『望遠鏡』
通りすがりの町やら村やらで見つけたドラゴン依頼を消費しながら、ゼウイとルシーを飛ばして中央目指して進んでいく。
倒す度、ドラゴンを食べているターリャが物足りないといってはいるけど、それは我慢して貰うしかない。
それにしても、俺から見てもこのドラゴンの遭遇率は異様だ。
少し幾度に小型のが襲ってくる。いや、小型だけじゃない。大型もそうだ。
先日山から見えた村は大型ドラゴンに襲われていて、それをターリャと二人で討伐した。
ドラゴンが直接村を襲っているところなんて始めてみた。
幸いにもみんな避難済みで建物の被害のみで済んだのは不幸中の幸いといえよう。
「ゼウイもすっかり平気になったね」
「少し前までは腰が引けてたのにな」
そう言ってゼウイの首を軽く叩いてやると尻尾を振った。
こんな生活をしているもんだから、ゼウイもすっかりドラゴン慣れして、咆哮ではびくともしなくなった。ルシーに至ってはドラゴンに向かってため息まで吐いている。
馬のくせして悟りを開くな。
そうしてあっという間に季節はめぐり、こちらでの春が来たらしい。
花が咲き乱れ、精霊の姿をよく見かけるようになった。
時たまはるか上空でドラゴンに補食される精霊も見た。
本当にドラゴンって精霊を食べるんだなと今更ながら思う。
そのままこちらを見つけて襲ってきたから返り討ちにしたけど。
そうして西へ西へと歩を進め、遂に俺達はイクラート最西端、ルーヤエへと辿り着いたのだった。
「おお!」
ターリャが感嘆の声を上げた。
少し前から見えていた山がここまで来るとはっきり見える。
海の向こう側に壁のように聳え立つ山、あれが中央ルティケニーマだ。
「なんだろう、島自体がもう神々しいな」
「すごい数の精霊だよトキ。ほら見てみて」
「いや、さすがに視力の問題がだな」
ターリャの方を見ると、また目の前に手を輪っかにしたので覗いている。
前見たときは子供っぽい仕草が残っているなと思っていたんだけど、よくよく考えてみたらターリャは凄く遠くを視る時にいつもこれをする。
もしや、なにかやってる?
「ターリャ」
「んー?」
「なにしてんだ?それ」
「これ?」
目から輪っかを外した。
指で作った輪っかの内側に水が溜まっていた。
もしや…!
「ここの輪っかに水入れて、形を変えると凄く遠くでも近くに見えるんだよ。見てみる?」
見せて貰うと、メガネのレンズのようになっていた。
「それをこう、それぞれの指に同じように作って重ねるとあそこの山の模様まで見える」
「もはや望遠鏡じゃないか」
ターリャの才能が怖い。
ルーヤエの港に行き、船の予定を見ると10日後に運良く空きがあるらしい。
早速予約を取ると、職員に諸々の注意事項を伝えられた。
曰くルティケニーマは聖域なので身勝手な行動を慎むこと。守人の言うことを厳守する事。等々。
後最後に、必ずしも上陸できるとは限りませんと言われた。
なんだろう。そんなことがあるんだろうか。いや、聖域だからそう言うこともあるんだろうな。
それに同意し、チケットを受け取った。
外で待っているターリャの元へ行くと、またターリャがルティケニーマを見ていた。
「なんか面白いものでもあったか?」
「…………面白いものっていうか……」
「……?」
ターリャが望遠鏡から目を話さずに言った。
「とてつもないでかさのドラゴンがいる…」
「……は?」
肉眼では見えないので近くの道具屋で望遠鏡を買った。
しかし覗いてみても何処にもそんなドラゴンの姿は見えない。
首を内心傾げていると、ターリャが貸してと手を出した。
望遠鏡を手渡すと、ターリャは望遠鏡を両手で持ち、額に当てた。
ふわりとターリャの方から涼しい気配が流れてくる。なにをしているんだろう。
「はい」
ターリャが望遠鏡を返してくれた。
「多分それで見えるようになっているはず。魔力込めたから」
「魔力を込めてたのか」
まじまじと望遠鏡を確認すると、さっき迄なかった鱗のような模様が入っていた。
では早速と望遠鏡を覗けば、ターリャのいう通り山のすぐそばにとんでもないでかさのドラゴンがいる。
というか、ドラゴンか?あれ。
「俺あそこ行きたくねーな」
「何言ってるのトキ。最後まで付き合うんでしょ?」
「そうだったな」
予定日までドラゴン討伐しながら過ごそうかと思っていたのに、なんとこの辺りにはドラゴンがいないのだという。仕方がないのでターリャは市場へ遊びに行き、俺は海辺を散歩しつつ対岸を観察している。
対岸にあんなにも精霊達が遊泳しているのにおかしな話だ。
おかしな話といえばもうひとつ。
あの山ほどもあるドラゴン。いや、そもそもあれはドラゴンなのか?
首がニュッと長い竜種の何か。
よくよく観察してみれば亀のようにも蛇のようにも見えなくもない。
「……というか、なんでターリャの魔力越しでないと見えないんだ?あれ」
そういう妖魔は見たことないし、そういう竜種も知らない。
もしやあれは俺達二人だけの幻覚なんだろうかと疑い始めた時、事態が急変した。
「すみません!すみませーん!!」
ドンドンドンと朝っぱらから扉を激しく叩く音で目が覚めた。
時刻はまだ日が登る前。非常識にもほどがあるぞ。
しかし枕を頭に被ってみてもノックは止まらない。こりゃあ一言いいわないと二度寝も出来ないぞ。
苛立ちながら上着を羽織、何ですかと扉を開けると船のチケット売場にいた店員と、その後ろには船員らしき人物、そして、神官みたいな服の人がいた。
売場の店員だというのはすぐに分かった。店員はブチ猫の獣人だったからな。
神官らしき人物、珍しく人間、がずいと前に出てきた。
「トキナリ様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうですが。こんな早朝に何ですか?」
神官は首もとにぶら下がっているペンダントを持ち上げ、俺に掲げる。するとペンダントが淡い青色に光輝いた。
「代替えの関係者様でいらっしゃいますね。こんな早朝に申し訳ありません」
思わず俺は眉を潜めた。
しかしそんな俺に構わずに神官は続ける。
「トキナリ様、そして精霊王候補である四精獣様、お昼頃にこちらの建物へお越し頂けないでしょうか?」
そう言って袖口から折り畳まれた紙を渡された。
それを開くと地図だった。
「何故俺達があなた方に従わないといけないのです?」
疑いの目を向けると、神官は真っ直ぐに俺を見上げ、こう言った。
「島の門が開かれました。お二人をルティケニーマへご案内致します」




