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第五話「双子は楽しく、任務を遂行する」

非日常 記念すべき初夜



「ッ痛ぅぅ……最悪だよ……もう……」

 日中、ずっと調子の悪そうだった香奈と別れて、数分後。

 今日も、昨日と同じで襲われている。

 だが、相手は昨日の殺人鬼でなく、子ども二人。

 12歳くらいの男女二人組。

 その二人に襲撃され、死に掛かっている。


 俺、最近、悪い事でもしたかなぁ……


 ふと、昨夜襲撃された場所と全く同じ道を逃走しながら、そう考える康介。

 殴られた顔面を左手で軽く押さえながら。





 そんな康介の今日を振り返ってみる。



 香奈と別れ、自宅に帰った康介は学校の準備をし、登校。

 ついさっきまで、元気だった香奈は調子が悪そうだったが、空元気で誤魔化していた。

 昨夜の攻防が祟ったのだろうか、康介は学校を休むように言ったが、香奈は無理矢理登校する。

 仕方がないので、康介も香奈に付き添って登校。


 学校で変わらない日常を送った後、香奈を家まで送り届けて、別れる。

 そして、自宅へと向かっていたのだが……


 昨夜と全く同じ空き地で

 夜風が肌に凍みる場所で

 暗闇の中から、声をかけられた。

 二人の幼い男女の声で。




「「みーっけた!」」

「……はい?」

 最初は呆気に取られるばかり。

 暗闇が支配する時間帯にもなって、この場に相応しくない声が聞こえたため。

 そして、昨夜の殺人鬼と同じように、二人の男女が康介の前に姿を現す。



 猫をイメージしたような服装。

 フードには目を意識したようにボタンが二つ付けられている。

 更に耳まで。

 だが、サイズが合っておらず、二人ともブカブカの状態で着ている。

 男の子と思われる方は紅い瞳に青髪ショート。

 女の子と思われる方は蒼い瞳に赤髪ショート。

 ショートといっても、肩にかかる程度の長さだが。

 そして、何より目立つのが、二人の顔は瓜二つ。

 「双子」という点だ。


 そんな二人は楽しそうに、嬉しそうに、声を揃えて問う。


「「お兄ちゃんは『黒坂 康介』お兄ちゃんだよね?」」

「えっ……!? どうして俺の名前を……!?」

 昨夜に続き、驚愕を隠せない康介。

 やはり、非日常は驚愕が多い。

「そんなの簡単だよ!」

「“キィ兄”は物知りだもんねー! ね! 智樹!」

「そうだよね! 夢!」

 どうやら、男の子は「智樹」

 女の子は「夢」と名乗るらしい。

 二人は笑顔でお互いの顔を見合わせる。

「キィ兄……?」

 どうやら、その呼び方からして二人の兄であるようだが……

 さっぱり見当が付かない。


 何で、そのキィ兄って人が、俺の事を知ってるんだ……?


 考えたところで、答えなど出る訳ないのだが。


「だよね! そんなキィ兄の命令が!」

「康介お兄ちゃんの……えと……抹殺……だっけ?」

「うーんと……どうだっけ?」

「ハァ!?」

 物騒な事を言い出す双子を前に、康介は後ずさりを始める。


 昨夜もいきなり攻撃されたし……こんな子どもに見えても、吸血鬼かもしれない……


 双子に警戒し、即座に逃げ出そうとするが……

「あ! ダメだよ! 僕たちから逃げようなんて!」

「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメェ!!」

 そう叫び、双子が飛んだ。


 かと思ったら、既に康介の背後に回っていた。


「はっ……!?」

 咄嗟の判断で、前に軽く飛ぶ康介。

 お陰で、双子の蹴りをかわす事が出来た。

 これも香奈の力の一部を分けて貰ったためであろう。

「ありゃりゃ。避けられちゃったよ。夢」

「強いんだね! 康介お兄ちゃん!」

 満面の笑みで手を取り合って喜び合う二人。

 当の康介は冷や汗を掻きながら、恐怖に駆られる。


 やっぱり……この二人も吸血鬼だ……でも……どうやって逃げよう……

 昨夜は香奈が助けてくれたけど……


 一応、辺りを見渡してみるが、誰も来なさそうである。

「あれれー? 余所見はダメだよ!」

「そうだよ! 私たちも結構、強いんだからー!」

 そう聞こえた瞬間、智樹は夢を康介目掛けて投げてきた(・・・・・)

