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第六話「兄は力量を測りにやって来る」

非日常 二日目 夕日が眩しく輝く時間



「あの人は……一体、何処に……?」

 夕日に照らされながら、ふとした疑問を口にする康介。

 場所は街の東側に存在する建設途中のビルの中腹。

 剥き出しの鉄骨が未だ高い天を目指している中で、康介は辺りを見渡していた。


「ようこそ。ここなら多少は人目が付かない上に、綺麗な景色が見えると思ったもので」


「!」

 自分の背後から聞こえた声に対し、ゆっくりと振り返る。

 そこには、康介が追っていた男性が立っていた。

「貴方は……?」



 何故、康介はこんな所に居るのか?



「香奈は休み……かぁ……」

 双子に襲われた翌日。

 学校に向かった康介はすぐさま香奈に、「可笑しくなったこの街」と「双子」の事を相談しようと思っていた。

 しかし、いざ学校に行ってみると、香奈は休み。

 仕方がないので、学校が終わるまで大人しくしておき、帰りにお見舞いに行こうと考えたのだが……


「……え?」

 それはお見舞い用にフルーツでも買っていこうと駅周辺の商店街に寄った時の事だった。

 一人の男性が、康介の意思を引いた。


 ショートの黒髪に細い目。

 まるで閉じているかのような目だ。

 全身、主に黒っぽい服装に身を包んだ男性。

 康介は何故か、その男性が気になった。


 自分でも訳が分からないまま、男性の後を追った。

 男性は康介に気付かずに、街の東側に存在する、最も高く建設される予定のビルへと入っていった。

 建設途中なのだが、その高さは既に街一番になっており、完成後の展望台は絶景との噂がある。

 そんなビルの中へと入った男性。

 一体、何のために?

 康介は、そんな疑問を抱きながら、自分も後に続く。



 そうして男性を探している内に日が暮れ始め、冒頭へと話は戻る。





「あぁ。自己紹介が遅れました。私は「灰野 菊知」と申します。先日は、私の弟と妹がご迷惑をおかけしました」

 自己紹介と同時に、深く頭を下げる菊知と名乗る男性。

「弟と妹……って……貴方がまさか……「キィ兄」って人ですか……?」

 昨夜の双子の件を思い出し、身震いをしながらも、警戒態勢に入る。

「はい。いや、本当にすみませんでした。あの子たちは目的も告げずに、いきなり襲い掛かったようでして……兄としての躾が足りませんでした」

 右手で拳を作り、軽く額に当てながらも、再び謝罪の言葉を述べる。

「あ、いや……こ、こちらこそ……すみません……」

 別に康介に非は一切無いのだが、謝り続けられ、自分も何となく謝ってしまう。

「いえ、こちらの方に非がありますので……ところで」


よく見ると、本当に目を閉じてるなぁ……この人……


 と、康介は思った。

「あ、はい。何でしょうか」

 心中でそんな事を思っていたが、すぐに返事をする。


「何故、貴方が此処に誘われたか。ご理解出来ます?」


「あ……」

 

 そういえば、そうだ……

 俺は何で、この人を追って来てしまったのだろう……


「順に説明しましょう」

 菊知は手を軽く合わせ、話し始める。


「まずは昨夜の私の弟と妹の件から」

「双子は「貴方の力量を測る」ために、貴方に襲い掛かりました」

「えぇ!?」

 何故、何故に力量?

 と、思ったのだが、今の菊知は答えてくれない。

「その頼みごとをしたのは私です。命令ではないので、そこは間違えないように」

「は、はぁ……」

 それよりも聞きたい事はまだあるのだが……


「次に、貴方が私を追ってきた理由」

「それは……まぁ、過去の因縁でしょう」

「……過去の因縁……?」

 その一言で思い浮かぶのは……




あか

まっかなあか

あかあかあか

あかあかあかあか

あかあかあかあかあか

あかあかあかあかあかあか

あかあかあかあかあかあかあか



「うっ……」

 あまりに思い出したくない出来事に、康介の意識は途切れそうになる。

 右手で額を押さえる。


「大丈夫ですか? というか、その様子ですと、あの事件の肝心な部分は覚えていないようですが」

 心配そうに康介に近寄ろうとする菊知。

 そんな中、康介の頭の中では、先ほどの菊知の言葉に対しての思案が繰り広げられていた。




 肝心な部分……?

 何を言っているんだ。この人は。

 あの事件はあかいだけ。

 ただただ、あかが支配するだけ。

 ただ、あか……が……



 そこで康介の記憶が意思とは関係なく、再生される。




『おや……こ……は……』


 え……?


『……下さい……私……吸血鬼……』


 この声は……

 今、目の前に居る人と同じ……?




 康介の目付きが一瞬にして変わる。

 その変わった目は、菊知に対して向けられる。

 そこで菊知の声が聞こえた事で、康介の記憶は蘇る。


「思い出しましたか?」


「あっ……」


 思い出した……

 この人は……コイツは……

 コイツはコイツはコイツはコイツハコイツハコイツハ




「吸血鬼……!!」

 静かに呟いた程度の声。

 だが、菊知と康介しか居ないこの場所では、深く響いた。


「え? いや、私は……」

 そう言って、更に近寄ろうと菊知に対し、康介は後ずさる。



「くっ、来るなぁ……!! 来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 過去の事件。

 康介のトラウマ。

 あかいあかい。

 吸血鬼。


 康介の住んでいた街一つを消滅させた吸血鬼。

 自分の親戚の仇。

 ソイツが今、目 の 前 に 居 る。


 パニックになるのも当然。

 今の康介は泣き叫ぶ事しか出来ない子どもと同じである。

「あ、いや! 話を聞いて「来るなっ!! 吸血鬼め!! 来るなっ!!来るなぁぁ!!」

 菊知の話を聞こうともせずに、目尻に涙を溜めた康介は背を向けて走り出す。

「あ! そっちは!!」

 初めて感情的になった菊知の静止なども聞かずに、走る。


 だが、思い出して欲しい。

 此処は建設中のビルの中腹だ。

 当然、窓もなければ、壁もない。

 そんな場所で外に向かって走り出せば落ちるのは当たり前。


「あっ……」

 急に身体が軽くなる。

 足場がないのだから。


 ビルの外に出てしまった康介は、そのまま落ちる。

 地上から80m。

 そんな所から落ちれば、死は免れない。


「まっ……!!」

 咄嗟に、菊知が手を伸ばすが、届かない。

 いや、届いたとしても、康介はその手を払いのけたであろう。


 そのまま何も考えられないまま、康介は落ちていく。




 そこで康介は何か暖かいものに包まれた。






「康介ぇ!!」

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