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『分岐点』

「探し物はなんですかー。見つけにくいものですかー。鞄のなかも机のなかも探したけれど見つからないのにー」


 ターリャがルシーの上で歌を歌っている。

 歌詞もうろ覚えだったけど、なんとか覚えていた歌は全てターリャが覚えてしまった。

 今では暇なときなどに適当に歌っている。


「ターリャ嬢は歌がうまいな」

「んふふ、でしょ?トキが教えてくれたんだよ!」

「ほー?では歌の師匠であるトキさんは更に上手そうだな」

「歌いませんからね」


 三人になった旅は、思ったよりも快適だった。

 ルシーにターリャと荷物を乗せて、俺とガルアが徒歩で移動。

 獲物を見つけるや即座に狩り、捌いて血抜きを済ます。


 現役冒険者とあって、手慣れていた。

 それに。


「はぁ!!」


 武器の大半を使いこなせる戦士職らしく、獲物によって武器を変えて効率よく捕獲していた。

 同行者となってすぐに近くの町で剣、槍、ハンマー、弓の四種類購入したときは『なんだこの人』と少し引いていたが、今では。


(やべえなこの人)


 と尊敬の念が生まれつつある。

 器用にも程があるだろう。


 俺も少しは剣を扱えはするけど、いやはやレベルが違う。

 きっと俺よりも高ランクの冒険者なのだろう。

 だからこそ方向音痴が残念すぎる。

 ここは見たことあるかもしれないと言い出したとき、試しに道案内を任せてみたら案の定反対方向へと歩き出していた。

 やはり英雄っぽくはない。

 きっと同名の他人だ。

 そう思い始めてからは気が楽になった。


 短い期間だったが、色々話した。

 といっても基本的に冒険者話だったが、戦士職の冒険者話は面白く、勉強になった。


 例えばここの地方の妖魔の分布、竜型(竜種とは異なる、竜の形に似た妖魔。飛竜とも異なる)の動きや攻撃の特徴だったり。


 俺は竜型も竜種もクエストでは退治したことはなかった。

 勿論遭遇したことはあるけど、逃げ回るくらいしかできない。

 今竜種と遭遇しても、小型ならなんとかいけるかもだが、中型くらいからは逃げたほうが良いだろう。

 明らかに分が悪い。


 そんなことを愚痴ったら。


「色によって投げるものを変えたらいい」


 と言われた。


 緑なら貴金属。

 赤ならティヌペチオ石(いわゆるドライアイスみたいな石)

 青ならキューナンブ石(半永久カイロみたいな石)


 などなど。

 それを投げると、竜種は一瞬それに意識を向けるらしい。

 好物、もしくは弱点の為に、本能が強い個体はまずそれを捕獲か排除しようとするらしい。


「香油もいいな。ハッカとかだと、獲物の血の匂いと混じって混乱するらしい」

「へぇ」


 これは良いことを聞いた。

 戦う気はないけど、万が一の時に役に立ちそうだ。


 ターリャもずいぶん懐いた。

 俺の側にはずっといるけど、好物の飴をことあるごとに手渡したり、獲物を狩る姿を目をキラキラさせて見ている。

 俺は基本守ることしかできないから新鮮味もあるようだが。


(もしかして、盾よりも剣のが良かったか?)


