僕が彼女の剣になろう
この世には”支配する者”と”支配される者”が存在するのだと
僕は思っている。
ならば、僕は後者である。
意見を持たず、ただ流されるまま無気力な姿で過ごす姿は
まさしく、支配されるのにふさわしいであろう。
僕はそのような生涯であっても後悔は無い。
それが誰かの為であるのであれば...。
「なにをボケってしておる!」
「いて!」
突如として襲った頭の痛み。
その正体は教師によるゲンコツであった。
思い出した、今は国語の時間だ。
「しっかりせい!中野」
「はい、分かりました...」
誠意もやる気もない声で返事をする。
いつものことだ、もう何とも思わない。
教師は呆れた顔で黒板へと向かった。
それからは何事も無く、ただ空を見ている。
そんなことをしているうちに授業は終わっていた。
トコトコと聞こえる足跡。
誰かが来たようだ。
「よう!剣一郎!またゲンコツ喰らったな!」
陽気な姿で俺に接してくるこいつは俺の親友。
名は「日野 太陽」
今もだが、常にニコニコしているのが特徴だ。
「太陽、俺にとってはあの程度かすり傷でもない」
「流石、やっぱ格が違うぜ!お前は」
太陽のような笑顔でそう言われると
馬鹿にされているようだ。
「暗黒龍との闘いに勝利した僕をなめるなよ」
呆れた表情で太陽は
「はいはい、そういうのはいいから」
太陽は僕を”中二病”という病に侵されていると勘違いしているようだが、
それは世界の理を知らぬ愚民の想像である。
故に、僕は人類を超越した存在である。
「あー!剣くん!おーい」
教室の扉から俺を呼ぶ女子の声。
「待ってくれ!今、行くぞ」
「おいおい、お前まさか...」
太陽の驚いた表情。
俺はその表情の意味を理解したうえで
「俺、”彼女”ができたぞ!太陽!」
教室に響き渡る大声でそう言った。
「まさか、中野に彼女が...」
ざわざわと噂し合うクラスメイトたち。
「がんばれよおおおおおおおお!剣一郎おお!」
校舎全体に響き渡る太陽の大声。
本気で応援してくれているようだ。
そんな声援に押されながら、教室を出る。
”何故、彼がここまで本気で応援してくるのか?”
その理由は僕が戦いに向かうからだ。
そう、”命懸けの戦い”にね。
教室を出た後、俺たちはある場所に向かっていた。
「ねえ、剣くん。本当にいいの?」
心配そうな声で俺に問いかける。
「ああ、優ちゃんの為なら構わないさ」
今、隣を歩いている彼女は「優」。
幼馴染であったが、今は彼女だ。
優はやや茶髪で、ロング。身長は160ぐらい。
「着いた」
俺たちは”生徒会室”前に立っている。
目の前にある扉からはただならぬ気配がする。
ここは普通の高校である。
だが、それは表の姿。
なら、裏の姿は何か?
答えは目の前にあるもの、つまり生徒会という組織である。
「開けるぞ」
優は首を上から下に振った。
どうやら、覚悟はできたらしい。
ゆっくりと扉を開けていく。
開いていくごとに汗が流れている感覚がある。
「待っていたよ、中野家の坊ちゃん」
中には二つのソファーとその間の机しかない。
そこには一人の女性が居た。
緑髪でショート、年は20ぐらいか。
ここの教師や生徒ではないようだ。
「あんたが生徒会会長か」
「ああ、そうだ。とりあえず座れ」
「了解した」
俺たちが手前のソファーに座った途端。
バタン!と扉が閉まった。
「いちいち気にするな」
淡々とした表情で話す会長。
「早く済ましたい、俺たちは登録に来た」
「そうか、お前たちで八組目だ。」
「優、もう一度聞くぞ。ここから先は地獄だ」
強い口調で優に問いかける。
「剣くんが”契約者”なら地獄でも怖くないよ」
「了解だ、優」
優の気持ちに迷いは無い。
ならば、僕はそれに応えよう。
「二人とも片手を出せ」
隣にいる優と目を合わせて、共に頷く。
俺は左手、優は右手を出した。
「良いカップルだ。共に勝利を手にするがよい」
会長は俺たちの手に触れた。
その途端、襲い掛かる激痛。
「あ...あ」
真の痛みとは絶叫できないものだ。
俺は声が全く出なかった。
「終わりだ。君たちの契約及び登録は完了した」
僅か数十秒であったが、辛いものであった。
「知っているとは思うが、ルール説明をしよう」
「了解だ」
『恋愛大戦』
・選ばれし八組のカップルが”理想郷”を目指し合う戦い。
・理想郷に辿り着けるのは一組のみ
・主に彼女が「主人」。彼氏が「従者」
・「従者」には各クラスがあり
王 騎士×2 射手 魔術師
魂食い 盾 愚者
・「主人」にクラスは特に無いが、王の主人となる者は”女王”呼ばれている。
「ざっと、こんなところだ」
会長の驚くほど分かりやすかった。
他の教師も見習って欲しいものだ。
「ところで、中野剣一郎。君のクラスは騎士だ」
「そうか」
正直、王を引けなかったことが悔しいが、これも運命か。
「これで戦いが始まる。行くがよい」
「行くぞ、優」
「うん」
俺たちは扉を開け、部屋を出ようとした。
その時。
「君も両親のように勝ち抜けるかな、中野剣一郎」
ニヤニヤと俺に問いかけてきたが。
そんな問いにこう断言してやった。
「当たり前だ、俺は負けるわけにはいかん」
部屋を出て、扉を閉めた。
こうして、俺たちの戦いが始まる。
その先にあるのは理想郷か或いは...。
「剣くん!放課後、クレープ食べにいこ?」
地獄など考えぬ能天気な少女。
そんな彼女と過ごす僕。
「分かったよ、優」
戦いはすぐに始まるわけではない。
今はこの時を大切に過ごそう...。
これからも、永遠に。