『魔力欠乏症』
初めてこの世界でテントを張った。
「これが、テント…ッ!」
ターリャが設置したテントを見て感激している一方、俺はそのサイズに不安を覚えていた。
「…ギリギリだな」
おそらく、足は確実に出る。
まぁ、仕方がない。
あくまでもこれは寝ている時に砂嵐が来ちゃった用のテントだ。
お試しで買ってみたけど、使い勝手次第では別のものに加工して使うことも検討している。
早速ターリャが寝転んでみた。
「どうだ?」
「天井が低い感じ」
「普段は青空天井か、木の枝だもんな。どれ」
俺も横になってみた。
やっぱり足は出るけど、そうだな、昔を思い出す。
子供の時のキャンプでの思い出。
「昔一度だけこんな感じでキャンプした時、釣った魚とか、肉とか焼いて食べたな」
懐かしい。
「ん?蜥蜴は食べなかったの??」
「まだ極限状態じゃなかったからな」
あの頃、まさか将来異世界で蜥蜴食って生活しているなんて夢にも思わなかったよ。
事実は小説よりも奇なりだ、まったく。
「今も極限状態?」
「今は実に快適だ。懐も暖かいし、自由だし、何より色んな美味しいものが食べられる」
「んふふー!一緒だ!」
モゾモゾとターリャが引っ付いてきてマントを毛布代わりにくるまった。
夜の砂漠はゼロ度近い気温だ。
さすがに寒いのだろう。
俺の腕を抱き締めながらターリャはスヤスヤと寝息を立て始めた。
寝顔を見れば、まだ幼いターリャの面影が残っていて、思わず頭を撫でる。
本日も晴天。
しかし地面には昨日降ったらしい雪が薄く積もっていた。
最も、日が上がったら数分と持たずに溶けた。
「砂漠にも雪なんて降るんだね」
「季節が季節だしな」
アイリスならきっと今頃深い雪に閉ざされている頃だろう。
「雪だるま作ってみたかったな」
「…砂だるまなら作れるぞ」
「手が汚れる」
「わがままだなぁ」
でも分からんでもない。
砂丘の上を歩く。
時折ターリャの水を被りながら進んでいくが、二日目の昼頃に異変が起きた。
「あれ…?」
ターリャが後ろで変な声を出した。
振り返ってターリャの方を見ると少し顔色が悪い。
すぐさまゼウイをルシーの方へと戻らせる。
「どうした?」
「なんか、気持ち悪くて」
「熱中症か!?」
「んぅー……」
慌ててターリャの額に手を当てる。
熱はない。
むしろ低い。
「?」
次にターリャの腕を取って脈を診る。
やや遅い。
「気持ち悪いだけか?」
「眠い…、あとなんでか水を出そうとしたら吐きそうになった…」
「なるほど」
高速でターリャの症状を脳内検索。
熱中症、熱射病、寒暖差における交感神経失調症…、いや待て。
ターリャは何て言った?確か水を出そうとしたらって言ってなかったか?
「もしかして…」
バッグから何かあった為にと買っておいていた魔力補給薬を取り出し、ターリャに渡す。
「これ飲んでみろ」
「なにこれ。青い、なんの汁?」
「魔力を抽出したものだ。味は分からんが良くなるはず」
「んーーー……」
体をダルそうに左右に揺らしながらもターリャは薬を受け取り一口飲む。
「……空気飲んでるみたい」
無味なのか。
不思議そうにしながらターリャはひと瓶飲み干した。
「どうだ?」
「……、ちょっとだけ良くなったような???」
ひと瓶じゃあそんなもんか。
ここでケチってもしょうがないから、残った5本も飲ませるとだいぶ回復したようだった。
そんなターリャの様子で確信した。
間違いない。
これは魔力欠乏症だ。
「喉乾いた」
「はい、水筒」
しかし、まさかターリャが魔力欠乏症を発症するなんてな。
魔力欠乏症とは、文字通り体内の魔力が極限まで低下することで起こる症状だ。
この世界での当たり前に組み込まれているこれは、教わらなくても分かるものらしい。
例えば、空腹になればお腹が空いたと感じて、酷くなればふらつくし動けなくなる。
脱水状態だと喉がカラカラで水を飲みたいと感じる。
体力だってそうだ。
動きすぎれば体力が無くなって動けなくなる。
魔力の場合、魔法を使いすぎると目眩の症状や痺れ、眠気が襲ってくるらしい。
理由としては、魔力が底をつくといくら体力が残っていても動けなくなるかららしい。
最も元より魔力のない俺には関係のない話だけど。
にしても、ターリャがなぁ。
ターリャは人の形をしていてもれっきとした精霊、いや四精獣と呼ばれる精霊の王。
魔力の化物だ。
オウリの話しによれば通常ならば決して魔力が切れることはないと言うが、例外もある。
それは自分に適した魔力が周囲に無いときだ。
ターリャや精霊達は周囲の魔力や“素”と呼ばれるモノを使って魔法を生み出す。
ターリャの場合、周辺の魔力と水分+冷気を消費して水を生み出している。
それがない場合はターリャ自身の魔力を使うしかない。
そうすると、魔力欠乏症になる可能性も上がる。
俺が心配していたのはただ水が出なくなるだけだったけど、まさか魔力欠乏症にまで症状が進行するとは思ってなかった。
これからはターリャの魔法で水を出すのを止めないとな。
魔力欠乏症は重度になると死ぬらしいし。
「ターリャ」
「なに?」
水を飲んで結構回復したターリャが水筒を返してきた。
「街に付くまで魔法禁止」
「えええー!!!!」