 国境を越えたら、お試しでちゃんと剣の稽古もつけてやるか。









「さすがに、ここからは迷子にはならないな」


 と、ガルアが地平線に見える街を見詰めながら言う。


「本当ですか??」


 信用ならない。


「昨日、火が見えるのによそ見して迷子になり掛けたのに?」


 ターリャもそう言った。

 黙るガルア。

 この人、“重度”の方向音痴と判明してからは、移動する際は常に俺かターリャのどちらかがつくようにしている。

 さすがに目の前の街直前でまたしても迷子になられたらどうしようもない。


「ちゃんと送り届けてから、俺達は行きますから」

「……毎度すまんな」

「いえいえ」


 と言うことで街に送り届けた。

 街の前で馬が俺達を見詰めていたのはビックリしたけど、ガルアが「キアハー!!」と嬉しそうに駆け寄っていった。

 逃げた馬だったらしい。

 よくあんなところから一頭で帰ってこれたものだ。


「さて、任務完了だ行く──「おーい!せっかくだ!!お礼もしたいから泊まってけ!!」──仕方ない。ターリャ行こう」

「やったー!お泊まりー!」


 せっかくの好意を無下にはしない。








 ガルアの家は、ここら辺の家と比べてわりと普通だった。

 庭が広いのと、大きな倉はあるけど、それだけ。

 うん。

 やっぱり他人だ。


「大きいね!何が入ってるんだろ?」

「なんだろな」


 倉のイメージは、こう、ごちゃっとしてて鑑定団に出せるお宝が眠っているくらいしかない。

 この世界に鑑定団がいるのかも知らないけど。


 先程から外で待っているのは、先に帰宅したガルアが奥さんらしき人に怒られてるから。

 そうだろうな。

 一週間ちょっと迷子になってたんだ。

 怒られるに決まっている。


「トキ、ガルア出てきた」


 やっと終わったようだ。

 頬を腫らせながらヘラヘラ笑ってる。

 奥さんに殴られたんだろうか。

 強い奥さんだな。


「いやー、ははは。待たせましたー!どうぞどうぞ入ってください。俺がルシーを馬小屋に繋いどくから、どうぞ遠慮なく」


 ガルアの腰が異様に低い。

 どんだけ怒られたんだろう。


「では、お邪魔します」

「お邪魔します!」


 ルシーを連れていくガルアを傍目に、開いた扉から中に入った。

 すると、凄くきれいな方がお出迎えしてくれた。

 その人の手にはフライパン。

 …なるほど。


「いらっしゃい、お二人さん。うちのバカ旦那をここまで案内してくれてありがとうございました。たいしたおもてなしはできないけれど、料理には自信があるからどうぞたたくさん食べていってちょうだいな!」


 ガルアの奥さんが腕捲りしながら言う。

 これは楽しみだ。


「ええ、ありがとうございます」







 奥さんの名前はジョコーさん。

 元冒険者(鈍器職(ハンマー))だったらしい。

 道理で強いはずだ。


「ご飯美味しい!!」

「うふふ、嬉しいわ。たくさん食べてね」


 ご飯は、絶品だった。


「それにしてもまさかこんな怪しい人を助けてくれる人がいるなんてビックリしたわ。ごめんなさいね、目を離すとすぐいなくなるから大変だったんじゃないかしら」

「ははは…」


 笑うしかできない。


「大丈夫。トキと交代で見張ってたから」


 ガルアの為にも笑ってごまかそうとしたら早々にターリャにバラされた。

 子供は素直である。


「あらまぁ!もう、あんたはこんな小さな子にも迷惑を掛けて!」

「いやそん、やめてやめてフライパン反対!!」


 危うく夫婦喧嘩第2戦が始まるところだった。

 危ない危ない。

 ちなみにガルアはいつもは一人で依頼を受けるのだが、何故こんなにも方向音痴なのに目的地に着けるかというと、馬のキアハがこの辺りの地理を全て覚えていて、目的地を伝えたらそこへガルアを送り届け、用事がすんだらこの街に戻ってくる事が出来るからだそう。

 なんて有能な馬なんだ。


 けれど今回は逃げてしまったからこんなことになったのだが、逃げた理由が『この辺りで目撃情報が相次いでいるハグレ竜種の咆哮を聞いたから』だそうで。


 竜種の咆哮はほぼすべての生物を怯ませる効果がある。

 スキルみたいなものだ。

 よほどの強者か、変わり者でなければ逃げるのは仕方ないと言える。


 実際に聞いたのは、結構昔だけど。

 ヤバかった。

 気付いたら体が動いていた。


(それにしてもハグレ竜種か。念のため香油を買っておいたけど、気を付けないとな)