 先ほどまで、手を取り合って、グルグル回って喜んでいたのだが、それは智樹が夢を投げるための動作であったようだ。

「うわぁ!」

 咄嗟に顔の前で腕を交差して、防御態勢に移る康介。

 投げられた夢はそのまま、康介の腕に頭から直撃する。

「ぐっ……!」

 尋常でない痛みが熱さとなって、腕の筋肉と神経に伝わる。

 

 受け止められた夢は、空中で三回ほど空中サーカスに入れるんじゃないかと思うぐらいの回転をしながら地面に着地し、康介に足払いを繰り出す。

「えいっ!」

「わっ……!」

 その場に尻餅をついてしまった康介の上空から、高く飛んだ智樹が落ちてくる。

「いっきまーす!!」

「ッ……!!」

 すぐに身体捻じる事で、智樹の全体重をかけたプレスをかわす事に成功するが、そんな康介の目の前に笑顔の夢が立つ。

「ダメだよー? 敵は二人なんだから」

その笑顔のままで顔面を殴り、康介を吹き飛ばす。


 何も言えない激痛に襲われたまま、康介はコンクリートブロックに直撃する。

 均等を保っていたブロックは異端の攻撃に、糸も簡単に崩壊。

 辺り一面に砂埃が舞い、一時的に双子の視界を遮る。

「あれれ? もうお仕舞い?」

「んー……康介お兄ちゃんって、実は弱いの?」

 双子は嫌味など一切なく、純粋にそう思って、康介が居るであろう場所へと近づいていく。

 と、そこで二人の顔に“何か”が飛んでくる。

「おっとっと!」

「ふみゃあ!」

 咄嗟に軽い横っ飛びでかわす双子。

 同時に、飛んできた“何か”が何か判断する。

 それは“土”であった。


「外したっ……! けど、十分!」

 目潰しを外した康介は語尾を強調しながら言い、双子の間をすり抜け、住宅街へと続く道を走る。

「あぁ!!」

「逃げられたよ! 智樹!」

「お、追いかけないと! キィ兄に怒られる!」

「ふぇぇぇ! それは怖いよぉ!」

 すぐに康介の後を追う二人。

 だが、二人は走るのではなく、地面を蹴り、飛んでいくように追い始めた。






 そして、冒頭に戻る。





「えっ……?」

 気が付けば駅の側までやって来てしまっていた。

 康介の正面には駅があり、そのサイドにはカラオケ店などの娯楽施設がある。

 普段は、この時間でも人で溢れているのだが、今日は人っ子一人居ない。


 これだ……俺が、最近、この街が可笑しいと思った理由……


 人が一人も居ない。

 思えば、昨夜の殺人鬼との戦闘中も、誰も出てこなかった。

 あれだけ煩かったにも関らず。

 これはもはや「可笑しい」といえるだろう。

 しかし、今の康介には、そんな事を考えている暇は与えられなかった。


「追いついたよぉ!」

「覚悟してね!」

 康介を飛び越え、前方に双子が着地する。

「うっ……」

 またも後ずさる康介。

「これもキィ兄の命令だから!」

「もっかい言うね! 覚悟してね!」

 有無を言わさず、双子が飛び掛ってくる。

「くそっ……!」

 追い詰められた康介はヤケになり、気は引けるが、双子に向かって拳を突き出す。

 しかし、そんな単純な攻撃が当たる訳もなく、虚しく空を切るばかり。

 康介の腕をすり抜けた二人は、互いに蹴りを繰り出す。

「てぇい!」

「うりゃあ!」

「ッ!!」

 反射的に康介は目を瞑ってしまった。

 すぐに、あの激痛が来ると分かっていたため。

