『砂漠越え開始!』
馬を走らせ約二日、砂漠の門と言われるこの辺での最大の街、ミョタッシにやってきた。
この大きな街の先からは砂漠がずっと続いている。
地平線を越えてどこまでも。
思わずピラミッドを探してみたが、もちろんそんなものは存在しない。
ターリャが街を眺めていると、とある場所を指差した。
「ねぇ、大きな川が街の中にある」
「あれはチーグ・チャイメヒという川だ」
「なんて意味?」
「北にある最後の川って意味らしい。この先はずっと砂漠で川が存在しないからな」
「なるほど。これで川も見納めって感じだね」
川があるとはいえ、ここらからもう空気が乾燥している上に砂混じりで、すぐさまターバンを巻いて口許を覆った。
早めに行動しておかないと、すぐに顔がジャリジャリになってしまう。
犬顔と鷹顔の門番の彫像が両脇に立っている門をくぐり、街中に入ると、シンドバッドの世界に入り込んだような感覚に陥った。
「凄いな」
ゼウイから降りて、手綱を引いて歩く。
この辺は飲食店や宿屋が多い。
目的の店があるのはもっとずっと奥の砂漠寄りの区域だ。
「ここでは砂漠用の方位磁石を買うんだよね。その他は?」
「念のために地図をもう一枚買っておく。道が更新されていたら大変だからな」
ここの砂漠は妖魔の活動のせいで道が時折変わる。
だからこまめにチェックしておかないと大変なことになるのだ。
といってもそれはイヤーシャという砂漠のオアシス街に付くまでの辛抱。
そこで砂船に乗り換えて一気に南下するつもりだ。
「にしても、話しに聞いていたとはいえ不思議な感じだ」
街を観察していて素直に驚いた。
いや、噂では聞いていたけど、獣人が多いのだ。
人間よりも多い。
ほとんどが牛科だが、角の鋭い鹿科や、ネズミ、カンガルーのような獣人までいる。
こんなに獣人だらけだと俺達が異端な存在な気分になる。
「トキ、トキ、羽の生えている人がいるよ」
「本当だ」
腕が羽の女性が服を売っていた。
本で見たハルピュイアという種族に特徴が似ていたけど、アレは妖魔だから例えたら失礼になるな。
「しっかし、こんなに種類がいるのなら、ターリャみたいな種族にも会えるかもしれんな」
「うん!わくわくするね!」
そう期待したのがけど、残念ながら会えなかった。
どうやら砂漠は爬虫類科の生息地ではないようだ。
橋を渡りながら下を見てみると、ワニがウヨウヨしていた。
なるほど。
一応一般的な爬虫類の生息地ではあるんだな。
「ふむ」
道具屋で砂漠用の方位磁石を手に取り眺める。
砂漠用の方位磁石は普通の方位磁石とは形から違う。
球体で、針が4つも付いている。
一つはずっと北を指す針。
一つは近くにある磁気狂いを指す針。
一つは太陽の位置を指す針。
一つは近場の街を指す針だ。
ちなみにこの針はぶつかったり邪魔したりはしない。
それぞれが魔法で浮き上がり、それぞれの軌道上で動いているためだ。
なんだろう、俺が昔理科室で見た惑星軌道の模型みたい。
「ねぇ、私はこっちのがいい」
「え?」
ターリャが指差したのはさらに複雑なもの。
いや、ただでさえ針多いのに更に3つ針付いてるし、何処指してんだよ。
「こっちで良いです。一般的なのが無難です」
「やだこっちがいい!」
「だいたいそんな複雑そうなの高いに決まって──」
名札見る。
破格。
「──やっすいなおい」
俺のと桁2つ違い。
なにこの駄菓子的な値段。
なんでこっちのが安いの。
針増えてるのに。
そんな俺たちの様子を見て店員がやってきた。
「ああ、それは先月砂漠で発掘された昔の方位磁石です。つまり型落ちの品です。