 そんなこんなで軽く酒も入って話に花が咲き、夜も更けたところで貸してくれた部屋で眠った。

 さて、明日からひたすら山登りだ。

 頑張らないと。








 朝、準備を終えて街の門へとやってきた。


 ルシーの調子もいい。

 しかもガルアが馬の餌をたくさん分けて、お下がりだがと、使い古したマジックバッグに詰めてくれた。

 俺が持っているものも合わせて余裕で持つ。


「ガルアさん、お世話になりました」


 門まで見送りに来たガルアにお礼をいう。


「なぁに、それをいうのは俺のほうだ。何て言ったって命の恩人さん達だからな。ああ、あとターリャ嬢にも渡そうと思ってたものが──」

「?」


 ターリャが首を傾けた。


 ガルアがポケットの中をまさぐり、あるものを取り出した。


「わあ、綺麗…!」


 ペンダントとブレスレットだった。


「両方とも飾りに魔石を施している。効果は、魔力補佐と、護身と、幸運だな。そのまま着けていても良いし、いざとなったら売れば金になる」


 ターリャが受け取り、早速着けてみた。


「どう?」

「凄い似合ってる」


 ターリャの色彩に合った青系だから馴染む。


「ありがとう!」

「どういたしまして。さて、二人に幸運を!」

「ええ。ガルアさんも」







 ターリャが後ろを振り返り、どこか寂しそうに「小さくなっていくね」と、遠ざかる街を見て言った。


「そうだな」


 何だかんだと三人旅は賑やかで楽しかった。

 ガルアの明るい性格や、ターリャが獣人とバレた時の対応も含めいい人だった。

 普通、獣人とバレたらわりと見る目や対応が変わるもんだけど、ガルアの場合なにもなかった。

 それがターリャに懐かれた要因の一つだ。


「用事が終われば、ここにも寄ろうか」

「うん!そうしよう!!」


 お土産話を持って酒を飲もう。

 きっと楽しい。






 道がだんだんと荒くなってきた。

 草が繁り、道も消えていく。

 もう少し奥に行けば、ガルアが教えてくれた山道に出る。


「ここだな」


 踏み均された広めの獣道。

 そこを歩く。


「ルシー、頑張ってー!」


 木の根が複雑な階段のようになっている。

 ここからは俺は降りてルシーの手綱を引いて歩く。


 ゆっくりと、けれど確実に登る。


 ある程度登った時、木々の隙間からとある場所が見えた。

 アイリス国側の検問所だ。

 そこを抜けると戦後そのまま放置された戦場となった荒れ地が広がり、まっすぐ抜けるとウナンズ国の検問所へと辿り着く。


「まだアイリス?」

「まだまだだな。この山を越えて、その先にある長い洞窟を抜けたらウナンズだ」

「ウナンズ楽しみだなー」


 上機嫌なターリャの鼻唄を聞きながら、俺は山を登り続けた。









 木が減ってきて、ついには岩だらけの所になった。

 道は歩きやすいし、見通しもいい。


 ここらで一旦休むか。


「ターリャ、そろそろお昼にしようか」

「わかった」


 ターリャがルシーに積んだ荷物を開けようと手を伸ばしたとき、俺は不意に前に見た夢の光景を思い出した。

 デジャヴだった。


 瞬間的に、思い出したあの夢に、固まり、俺はターリャに声をかけた。


「待て、ターリャ」

「え?」


 振り返る。

 少し先の岩場だ。

 そこにいる。


「トキ?」


 ターリャが不安げな声をあげたとき、俺が睨み付けていたその岩場から、それが顔を出してこちらを見た。

 それは一番会いたくなかったやつ。


 竜種(ドラゴン)だった。





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