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『決闘・後編』

 セドナが驚きに目を見開く。

 俺の弾き上げに剣を手放さなかったが、激しく動揺していた。

 ああ、そうか。

 始めて見せたな、俺の剣。


「どうした?腰が引けてるぞ?」


 早く、鋭く、重く。

 回転して、貫く。

 必死に俺の攻撃を受けているけど、普段そういう役目は俺だったから不慣れそうだ。

 現に上手く受けられずにギャリリと不快な音を立ててセドナの剣が刃こぼれを起こした。


「おかしい!!なんでおまえが剣なんか扱えるんだ!!?ステータスだってへっぽこだったはずだろ!!!」


 笑うな。


「お前は俺がロングスタ帰りだってのを知らなかったのか?」

「しっ、知ってたわ!だからどうした!!?」

「まさか本当に俺が逃げ足だけで生き残ってたと思っているのか?お前がよく周りに言っていたのはロングスタ戦最後の大襲撃(スタンピード)の事ばっかりだったもんな」


 刃こぼれがまた一つ。


「なんで俺があの町でお前に、いや、“あの街の人達に手を出せなかったか”わかるか?」

「…っ」


 火花が散る。

 思わず口がにやけてきた。


「全部は知らないが、俺が絶対に手を出さない確証はあったって感じだったよな。…ああ、そういや前ギルド長セルダさんが酒の飲み過ぎか何かで倒れたって辺りからだよな、町の奴らの態度がおかしくなったのは」


 それまでは本当に普通だったのだ。

 むしろ少し避けられていたりもした。

 それは俺がこの国の人間じゃないからってのは勿論、戦線帰りだからってのが大きかったようにも思う。

 人間、戦場で敵とはいえ大量に人を殺してきた奴と関わりたくはないだろう。

 ちなみにその頃の俺はある程度話すことはできても、文字を読むことは全くできなかった。

 精々、タグに記載されている俺の名前の音らしき記号のようなものを見よう見まねで描き写せる程度だ。


 それが、その前ギルド長であるセルダが酒屋でお酒の飲み過ぎで倒れたと聞いた。

 その飲み会にいたのは現ギルド長とギルド管理職メンバー、そしてセドナ。


 その辺りからだ。


 ギルドの連中が俺を見下し、生活が困窮するほどの嫌がらせするようになった。

 ギルド内でそんな空気が出来上がった頃、だんだんと町の連中にもそれが広がっていった。

 当時はなんでこんなにも態度が変わったのかわからなくて困惑するばかりだったけど、今ならわかる。


 要は、自分よりも怖い存在が絶対に手を出してこないという確証が得られたから、安心していじめることができたわけだ。


 それは俺が異国人ってのも原因の一つだろう。

 おまけに聞いたこともない名前の国の出身。

 それだけでもいじめる理由は充分だったんだ。

 奴らにしてみたら、絶好のストレス解消の獲物だ。


 勿論俺も最初は抵抗しようとしたが、できなかった。


 前ギルド長が、俺を冒険者に登録する時に交わした契約書のせいだった。


 交わした時これは何のサインか訊ねたら、「町の人達が君を安全だと思ってくれる証だ」と言われた。

 その時はそうかと納得していた。

 戦線帰りは怖い。

 だけど、俺が自分勝手な理由で武力を酷使しませんと書面で書けば安心するならと、サインした。


 とんでもない話だった。


 あれは簡易型の魔法契約書だったのだ。

 魂に刻むものではなく、書面でだけど、契約に背こうとすると力がでなくなる効果があった。


 登録破棄で投げ付けられた書類に混じっているのを見つけて、改めて読んだら笑ってしまった。

 俺が交わした本当の契約内容は“サインをしたものはこの町の住人と見なされた者に一切抵抗しないと契約します。同時に万が一の事がないよう、全ステータスを条件付きで低下させます。”というものだ。

 倒れたあと脳の血管が切れたとかでボケた前ギルド長が何を考えてこんな契約を結んだのか、今ではもう分からないが…。


 地獄だったよ、本当にな。


「大方、予想ではあるが、前ギルド長が大量に飲んだか飲まされたかで俺の契約内容を漏らしたんだろうさ。お前はあの時俺の事を鬱陶しがってたもんな。…ああ、さては現ギルド長と組んだか?泥酔させて重要な情報を引き出そうとしたのか?」


