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『蟻地獄におちた』

「んうぅぅぅー……!」


 ターリャの間の抜けたか細い悲鳴が響く。

 しかしそんなの関係なしに太陽はギラギラ照りつけ、気温を上昇させていく。

 遥か遠く、地平線の果てでクジラのような大きさのヒレ付き蛇が跳んでいた。

 なんの妖魔だろう。


「あづいぃぃぃ……、……ひぐっ……」

「…………」


 昨日あんなにはしゃいでいたのが嘘のようだ。

 しかも微妙に泣いていないか?


「…………」

「…………」

「…………??」


 急に静かになった。

 どうしたのかと後ろを振り返るとターリャが寝ていた。

 いや、これは気絶か…?


 ゼウイをUターンさせてターリャの様子をうかがう。

 体温低下していた。

 ダメだな、休憩しよう。









 ターリャに水を飲ませ、体を濡らす。

 これ、街に着くまで水持つかな、と少し不安。


「………………ごめん…」

「いや、しょうがない」


 ターリャの魔力が回復しない。

 それどころか気温が上がる度に魔力が削られているらしく、頻繁に魔力欠乏症になっては気絶(突然の睡魔)していた。

 こうなると分かっていたら、もう少し魔力補充薬を買い溜めてたか、ターリャの魔法を使うのを早い内に禁止にしていたのに。

 いいや、今さら後悔してもどうしようもない。

 こうなってなってしまったのだから、何とかするために考えないといけない。


 幸いにもターリャは少し水を掛けて寝かしてやれば魔法が少しだけ回復する。

 回復して動けるようになった所で移動するというのを繰り返している。


 だが、おそらくこの分だと四日以内には到着できない。

 とするならば次に不安なのは水と食料問題だ。


 念の為にと多めに水を持ってきているけど、この分だと四日ギリギリ。

 俺も水ばかりは“飲まない”を選択することはできない。

 何せルシーとゼウイにも飲ませないといけないのだから。


 困ったな。


 寝ているターリャの隣で考えた。

 こうなったら夜に移動するべきか。

 そうすれば暑さはないし、ターリャの魔力の減りも少なくなくのではないか。


 だけど、それには勿論デメリットも存在する。


 まずは暗すぎて道から足を踏み外す恐れがあること。

 俺の夜目も限度があるしな。


 砂漠の妖魔の中には夜に光を関知して襲ってくるのもいると聞いた。

 魔道具の暗視具を持ってない以上どうしても光はいる。

 軽く詰んでいるな。

 やっぱり砂漠は舐めるものではない。


 ……。

 賭けに出るしかないか。

 魔力切れでターリャが死ぬよりは、多少遅くても夜進んだ方がいい。


「んんー~~……」


 ターリャが目を覚ました。


「大丈夫か?」

「……なんとか、いける……」

「そうか、……なぁターリャ、話があるんだが──」


 ふと、急に風向きが変わり、俺は風上へと視線を向けた。


「最悪だ…」


 砂嵐が迫ってきていた。












 視界は乳白色、または白。ルシー達にも防砂マスクを被せ、一ヶ所に集まりじっとしている。

 息苦しい。

 マントにくるまり、マスクで口周りを保護しているけど、吸っても吸っても酸素が入ってこない感じがする。

 ターリャが苦しそうだ。


 ああ…ここで今までの運のツキが回ってきたか…。


 なんとなくそう思った。

 そうだよな、今まで恵まれ過ぎてたんだ。

 だけど、ここで諦めるわけにはいかない。

 俺はターリャを死なせるわけには──



 ごぽん。



「…………」


 目があった。

 いや、正確には目があったように感じた。


「…は?」


 ゆらりと揺れる影が砂嵐の中を泳いでいる。


 魚、にしては昆虫みのある体躯。

 いやでもヒレは美しく靡いているから魚か?

 そんな得体の知れない影が砂嵐の壁の中から俺達の周りをゆったりと旋回し、様子を見ている。


 ── ソれは 黒龍 かい?


「誰だ?何で声が??」


 ズムンと突然足元が崩れ、体が沈んでいく。


「!!!?」


 驚き、慌ててその場所から逃げようとするけどすでに足は膝まで埋まっていて。

 地面が一気に崩壊した。


「うわああああああああああああああああああああーーーーーーーーーっっ!!!?」


 ぐるんぐるんと体が転がされ、勢いよく滑り落ちていく。

 さながら砂のウォータースライダーというべきか……。

 まさかこれ蟻地獄じゃないだろうな。

 ターリャを抱き抱えつつ現実逃避をし始めた瞬間、突然空中に放り出された。

 正確には、天井の穴から滑り落ちたのだが。


「おわあああああ!!!!」


 どふんとクッションみたいなものに落ちた。


「ぶふぁああ!!?げほっげほっ!」


 ターリャを担いで何とかそのクッションの山から脱出し、口に入り込んだ砂を吐き出した。

 水筒で口をゆすいでいると、近くにあった同じような砂の山から馬が二頭飛び出した。

 良かった。

 無事だったか。


 しかし──


「何処だここは」


 どこかの神殿のようだ。

 石造りの壮大な建築物、俺達は今その内部にいるらしい。


 音が反響する。


 薄暗いけど、壁の中腹がぼんやり光っていて空間の全容が把握できた。

 四角い部屋だ。

 天井はかなり高い。

 てか、よくあんな所から落ちて無傷だったな…。


 見渡すと、部屋の端の方に俺達が今最も求めていたものがあった。


「水だ!!」


 壁にライオンの顔を模した彫刻の口から水が流れ出て、変わった形の囲いに溜まっている。

 すぐさまターリャを連れていくと、安全な水かどうかを確認し、タオルを水に浸して顔や首を拭った。


「ううん…」


 ターリャを横にして、先に水を掬って口に含む。

 痺れも苦味もない。

 腐ったネバつきもない。

 飲める水だ。


 空になった容器に水を入れ、ターリャに飲ませた。


 これで少しは体調が良くなるはずだ。


「さて。ルシー!ゼウイ!」


 二頭を呼ぶと、首を振りながらやってくる。

 体が砂だらけだ。

 マスクを外してまんべんなく叩いて砂を落とすと、ルシーが囲いの下段に溜まった水を飲み始めた。

 それを見たゼウイも真似をする。


「これ、馬用のだったのか」


 なら納得だ。

 これなら人間も馬も安心して水を堪能できる。


 少し休憩と、体を拭い、水筒の水を補充しているときに気が付いた。


「ここ、上と比べるとずいぶん涼しいな」


 ヒンヤリしていて居心地がいい。

 これならターリャの魔力も回復するかも。


 そう期待しながら少し休憩していると、ターリャが目を覚ました。




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