『ウナンズ町へ』
日がすっかり昇った頃にターリャが起きた。
「おはようターリャ」
「………」
ターリャは眠気まなこで車内を見回し、俺を見る。
そして、盛大に『やっちまった』って顔。
笑っちゃ悪いと思いながらつい笑ってしまった。
しょうがないだろ、あんなに『ターリャは徹夜する!!』と言ってたのに結局寝落ちした上に寝坊したのだから。
落ち込みターリャの頭を撫でる。
「どんまい。次頑張ればいいさ」
というよりも、育ち盛りなのだから寝ててくれ。
背が伸びなくなってしまう。
「むぅ…」
頬っぺたを膨らませながらターリャは椅子に座り直した。
さて、輸送馬車に無事乗れたのだが。
(意外だったなぁ)
予想していたよりも、バスである。
いや、あちらのバスと比較すると語弊があるな。
いうならば全部木で組み立てたバス。
なので椅子は固いし、掴まる棒も無いんだけど二人ずつ座れるように配置されている。
昔、乗った大型の馬車は──乗ったというより詰め込まれた?──もっとこう、雑で椅子なんかなくて、詰め込めるだけ詰め込んで運ぶ馬車って感じだったけど。
(……目的によるんだな…)
ゴトゴトと馬車は進んでいく。
外の景色はのどかで、平和そのもの。
(こんな日は、勉強日和だ!)
バッグから本を取り出し、ウナンズまでの時間目一杯使って日常的な文字は読めるようになろう。
途中で景色を見たがったターリャと席を交換したが、それ以外は特になんの問題もなくウナンズ町へと近付いていった。
問題が起こったのは最終日の昼前。
「……ん?」
なんだか外が騒がしい。
「ターリャ、ちょっと」
「ん?」
後ろの席の老夫婦から貰った飴を舐めていたターリャに頭を下げて貰い、窓から外の様子を見た。
なにやら護衛達が後ろを見ながら叫んでいる。
なんだ?後ろ?
どうにかして確認できないかと、ナイフを取り出そうとしたら後ろから矢が飛んできた。
当たらなかったけど、一瞬で理解した。
おや?
これもしかして盗賊に追いかけられてます?
「掴まってて下さァァァいィィィ!!!!」
馭者さんの大声が響き渡ってすぐに馬車の速度が上がる。
「うおっと!」
「わわっ!」
半立ちしていた俺含めた客達がバランスを崩して転がる。
ぎりぎり倒れずに済んだけど、変わりにガタガタと馬車が激しく揺れ初めた。
速度は二倍。揺れは三倍。
馬の嘶きが聞こえ、護衛達の怒声が遠ざかっていく。
大丈夫なんだろうか。
いや、その為の護衛だし、護衛対象の馬車は急いで逃げないといけないってのは分かるけど。
うん。
俺は馬での護衛はやらないでおこう。
大変そうだ。
そんな感じで30分ほど馬車は飛ばしに飛ばし、ようやく速度を緩めた。
交代で車内に戻ってきた馭者が息を切らせながら席に座り込んで大きくため息を着いた。
馭者も大変なんだな。
ゴトゴト馬車は進み、一時間後、ようやく護衛達が合流した。
追い返したのか、退治したのか。
これでもう安全だ。
「さっきのなんだったの?お尻痛かったよ」
「ああ、盗賊だ」
「盗賊??」
「そう。あれに捕まるとな、厄介なんだ。だから逃げたんだよ」
「グリーンウォルフみたいだね」
「んふっ、そうだな」
確かに性質は似てる。
「そろそろウナンズ町に到着します」
「んあ?」
居眠りしてしまっていた。
ウナンズ町に到着なんたら言ってたような。
周りを見るとみんな降りる準備を初めていた。
本をバッグに仕舞って、俺と同じく居眠りしているターリャを起こす。
「ターリャターリャ」
「んん…」
「そろそろ着くぞ。起きないと」
「ん!着くの!?」
ぱっちりと目を開いて、窓にへばり付く。
「見えた!あれがウナンズ??」
「そうだ」
「おおー、海が見える」
前方に広がる町、さらにその先にはキラキラ青く輝く海が顔を覗かせていた。
町へ到着して、馬車から降りた。
ヤバイな。
少し体を捻ったら骨が凄い鳴る。
歳か。
そう思ったけど、馬車から降りた人達みんな骨を鳴らしていたから歳とか関係ないかもしれない。
「じゃあね、お嬢さん。お父さんと仲良くね」
「では」
馬車の中で仲良くなった老夫婦が手を振って去っていった。
ターリャも手を振っていたけど、老夫婦の姿が見えなくなった辺りで頬っぺたを膨らませた。
寂しいのかな。
「ターリャ、お腹はどうだ?」
お腹が膨れたら機嫌も直るだろうと訊ねたのだが、ターリャは『ううん』と首を横に振った。
そうか。
お腹減ってないのか。
うーん、どうしたもんか。
「あ」
「ん?」
ターリャがこちらを見る。
そうだ。
せっかく海に来たんだ。
1日くらいは楽しんだって良いよな。
「ターリャ!海で遊ぼう!」
「海!」
そしてせっかくだし、泳ぎの練習もさせてやりたい。
泳げるかの確認も兼ねてだけど、これから船に乗るんだ。
何かあったときに泳げるのか泳げないのかは把握しておいた方がいい。
「おおー!船おっきい!」
デデンと大きな帆船が港に停泊している。
これからあのような帆船に乗るつもりだ。
とはいえ、帆船は輸送馬車よりも数がないから順番を待つしかない。
船乗り場で予約しようとしたら、五日後しか空きがないといわれた。
しかも料金が笑うほど高い。
とはいえ、俺の懐はまだ温かい。
お金を持っているって素晴らしいな。
躊躇いなく予約してチケットを取った。
「さて、水着でも買いに行きますか」
フリフリの水着を着てはしゃいでるターリャ。
予想外だった。
まさかこの世界の水着が元の世界と変わらないくらいの発展を遂げているとは。
しかも獣人用の水着にはご丁寧にも尻尾の穴があり、女の子用のはリボンまで付属しているサービス付き。
(店員の推しも凄かったなぁ)
ターリャに着せるものと分かった瞬間の、あの怒涛のフリフリ水着を山ほど持ってきて全部買わせようとする気迫。
危うく洗脳されて買うところだった。
とはいえ、ターリャが一番ほしいと言った水着を買うことができて良かった。
機嫌も直ったみたいだし。
残念ながらこの国では獣人の印象は良くないから、こんなメインビーチから離れた岩影のごくわずかなところでしか遊ぶ事しかできない。
でもターリャは喜んでるし、俺もターリャの機嫌が治って満足。
「トキー!」
水辺で遊んでたターリャが走ってくる。
そして俺の前でくるくる回り。
「ねぇ!ターリャどう?可愛い??」
「そうだな」
「んふふふ!」
楽しそうで何より。
さて、俺も水着に着替えてと。
「ターリャ!!」
「ん?」
ビートバン代わりの木の板を持ち、ターリャへと向かう。
「泳ぎの練習するぞ!!」
「えええええ!!!」




