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『オブザーバーのお仕事』

 

「 おいっ! 」


 腹から声を出して挑発をする。

 するとレッドマンティスは敵が来たとこちらに向かって威嚇ポーズを取った。

 これが普通のカマキリなら、あー左右に揺れてるの面白いなー、程度の感想しか無かったけど、これを4メートル強のカマキリにやられてみろ。

 恐怖でしかない。


 それでもレベリング観測の為に、俺は短くても5分はこいつとやりあわなきゃいけない。

 脳裏にトラウマが甦るけど…。


 ゆっくり盾を構えながらレッドマンティスとの距離を縮めていく。


 もうそろそろ、奴の攻撃領域だ。


「……」


 カマキリの目の色が変わり、横に広げていた鎌を閉じた。


 来る!!


「ッッ!!」


 頭上に掲げた盾に鎌がぶつかり弾き上げる。

 かなりのスピードと力で、衝撃を逃すために曲げていた足が悲鳴を上げた。

 そして確信した。

 これは絶対Cではない。


『ギガカカカカカカカカカカカ』


 カマキリが牙をギシギシ言わせて怒りを露にしている。

 でもすまんね、測定が終わるまではここから動けんのよ。


『カッッッ!!!!』


 ゴウと、レッドマンティスの口から火の弾が発射された。

 一撃二擊と堪え、振ってくるカマを受け止める。


「やべっ!」


 鎌を振り下ろしたままレッドマンティスが火の弾を発射した。

 慌てて盾を回して鎌を受け流し、大きく転がって火の弾を回避。

 転がる勢いを利用してすぐさま立ち上がり全力で駆ける。

 すると後ろの方で火の弾が次々に被弾する音が聞こえた。

 レッドマンティスの属性は多くが火。

 なので炎関係の攻撃方法を多用する。


 レッドマンティスを観察すると、火の弾連射をやめてこちらを見ている。

 レッドマンティスは頭が良い。

 きっと次の攻撃方法を思案しているに違いない。


「!」


 ジワジワとレッドマンティスの鎌の色が濃くなっていく。


 くるな、必殺技が。


『ギャッッ!!』


 レッドマンティスの振られた鎌から赤い軌跡が飛んでくる。

 アレに触れたら焼き斬られる。


「オラァッ!!」


 軌道に対して滑らすように盾を構える。

 ギャガッと、鋭い金属同士が擦れる音を残して斬擊が後方へと流れた。

 後ろには焦げ付いた地面が抉られた形状になっているだろう。


「ここまでは想定通り」


 このくらいならレベルCだが…。


「……、…やっぱそうくるか」


 レッドマンティスの鎌が黒く変色していく。

 これはレベルCのレッドマンティスには見られない攻撃予兆の動作だ。


 どんな攻撃だ?

 走る足を止めて盾を何処にでもすぐに向けられるように意識を集中させた。


『キキキキキキキキ…、  』


 キン。

 耳に音に似た圧を感じた瞬間、頬と右肩の一部が焼けたように熱くなった。

 ……え。


 痛みが遅れて走り、体が無意識に盾をレッドマンティスよりも少し上の方へと向ける。

 次の瞬間大質量の衝撃が襲い掛かった。

 受け流せたが、それは一度だけではない。

 まるで雨のように見えない攻撃が降り注ぎ、それは勢いを増していった。


「これは、やば──」





 ズズンと、トキのいるところ一帯が大量の土埃と火の粉に包まれ、見えなくなった。







 茂みのなか、引っくり返った状態で俺を見失ったレッドマンティスを眺めていた。

 さすがに盾職一人じゃ死ぬと思った瞬間、アウレロの隠れていた茂みの中に瞬間移動していた。


「……いやぁ、見事な立ち回りでした。お陰さまで良いデータが取れましたよ」


 メモ帳を手に、目にまつわる何かのスキルを発動させたアウレロが良い笑顔でそう言った。


 もうこんなの二度と御免だ。








「いつつつつ…」

「あと少しですから、我慢してくださいねー」


 負傷した右頬と右肩を回復魔法で治して貰っている。

 幸い斬られた後火傷で出血は無かったけど、火傷独特のヒリヒリがじみに効いている。


「はいできました」

「ありがとうございます。……なんでか痒いです…」

「それは副作用の回復痛です。1日もせずに治りますので、掻くのも我慢してください。跡が残っちゃいます」

「……」


 肩を掻く手をやめた。

 止めたけど、辛いなこれ。


 アウレロのメモ整理が終わり、やってきた。


「お疲れさまでした。残りは夜にやっちゃいましょう!」

「「「はーい」」」


 返事をするオブザーバーの方々。


「夜?」


 治療してくれたイーサンに訊ねると、説明してくれた。


「次は卵のサンプル回収です。今は気が立っているので、夜の寝ぼけている間にチャチャっと回収するんです」


 へぇ。




 夜。

 宣言通りにレッドマンティスの巣に向かう。


「見付からないか?」


 そんな不安をオズワットが明るく返してくれた。


「大丈夫です。先ほどウージョンカに掛けて貰った魔法、【ブラックキャット】と、エリナが周辺に掛けた【ラーバイ】で我々を認識することは不可能です!」

「そうなんですか」

「オズワット静かに」

「ごめんなさい」


 アウレロに怒られたオズワットがしゅんとする。

 すまない、俺のせいで。


 卵の付いている木までいくと、オズワットが【フライ】の魔法を発動。

 あっという間に卵の一部を削り取り、サンプル回収も完了。


 早々に夜営地に戻った。

 これで本日の仕事は終わりらしい。


「あと2日掛けて、周辺の妖魔の様子と、村からの徒歩による移動経路の確保を終わらせたら終了です」


 アウレロが夕飯のサンドイッチを片手に今後の予定を教えてくれた。

 思ったよりも仕事が多い。


「レベリング観測の仕事って大変なんですね」


 今回初めて参加して思った。

 この観測隊、オブザーバーさん達が頑張っているから、あんな詳細な依頼書が出来上がるのだ。

 良い経験だ。


 俺の言葉にアウレロは照れたようにしながらこう言う。


「そうですね、でも僕らの仕事で討伐してくださる皆さんの苦労を少しでも減らせるってのが、僕らにとってのやりがいなんです」


 うんうんと、四人も頷く。


 これからはもっと依頼書に感謝しよう。

 そう強く思った。





 そうして、予定通り2日掛けて周辺の散策、道の確保を済ませ、3日後の昼にシーラ街ギルドへと帰還したのであった。





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