 セドナの顔色が悪くなってきている。


「よく叔父である前ギルド長を嵌めることができたもんだ。根っからのクズだな」


 俺の振った剣がセドナの剣にヒビを入れる。

 俺は笑った。

 今までで最高で凶悪な笑みだ。


「残念だったなぁ、セドナ。もう契約書は燃やした。俺は呪い(契約)から解放された。


 …ようやく、思い描いていた願いが叶う」


 押さえ込んでいた殺気が溢れ出る。

 何度も何度も脳内でシミュレーションをしていた。

 俺は戦線帰りの化物だからさ、躊躇いはない。


 セドナの剣が、俺の剣によって折られた。


 ひゅっとセドナの喉が鳴る。

 だが、様子がおかしい。

 怯えながらも口がにやけていた。


「ここで終わると思うなよ!!木偶の坊!!」


 セドナの指輪とブレスレットが砕けた。

 途端にセドナの切れ掛けていたスキルが回復し、更には違う剣がセドナの手に握られていた。

 ポーチからポーションを取り出し飲み干せば、セドナの顔色が一気に良くなった。


 …なるほど。

 ただのバカではないってか。


 身に付けている装飾品、その大半が魔法具だったらしく次々に発動させていく。

 きっとセドナのステータスは大幅に上がっていることだろう。


「調子に乗るんじゃねえええええええ!!!!お前は一生地べたを這いつくばってればいいんだよ!!!!」


 何の魔法具か、魔力が視認できるほどに膨れ上がっている。

 空気がビリビリ震え、セドナの動きが二倍どころではない速度になっていた。

 その魔力が剣に集まっていく。

 同時に回復した全スキルをこの攻撃に注ぎ込むだろう。


 俺は剣を中段突きの構えを取った。


 セドナが笑う。


「攻撃方法がまるわかりなんだよバーカ!!!剣ごと叩き折ってやる!!!」


 セドナの攻撃がきた。

 まるであのドラゴンの攻撃のようだった。


「…残念だったな、セドナ。それはもう“体験済み”だ」


 俺は突いた。

 まっすぐ、狙いを定めて。








「げはっ…!なん"、で…!?」


 セドナが血を吐いた。

 胸には俺の剣が深々と突き刺さっていた。

 振り下ろされていた剣の刃は綺麗に砕けて地面に散乱している。


「さぁ?なんでだろうな?」


 ビクビクとセドナは痙攣して、死んだ。

 なんとも呆気ないもんだ。


「勝負あり」と、姿を消していた魔術師が近くに現れた。


 剣を抜くとすぐに地面に転がったセドナの体が光に包まれて元の状態へと戻った。

 目を開けるや、セドナは胸に手を当て、次いで俺を見上げて叫び声をあげた。

 ズボンを濡らし、一刻も早く俺から離れたいとするが、腰が抜けたのか地面を引っ掻きながらもがいていた。


「…俺の勝ちだよな」

「はい」


 魔術師が契約書を手放すと、俺とセドナの前に契約書がやって来た。

 セドナの要求内容が書かれた俺の契約書は炎が上がって消滅した。

 そして、セドナの方の契約書は光になってセドナの体の中に吸い込まれた。


 これで契約完了だ。


 さて、どうなったのか。


 ガチガチと歯を鳴らす程震えているセドナの前に回り込むと、幽霊でも見たのかと思うほど怯え散らして口から泡を吐いていた。

 魔術師がやってきて説明を始める。


「貴方と、その関係者に関わろうとすると、今回の勝負で特に恐怖した光景が脳内に痛みごと甦って恐怖を呼び覚まします。これで関わることはできないでしょう」

「英雄のあれはどうなる?」

「体の痺れと、あと舌が強ばって上顎に張り付いて呻き声しか出せなくなります」


 …うわぁ。

 淡々と述べる魔術師に俺は軽く恐怖した。

 そんな感じなんだな。

 魔法契約は軽々しく交わすものではないと思い知った。


「トキー!」


 ターリャが駆けてくる。

 そのままジャンプしてきたので空中でキャッチした。


「おめでとう!」

「ああ、ありがとうターリャ」


 その後ろからガルアとジョコーさんがやってくる。


「やったな、トキ」

「ええ。ガルアさんのおかげです」

「おつかれさま」


 すっかり顔見知りになった近所の人達の賛美の言葉を浴びながら、ふとセドナの方を見ると、セドナの方には仲間は誰も来ない。

 いや、来てはいるけど、できるだけ近寄りたくないって感じの所で止まっていた。


 アンリとエリカはセドナに冷ややかな視線を向けていた。

 二人して大きな溜め息を吐くと、セドナに向かって汚物を見るように袖で顔を隠した。


「マジ失望したわ。漏らすとかキモ」

「だよねー、ちょー臭いわ。はぁーあ、付き合ってあげて損したわ。帰ろエリカ」

「そうしようかアンリ」


 そうしてアンリとエリカは「良い金蔓だったけど今回のでマジ無理」とか言いながら去っていった。


 ヤァドがセドナの前に来てしゃがみこんだ。


「いやー、なかなか面白い見世物だったっすよぉーセドナさん」

「…ヤァド、立たせてくれ」


 セドナがヤァドに向かって手を伸ばす。

 しかしヤァドは手を取らずに何かを考える仕草をすると、何を思ったのか盾に頬擦りをした。


「セドナさん!良い盾買ってくれてありがとっす!んじゃ!またどっかで会ったらなんか奢ってくださいね!」


  そういうとヤァドは立ち上がり、そのままスキップで群衆に紛れてしまった。


 顔色を無くしたセドナがすがるようにボイドに目を向けた。

 ボイドはセドナに一瞥をくれ、一言。


「英雄の甥じゃないお前には興味ない」


 それだけ言ってセドナの剣を踏んで去っていった。

 セドナは放心状態でボイドが去った方向を見詰めていた。


 結局は、奴らもハエだったわけか。


「じゃあな、セドナ」


 もう会うことも無いだろう。


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