『A級盾職誕生』
ターリャに抱き付かれて、体の周りをグルグルと犬みたいに回られた。
どんなお祝いの仕方だ。
誰に習った??
「手続きを行いますので、こちらへどうぞ」
職員が笑顔で案内してくれようとしていた。
その前に。
「ターリャ」
「なーに?」
「さっき上の廊下に人がたくさんいたから、迷子になら無いように手を繋いでおこう。きっと押し寄せてくるかも」
「…わあ。それは嫌だね」
ターリャが俺の手をガッチリと掴んだ。
よし、これで大丈夫。
盾も戻したし、うん。
準備完了。
扉が開いた。
思わず身構えたが、予想していたことは起こらなかった。
いや、野次馬が呆れるほど押し寄せてきていたけど、それは職員達の手によって食い止められていた。
みんな手には杖。
魔術師の職員が多いなんて、やっぱり凄いなここは。
周りの連中が俺に何か言っているけど、全てくぐもって聞こえる。
もしかしてこれも魔法の効果か?
というか、目が怖いな。
できるだけ無視するようにしよう。
先導する職員が話しかけてきた。
「ふふ、凄いですね。みんなトキナリ様を勧誘しようとしている人達ですよ」
「? いや、冗談でしょう」
A級に上がったとは言え、俺は盾職だぞ?
剣士ならまだしも俺なんか誘ったところで使い勝手悪いだろうが。
「冗談なんかじゃありませんよ。なんせ盾職のA級なんてかなり少数ですし、私だって一般用試験でA級になった方はトキナリ様が初です」
「へぇ」
あれ?盾職ってそんな稀少種だったか??
思い返してみたが、俺の知っている盾職のA級の人物が思い浮かばない。
そうか。
そもそも盾職でA級までいって活躍するやつなんて希か。
ん?
「そういえば、試験が始まる前の盾用のなんたらって、なんだったんですか?」
そう訊ねたら、職員が吃驚した顔でこちらを見た。
「え、まさかご存じ無かったんですか!?」
「…えーと、説明して貰っても?」
説明して貰って、納得した。
盾用の試験は、決められた時間に射出される魔法弾を無傷で受けるものだった。
なるほど、そうだよな。
普通、そうだ。
盾職は護るもの。
向かっていかない。
しかもドラゴンならなおさらだ。
盾ひとつでどうすんだよドラゴンなんてよ。
「トキ変な顔してるー!」
「今さら俺の認識していた常識のズレを噛み締めている顔だよ」
「非常識っていうこと?」
「……とは、ちょっと違う。なんだろうな、当てはまる言葉がわからん」
セドナのパーティー時代でも、俺は何だかんだとタンカー以外もこなしていたからな。
主に盾で殴ってた。
そもそも周りがおかしかったんだから、俺の常識がずれるのは仕方ないな。
「でも本当に倒してしまうとは思ってもみませんでしたよ。是非ともギルド新聞に掲載させてくださいね!」
ね!と、圧を掛けてきた。
断ったら後々めんどくさくなりそうだな。
「…………そうですね」
警護付きで一階まで降り、個室に案内されて手続きをした。
さりげなくギルドに所属しないかと勧誘を受けたけど、断っておいた。
今はやることがありますと、そう言って断ったら。
「なら終わった暁には考えてくださいね!」
と、どこぞの青年的なセリフと共に名刺を手に捩じ込んできた。
なんなんだ?
ギルド職員の社訓は『押しを強く!!!』とでも掲げてるのか?
そんな感じでやることやって、しばらく茶菓子でもてなされて待つこと一時間。
「お待たせいたしました!!!」
職員がテンション高く戻ってきた。
初老の男性。
この“会場”の責任者と言っていた。
その責任者が手に持っているのは、A級の証のタグと、贈り物としてのブローチだ。
手に取り眺めると、角度によってさまざまな色に変わる。
魔石なのだろうが、なんの種類なのかわからない。
ターリャが覗き込んで、小さく「わぁ…」と声を漏らしていた。
女の子の方がこういうの好きだもんな。
「こちらを提示されますと、依頼が優先されます。上級の方の特典です」
「ほお、そういうのが…」
「指名もあるんですよ」
そういえばガルアもA級だったな。
あー、だからあんなに指名が入ってたのか。
その他にも色々説明を受けて送り届けて貰うことになった。
「すっげぇ豪華な馬車」
「馬が四頭いるよ!ほら!」
「だんだん怖くなってきた」
俺、こんな待遇ダメだ。
なんでか背筋がゾワゾワする。
「ささっ!お乗りくださいませ!A級様!」
「行こう!トキ!」
「あ、ああ」
馬車に揺られているあいだ、俺はずっと居心地が悪かったがターリャは楽しかったらしい。
ま、ターリャが楽しそうで何よりだ。
街に戻り、ギルドでも何だかんだと引っ張り回されたり勧誘されたりと大変な目に遭い(いくつかの名刺も捻り込まれた)試験の時よりもぐったりした。
もう嫌だ早く宿に戻りたい。
「おい!!そこのA級!!是非とも俺のパーティーに──「すいませんちょっと急いでますので」
ターリャを抱き抱えて宿へと走った。
「トキ??どうしたの??顔色悪いよ???」
「無理無理無理無理無理無理無理」
もう無理もう無理!!俺の事はほっといてくれ!!
物凄い速度で走り去っていくA級の男は、俺の事を一目も見なかった。
「…………」
「おい、なんだあいつ」
「まじでA級か?あれ。見間違いじゃないか??」
「リーダー無視されてんじゃん。ぷっ」
仲間に言われて我に返った。
そうだ。
なんで俺は盾なんかに媚びうろうとしてんだ?
「? リーダー?」
「……すぅー…。作戦変更だ」
「は?」
そうだ。
いくらドラゴンが倒せるからといって、たかが盾にビビることはない。
先ほどの盾の姿を思い出せば、すぐに弱点なんか思い付く。
「近くにいたガキを狙うぞ」
「お?」
「おおー、リーダーが元に戻った」
そうだ。
結局のところ、ずる賢いやつが勝つんだ。
しかも腕が立つ奴ほど足元が疎かになるからな。
笑みが浮かぶ。
「さぁーて、お前ら仕事だ」




