『帆船にて』
船の順番を待ちながら、ターリャの泳ぎのレッスンをする。
「よーい、はいっ!」
「んんんんーー!!」
バタバタとターリャがばた足をする。
初日はおぼつかなかったばた足もすっかりできるようになった。
でも一番得意になったのは平泳ぎのフォーム。
本人曰く『顔が出せる』とのこと。
気持ちは分かる。
最終的に、海の上で何かあって泳がないといけない、という想定で平泳ぎを中心で教え、4日後にはマスターした。
なんなら潜水もできるようになった。
「でもトキみたいにはやく泳げない。それよりもなに泳ぎなの?それ」
「バタフライだ。ターリャにはまだ早いぞ」
「ぶー」
ちなみに俺も久しぶりに思い切り泳げて楽しかった。
しばらく泳いでなかったけど、体は覚えてるもんだな。
という感じでわりと楽しくウナンズ町を満喫し、とうとう帆船に乗れる日になった。
「チケットを拝見いたします」
「どうぞ」
係員にチケットを見せ、乗船する。
階段を登り甲板に出ると、目の前一杯に柱が乱立していた。
「すっげぇ迫力」
上を見ると帆が畳まれて固定されている。
あれが一斉に広がるのか。
壮観だろうな。
「トキ、後ろに変なのがあるよ」
「変なの?」
なんだ?
ターリャに手を引っ張られて着いていくと、船の一番後ろに巨大扇風機のような、アンテナのような、とにかく変なものが設置されていた。
エンジンにしては位置がおかしい。
「退いた退いた!」
「おっと」
船員さん達が慌ただしく駆け回り始めた。
そろそろ出港するから、その準備だろう。
「ターリャ、俺たち邪魔になっているみたいだから一度部屋に行こう」
「うん」
乗船したのとは別の階段で下に降りて、案内板を目印に進んでいくとチケットに記された番号の部屋に着いた。
「ここがターリャ達の部屋?」
「そうだ。ええと…」
チケットの紙と引き換えに渡された鍵を差し込んで回す。
ガチャン。
実は俺もこの世界で船に乗るのは初めてだから楽しみだった。
ワクワクしながら扉を開けると、そこには六畳ほどの部屋にハンモック型のベッドが2つ吊られていた簡素な部屋。
「わお」
個人的に好み。
というよりハンモックが好き。
「窓がある!」
一目散に丸窓に駆け寄るターリャ。
俺はハンモックの強度を確認。
結構頑丈だな。
へぇ、横の梯子で上のハンモックに登るのか。
「ねぇ、トキ。窓開かないんだね」
「外に行きたかったら甲板に出ればいいだろ?」
「それもそっか。よっ!」
椅子から飛び降りてターリャがハンモックを見る。
「変なベッドー」
「ハンモックっていうんだ。どっちで寝たい?」
「んー」
下のハンモックに寝転がり、すぐに起き上がると上のハンモックに登って寝転がった。
「こっち」
「了解」
机の高さも確認していると、少しずつ騒がしくなってきた。
外を見ると人が集まって来ている。
これは、そろそろかな。
「ターリャ、そろそろ出港するぞ。帆が開くの見たくないか?」
「見たい!」
「よし!」
甲板に出ると、同じように見に来た乗客達でごった返していた。
「うーん、うーん」
足元で背伸びをしているターリャ。
ま、見えんよな。
「ターリャ、持ち上げるぞ」
「え、わあ!」
ターリャを持ち上げて左肩に座らせた。
「わあー!!凄いよく見える!」
「はしゃぐと落ちるから気を付けろよ」
「うん!」
背が高くて良かったと思った瞬間である。
出港の合図か、笛と鐘の音が鳴り響き、帆が広げられていく。
空が白に塗り替えられていく。
思わず感嘆の声が漏れた。
イイインと、小さい音が歓声の間から魔導具を起動させている音がする。
見渡すと、船の後ろにあった変な機械が青白く光っていた。
あれか。
「出港ーーーっ!!!!」
そんな声と同時に機械から風が吐き出され、帆を一杯に膨らませた。
あれは突風の魔導具だったのか!
なるほどあれなら無風でも進める!
「キャー!!凄い!凄い!」
帆船はグングン速度をあげ、港から離れていく。
あとは船の上でゆったりしていれば、目的地のタローズ街へと辿り着く。
バラバラと人が散っていく。
「この後どうする?」
「探検したい」
「探検か」
確かに案内板はあるけど、実際に見た方が覚えるか。
「じゃあ行くか」
そんな感じで帆船内部を見て回ったり、海を眺めたり、文字の勉強をしたりとのんびり船旅を過ごす。
おかげで勉強がはかどり、結構スムーズに読めるようになってきた。
やっぱり先に耳から覚えていたからか、文法系は楽だった。
単語も普段耳にしているから、声に出して読むとなんとなく次に来る言葉が分かる。
本も絵本からある程度難しい本に手を出してみた。
「……辞書がほしいな」
が、わからない単語が多くて断念。
とりあえず分かるところだけ日本語訳しておいた。
隣で見ていたターリャが日本語を指差す。
「この記号なに?」
「これは日本語っていうんだ。俺が昔いたところの文字だよ」
結構漢字も度忘れしている。
さすがに文字は書かないと忘れるな。
「ターリャこれも覚えたい」
「ええ…」
欲張り過ぎじゃないかい?ターリャさん。
「いや、まずは先にゴクリュー(この国の文字)文字覚えないと」
「じゃあ覚えたらこれもやりたい」
「それならいいよ」
「ん」
ダルダル気味だった勉強をターリャが真面目な顔でやり始めた。
明日は雪でも降りそうだな。
その日は朝から空模様が怪しかった。
どんよりした雲がどんどん下へと降りてきていて、嫌な風が音を鳴らして吹いている。
船員達が走り初め、帆を畳もうとしていた。
「これは嵐が来るな」
「嵐?」
「海上で嵐はキツいな。先に薬を飲んでおくか」
鞄から酔い止めを取り出す。
飴玉みたいなこれは、魔術師から購入したお墨付きだ。
舐めれば眩暈や吐き気、さらに頭痛も緩和してくれる。
「はい」
「黄色」
「レモン味だ」
「レモン味好き」
すぐにターリャは飴を口のなかで転がす。
「俺は少し外の様子を見てくるから」
「わかった!」




