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『ルティケニーマ』

「こんにちは、良い日ですね。何かお困りではないですか?貴女方に善き世界を担っていただくために我らルティケニーマの全住人は全力でお手伝いさせていただきます」


「いらっしゃい、よく此処まで来られましたね。疲れてはいませんか?こちらでは体の疲れを取るのに良い薬湯も、魔力を回復させるための質の良い果物も用意しております」


「武器の具合はいかがですか?道具の補給はいかがですか?こちらでは万全を期して挑んでいただくために全て無料で提供させていただいております」


 あちこちからフワリと笑顔を見せながらルティケニーマの神官や住人達から声が掛かる。まるで王様気分だ。もっともそんな待遇に慣れていない俺達はぎこちない笑顔を振り撒きながら本当に必要なものをキチンと定価で買わせていただいた。


 なかなか店員がお金を受け取ろうとしなかったけど、そこは四精獣ターリャが『これは感謝の印なので受け取ってください』と口添えして受け取って貰った。

 額縁にいれて飾ると言われたが、どうか止めてほしい。


「事前にオモオット神官にこうなると言われていたが、聞くのと実際に体験するのとじゃ大違いだな」

「私は普通に接してもらいたい」

「凄く分かる」


 ちなみにそのオモオット神官とは港で別れた。なんでも最終試験に向けての最終調整があるとの事だ。

 試験を受けるのは俺達なのだが、何の準備なんだろうか。


 宿の方もすぐに良質な所を教えてもらい、久しぶりに湯船を楽しんだ。

 ルティケニーマでの名物の薬湯というもので、疲れを取る魔法を風呂場はもちろんお湯にまで掛けているらしく、謳い文句通りに今までの疲れもろとも吹き飛んだ。ついでに魔力も回復するらしいのだが、残念ながら俺は体感できなかった。残念だ。


「凄かった。もう、使ってすぐに元気一杯になって凄かったよ!」

「そうか、よかったな」


 ターリャ曰く、語彙力が大幅に低下するほどに凄かったらしい。

 食事なんかも宿で取れるらしいのだが、俺達はあえて外で食べることにした。

 理由としては、せっかくこんな世界の中心に来たのに、景色を堪能しながら食べないと言うのは勿体無いというものだった。

 それ以外にも部屋で食べたら眠くなるというのもあるが、今回は前者だ。


 宿の人の薦めでやってきた店で名物らしい魚料理とフルーツタルト的なものを食べた。これにも何かしら魔法でも掛かっているのか?あまりにも造形が美しい。


 フルーツタルトを鑑賞しながら食べているとターリャが「ねぇトキ」と呼び掛けてきた。


「なんだ?」

「此処についてからずっと気になっていることがあるんだけどね。ルティケニーマって、獣人族が少ないと思わない?神官さん達はほとんど人族だし、見掛けるのなんてお店の店員さんくらいだよ」