ほら、飾り針やら模様やらが多いでしょう?今の方位磁石は無駄を削ぎ落とした洗練されたものですが、昔は変な飾りを加えてガチャガチャしたのを自慢する文化があったみたいです。だからそんなにも安いんですよ」
「へぇ」
要は、これ、拾い物なのか。
いいのかそれ。
「使えはするのか?」
「使えます。余計な針があるだけで重要な針は正常に動いてますから。ほら、この通り」
そう言って店員が俺が選ぼうとしていた方位磁石と比べてみると、重要な針は一ミリの誤差もなく同じように動いていた。
まぁ、値段が安くて使えるのなら俺はなんでもいい。
ターリャが珍しく駄々をこねているし、こっちにしよう。
「じゃあこの型落ちもください」
型落ち方位磁石を眺めてながら歩くターリャが人にぶつかりそうになったので、それとなくこちらに引き寄せた。
「歩きながらよそ見をするな」
「はーい」
言いながら持っていた方位磁石を離すと、麻紐で繋がった方位磁石はターリャの胸元でネックレスの飾りのように揺れた。
砂漠用方位磁石は形が形なもんで、こうやって首にぶら下げる。
俺も下げているんだが、色んなタグがぶさがっているせいで首が重い。
「あとは何買うの?」
「もう一本水を買うくらいだな。今日は泊まらずにそのまま砂漠へ突入する」
「遂にだね!」
「ワクワクするのは構わんが、気を抜かないようにしないとな」
「了解!」
砂漠でもターリャの魔力に異常が無いのかを確認する。
ゴポンとなんの問題もなく生み出される水の塊。
指を入れると冷たい。
あとは、砂漠ど真ん中でも出せるかどうかだが…。
ま、大丈夫だろ。
街中をルシーとゼウイを引いて歩いていると、とある広場に大きな船の模型が設置されている。
「何あれ」
「あれが砂船らしい。俺じゃあ正直海の船と何が違うのか分からないが」
ごく普通の帆船にしか見えない。
強いて言うなら船底に細かい溝がたくさん入っている違いくらいか。
「砂漠の町でアレに乗るんだよね、楽しみ」
「だな」
店が軒を連ねる道を進んで行くと、だんだん建物が減っていき、代わりに五メートルはゆうに超す壁に変わっていく。
地平線から砂漠とは違う変な人工物があるなと思っていたが、壁だったとはな。
ここを往来する人は俺たちを除いて片手で数えられるほど。
この時期は天候が不安定になるらしいから控えているんだろうな。
壁の通路の先に砂の壁が聳え、それが遥か先へと続いている。
遂に砂漠だ。
道が砂になる前にルシーとゼウイの装備を砂漠用に変え、騎乗する。
ゼウイが先頭でルシーが後方。
お互いを眺めの紐で繋いだ。
迷子防止の為だ。
こんな見通しの良い砂漠で迷子になるなんてと思うが、砂漠には砂嵐というものがある。
あれが迷子の原因。
あとは、アレ。
水鉄砲。
知ってるか?砂漠で死んだ奴の死因の一位が溺死らしいぜ、意味わからんよな。
ザクザクと小気味良い音を立ててゼウイが砂の上を歩いていく。
俺用に買った普通の砂漠用方位磁石と地図を見比べながら道無き道を進んでいく。
空は晴天、風は乾いていて容赦なく体をジリジリ熱していく。
初めは楽しげにしていたターリャだったけど、二時間も発つ頃には後ろで「暑い~」と悲鳴をあげていた。
「ターリャ、水でターバンを濡らしてみろ。涼しくなるから」
「ええー、気持ち悪くない?」
「こんなに晴れてるんだ。すぐ乾くさ」
多分一時間もする前に乾く。
「んー、やってみる。えい!」
後ろからバシャンと水の音。
「おおー!本当に少し涼しくなった!」
「ついでに俺のも掛けてくれ」
「わかったよー!」
バシャンと頭が冷たくなる。
途端に体の熱が放出されていく感覚。
ターリャが水の魔法が使えて良かった。
この分ならこの砂漠越えは楽に出来そうだ。