 そして、強い衝撃が康介を襲う。


 だが、いつまで経っても、思っていた激痛は来ない。

 痛みは来ることには来た。

 しかし、腹部ではなく、左腕にだ。

 訳が分からない。

 そう思った康介が目を開けると……


「あ……あれれれれれ……?」

「や、やっぱり康介お兄ちゃん……強いの……?」

 今度は双子が驚いていた。

 が、その原因を見るなり、康介本人も驚いた。


 何故なら、双子の蹴りを左腕一本で防いでいたためだ。


「えぇぇぇぇええぇぇぇ!?」

「うひゃあ!?」

「ひゅい!?」

 康介の驚きの叫びに、双子は驚きつつ康介から距離を取る。

「え? え? え? 何で? どうして?」

 本人も理解出来ていない反射的行動。


「まぅ……知樹ぃ〜。康介お兄ちゃん。どうしたの?」

「えと……僕にもわかんないけど……やっぱり康介お兄ちゃんは強いんだよ!」

「あ、そっか! そうだね! 強いんだね!……って、あぁ!!」

 頭を両手で抱え、重大な事を思い出した様子の夢。

「ど、どうしたの!? 夢!」

「お、思い出したよ! 私たちの目的!」

「え? ほ、本当!?」

「うん! えっとね……ゴニョゴニョシカジカパラリラパラリラ……」

「あ〜……あ、うん……あぁ! そうだったね!」

 夢は智樹の耳に近づいて、何かを話し、智樹はそれに対して、相槌を打つ。

 そんな光景を、平常心を取り戻した康介は見つめる事しか出来なかった。


「よぉし! じゃあ!」

「うん! もっかい! だね!」

 康介に振り向き直り、双子は再び、蹴りかかる。

「ま、またぁ!?」

 これまた、康介は先ほどと全く同じ様に、腕を交差して防御態勢に移る。

 しかし、今回は、智樹は途中で着地し、低空飛行で夢の後を追うように飛ぶ。

「なっ……!?」

 いわゆるフェイント。

 完全に引っかかった康介。

 時、既に遅し。


 夢はそのまま蹴りの態勢で飛んでくる。

 智樹は右手に拳を作って、低空飛行で飛んでくる。

 夢の攻撃は防げるが、智樹の攻撃は直撃する。

 またも窮地に追いやられた康介の行動は、本人すら予測していなかった行動だった。


 腕のクロスを解き、左手一本で夢を受け止める。

「ふぇえぇぇぇ!?」

 続いて、中腰になり、右腕で知樹も受け止める。

「みゃああぁぁ!?」

 そのまま、何もせずに二人を放す。

 足を掴まれていた夢は、見事に着地し、智樹と共に、再び距離を取る。


「……す、凄いね! ね! ね!? 智樹!」

「本当! 凄いよ! 康介お兄ちゃん!!」

 双子は最初の時よりも、喜び合いながら騒ぎ立てる。

 だが、先ほどは、それで油断して顔面を殴られた康介は警戒態勢のままだ。

 内心は、またも無意識で行動した自分自身に驚いているのだが。

「じゃあ、ぼく達はこれで!」

「うん! またね〜! 康介お兄ちゃん!」

「「バイバイ!」」

 そう言うと、双子は何処かへと飛び去ってしまった。


「あ……へ?」

 一人残された康介は唖然に取られる。

「一体、何だったんだろう……」

 誰も居ない駅前で一人佇む康介。

「寒い……とりあえず帰ろう……」


 この事は、香奈にも言っておかないと……

 あ、街の事も言っておかないと……


 そう思いながら。

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