「そういやそうだな」


 言われてみたら確かにそうだ。

 対岸の港町、ルーヤエでは人口の七割が獣人だったのに、此処では逆転している。何でなんだろう。

 何か理由でもあるんだろうか。

 今度オモオット神官に会うことがあれば訊ねてみたいところだ。


 食事も終わり宿に戻ると、早速ターリャはターリャが携帯用の魔法陣作成し始めた。

 基本は怪我をしたときに使う修復の魔法陣。怪我を治すものだ。これは俺とターリャの二人分。

 さらにターリャは魔力を補充する魔法陣も作成していた。


 魔力補給薬を魔法陣の真ん中に注ぎ込んでいる。

 なんでそれで濡れて破りしないのか不思議でしょうがない。

 それらをポケットに束で入れておけば勝手に発動するようにするんだとか。意味が分からなさすぎて俺は「そうなのか」以外の言葉がでない。


「トキは盾の自動回復機能があるから、私のを多めにしていい?」

「いいぞ」

「その代わりなんだけど、疲労回復の方を作っとくね」

「ありがとう」


 こういった物はあるに越したことはない。というか、あればあるだけ嬉しい。

 とはいえ、俺は魔力がないので魔法関係はターリャに任せて、ターリャの武器のメンテナンスをしておくことにした。

 服や靴もガタがきているところは修復。

 戦闘中にこんな下らないことで大怪我をしましたなんてなったら笑えない。


 明日、試験を受けるとはいっても、此処についてまだアレの姿を確認できてない。もちろん視認もできないけど、居るというのは気配で分かる。

 ずっと上の方から見られている感じがするのだ。








 全ての作業を終え、明日に向けて早めにベッドに潜り込んだ。

 しばらく天井を眺めていると、ターリャが「明日だね」と言った。


「ああ」

「ねぇ、トキ」

「なんだ?」

「……ううん。なんでもない」

「?」


 ターリャの方を見ると、俺に背中を向けて寝息を立てていた。









 朝、宿にやってきたオモオット神官の部下と名乗る神官の方にこの島の地図を渡された。


 といっても中心の大部分があの山が占めているので外縁を道がぐるりと取り巻いているだけ。大きな街は今居る此処のみで、あとは小さな村、村というか観測所というか、とにかく精霊関係の研究をしている人達の集まった集落が三ヶ所あるのみ。

 一応宿はあるらしい。

 この道を辿っていくらしい。


「お気をつけください。一度試験が始まれば途中で抜けることはできなくなります。抜ける方法は二つのみ。聖域へと至るか、死ぬか、です」


 神官の言葉に、ごくりと隣でターリャが唾を飲み込む。


「大丈夫だ。今までずっと二択だったんだ。なら、いつも通り頑張ればいいのさ」

「そうだね!いつも通りにすればいいんだよね!」


 神官が口許に笑みを浮かべた。


「御武運をお祈りしております」









 覚悟を決めて出発した。

 ルシーとゼウイもいつもと違う雰囲気を感じるのか落ち着きがない。それは俺もだ。昨日から感じている視線みたいなものが強くなっていっているから。


「ん?」


 不意に此処から先には行けないとわかった。景色は続いているし、道も途切れたりしていない。だけど、此処から先は俺達は行けないと、体がその先へ行くのを拒絶した。


「ターリャ、どう思う?これ」


 ターリャに訊ねると、ターリャは険しい顔をしながら道の先を睨み付けていた。


「……多分。ここだよね、アレがいるの」


 視線が上からガンガンに注がれる。


「そうだな」


 ゼウイから降りる。


「よし!やるぞ、ターリャ!」


 此処で怖じ気づく訳にはいかない。

 ターリャに発破を掛けると、力強く頷きルシーから降りた。


 ルシーとゼウイから降りて、逃げ出しても大丈夫なように首に印を下げる。


「準備は良いか?」

「うん。いつでもいいよ、トキ」

「じゃあ行くぞ」


 一歩先に歩み出せば、途端凄まじい圧が襲い来る。

 初めて戦ったグレイドラゴンを思い出させる凄まじい威圧に呼吸を忘れそうになった。

 遠くでなにかが割れる音がする。

 先ほどまで何もなかった空間に、俺達が踏み出したその瞬間、元々そこにいたかのようにアレが姿を現した。

 ターリャの呼吸が浅い。


「ターリャ、ゆっくりと呼吸をしろ。大丈夫だ。俺が居る」


 ターリャがハッと我に返って深呼吸をした。

 神官達はアレを四精竜といった。それぞれの女王候補の最後の成長に必要な、精霊に最も近いドラゴン。いいや、ドラゴンと言ってもいいのかもわからない。何せあれは以前のターリャ達の本当の姿から変異している膨大な魔力の塊だと言っていた。

 意思はあるけど、ほぼ自我はなく、目の前にいる“自分に近い存在”を消そうとするのだという。

 この場合はターリャ、そして俺の持っているこの盾である。

 さて、そろそろこちらに気付く筈だが。


 水の四精竜、水精竜(イッセ・シュレーソ)はこちらにゆっくりと首を向けた。あまりにも巨大な体躯なのに、顔がずいぶん遠くにあるのに、視線が合った。

 次の瞬間、辺り一面に咆哮が響き渡った。














 ルティケニーマ港町では結界が破れて試験が始まったと大騒ぎをしている。


「最終試験が始まった!!総員結界発動!!」

「結界発動!!」


 街と島全体に結界が張り巡らせれ、ガラーンガラーンと盛大に大鐘が鳴らされる。

 神官達、そして島民達が手を合わせ祈った。

 祈りたまえ、称えたまえ、新たな女王が生まれるその瞬間を見届けたまえ。


 オモオット神官は恐らく二人のいるであろう位置に視線を向けた。


「どうか、ご無事で…」


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