『腕試し大会⑤』
なんとかここまで勝ち上がってきた。
全てはターリャがティアラを欲しがったからである。
「……でもちょっと疲れたなぁ……」
幸い今は決勝戦に向けての準備があるとかで二時間休憩時間が与えられている。
しかも十分に休めるようにと個室まで与えられた。
食事は軽く、ジャーキーでも噛っておこう。
ここでしっかり食べたら後で後悔するから。
最終決戦の相手は、開会式に見たオーモダズィというTHE・騎士みたいな風貌の男だった。
周りの会話から推測すると、どうやら衛兵達を育てる教官みたいな人なんだとか。
恐らく強いんだろう。
「…………暇だな。ターリャの所行きたいな」
しかし参加者があまり出歩くのは良くないらしい。
ちょっと前に知った事だけど、待機室すぐ上のスペースに出て試合の観戦や物を買うことはできるけど、それ以外は禁止。
理由としては、反則行為禁止の為。
部外者と接触して、大会前に登録した武器、防具情報には載ってない物を持ち込ませない為。
アイリスにはあまり見かけなかったけど、ウンドラには呪具といわれる厄介な代物が存在する。
魔法と似ているけど、それよりも陰湿で人間の呪怨を煮詰めた性能を相手に掛ける、いわゆる呪いの道具だ。
厄介な点の一つとして、解除するのが非常に難しいというのがある。
それに会場全体に危害を及ぼすものもあるので、職員は警戒しているのだ。
テロとかあるらしいしな。
傍迷惑すぎる。
ま、オーモダズィとやらはそんなことしなさそうな男ではあるけど。
セドナと違ってな。
目をつぶって集中するとターリャの位置と状態が伝わってくる。
盾特有のスキル的なものなんだろうけど、結構便利。
有事の際に飛んでいけるからな。
「……ん?」
なんだ?一瞬不安げな気持ちみたいなものが流れてきた。
目を開けてターリャの位置に集中した。
不安げな気持ちがまだ流れてくるが、それは次第に薄くなり消えた。
後でハバナを問い詰めないとな。
「わあ!」
ターリャは目の前の料理に思わず声をあげて喜んだ。
特別に用意された昼食はとても可愛らしかったからだ。
プレートの上には色とりどりのおかずが少量ずつ乗っていて、ターリャの好きな卵菓子まであった。
いつもの奴と違って色が白っぽいけど味は変わらない。
「トキ様にお聞きして調達しました。これを作った料理人が面白い発想だとべた褒めしてましたよ」
「これはトキがこうしろって言ったの?」
「そうです」
「へー!食べちゃうの勿体ないなぁ」
そう言いつつもターリャはスプーンを手にとって食べ始めた。
そんなターリャを見てハバナは感心していた。
先の試合でもそうだったけど、鬼神のごとき戦いぶりにハバナは戦慄していた。
実はハバナはトキの事を少し調べていた。
これはあまり知られてない情報だけど、職員は冒険者の履歴を追跡することができる。
それは犯罪組織関連との繋がりを阻止するためや、大規模な依頼の時の編成を組み立てる際の冒険者のステータスの傾向などを把握するためである。
ギルドに国境はない。
妖魔に国境がないのと同じように、それを対なす存在も国境が障害になってはならないからだ。
だから、ギルドでは他国の冒険者情報を調べることができる。
トキナリ・ホクジョウは北境戦線(※ウンドラでのロングスタ含む戦線の呼び名)で恐れられた名前付きの一人だ。
“フリモ”という。
恐怖をもたらす存在って意味だ。
臆すること無く突っ込んできては敵を薙ぎ倒していく。
ニュトゥヴァ・アイニロ《空喰い》(※ガルア)も恐怖の対象だったけど、一般歩兵はこちらのフリモが何よりも恐ろしかったと聞いていた。
終戦して十年近くたっても、いまだに子供の間ではフリモ倒しという遊びが流行っているほど、ウンドラ人にとっての“恐ろしい者”なのだ。
そんな恐怖の対象としてのフリモ、トキ様だったけど、実際に会うと印象が大分違う。
確かに背が高くて体格も良いが、ターリャさんを見る目付きや仕草を見れば誰もこの人がフリモだなんて思いもしないだろう。
現にハバナだって、フリモ関連の怖い話なんて戦場が見せた幻覚、あるいは話に尻尾や角が付いた(※話に尾びれ背びれと同じ意。)ものだろうと思っていた。
だけど、そうではなかった。
試験の記録を見せてもらっていたけど。
「はぁ……、想像以上でした……」
前までもご贔屓の冒険者さんでしたけど、これからは推しになりそうです。
「どうしたの?ハバナさん」
もう少しで完食しそうなターリャさんが首を傾げて訊ねてきた。
「いいえ、何でもありませんよ」
次の試合ではどういう戦いを見せてくれるのか、とても楽しみです。
楽しそうな顔でハバナさんがパンを食べている。
なんだか解らないけど、楽しそうで良かった。
ご飯を食べ終えて「ごちそうさま」をすると、意識を集中させた。
こうするとトキの居場所がわかる。
いつの間にかできるようになっていたこれは、ターリャをすごく安心させた。
さっきとは違う場所にいるけど、トキなら大丈夫だ。
プレートを下げられ、窓から景色を眺めようと近付き、人混みにアレを見付けてしまった。
「!」
慌てて後ろに下がり椅子の後ろに隠れた。
「どうされました?」
ハバナが訊ねてきたが、ターリャは答える事ができなかった。
心臓がバクバクしている。
黒ずくめのカラスの人達。
前にターリャが浚われた時、鍵を閉めていたのに侵入してきた人達だ。
それが三人。
何かを探すように辺りを見回していた。
ターリャを探している?
「…………ターリャさん?」
「しっ…」
静かにと合図をすると、ハバナさんは口をつぐんでくれた。
それからしばらくジッと身を潜め、もう一度そろりそろりと外を見ると、もうカラス達はいなくなっていた。
ホッと息を吐く。
「何かいたのですか?」
「……うん。怖い人達…。私の事を探していたらどうしよう……」
「……大丈夫ですよ。今ターリャさんはその魔法具を着けてますから」
「あ…」
首に下げた魔法具が揺れる。
そうだ。
これがあれば見付からない。
しかも今は二つも(※一つはトキのを預かってる)持っている。
これ、怖がる必要ないね!
でも大会終わったらトキに報告しないとね!!
「よし!」
椅子に腰掛けた。
「何も恐れることはない!ターリャは頑張るトキを応援するのに集中する!」
「最後ですものね。応援頑張りましょう!」
「うん!」
職員の後に着いて舞台に向かう。
扉から出れば、今までで一番の歓声に包まれた。
反対方向からは最後の対戦相手のオーモダズィが現れた。
手には剣。
笑みを浮かべて俺を見ている。
さぁ、やるぞ!




