間だった。
反対側に同じような扉がある。
「変な部屋」
「ターリャ、あっちの扉も開くか試そう」
「うん」
さっさとこの部屋を出ようとした時、突然カキンカキンとガラスがぶつかったり擦れたりするような音が聞こえてきた。
それは止むことなく、徐々に増えていく。
なんだ?何処から聞こえてきているんだ?
「トキ!上になにかいる!」
「!!」
上を見ると、さっきまでなかったものが天井に張り付き、そこからライオンに似た半透明の生き物が顔を出していた。
「????」
なにあれ。
ガチャガチャと音を鳴らしているのはあの生物だ。
それは間違いない。
というか、あれはなんだ??
その時、とある記憶がフラッシュバックした。
スフだ。
ライオンの体躯。
鷲の翼。
尻尾は蛇。
目は人のもので、言葉を話す。
体は全てが水晶で出来ていて、竜種とされているけれど、実質精霊に近い。
メリメリ音を立ててスフが水晶ごと天井から落ちて、綺麗に地面に着地した。
デカイ。
下手したら五メートルはあるぞ。
「あのキラキラ動いてる…」
ターリャが俺の後ろに隠れながら指差した。
スフと一緒に落下した水晶が虫みたいに動いて、スフの足にくっついて吸収されていた。
あの水晶は生きているのか。
どうやって動いているんだ?
スフがこちらにやってくる。
水晶の体に壁の光がチラチラ反射して神々しい。
だけど、顔の人の目があまりにも不似合いで俺は恐怖を覚えていた。
瞬きしないからとかじゃない。
なんだろう。この、全てを見通すような不思議な視線。
スフが口を開く。
「『汝は何者なりや?』」
ガラスの擦れる音と共に発せられた音は言葉になって俺の脳内を揺らした。
「……トキ?」
ターリャが俺の様子を見て、声を掛けてくる。
「俺…は……」
「トキ??トキ!!」
もう一歩スフがこちらに前進し、また声を発した。
「『汝は何者なりや?』」
空気が割れていく幻覚が、視界いっぱい覆い尽くしていく。
ひび割れはさらに酷くなって景色が白く混濁していく。
セミが鳴いていた。
カンカン照りの太陽が容赦なく肌に突き刺さり、皮膚を焼いている。
「おい、辰成大丈夫か?一旦休憩さしてもらうか?」
「!」
懐かしい声に思わずそちらを向くと、目の前には友達が。
すぐ近くで水飛沫が上がる。
「なんで……」
鉄格子に囲まれた四角い水場。
その両端には飛び込み台があって、そこから笛の音と共に仲間が水の中に飛び込んでいた。
鐘の音が聞こえてくる。
夏休みだというのに、チャイムは止まらないらしい。
ああ…。
泣きそうになった。
ここは、俺が通っていた学校だ。




