第一話「主人公の日常は唐突に崩壊する」
「黒坂 康介」
性格は温暖で優しい。
だが、一人称は「俺」
両親は現在、長期海外旅行で居ない。
幼少期に親戚宅に預けられる。
定期的に口座に金は振り込まれている。
幼少時に起こった事故で「血、殺人」にトラウマあり。
また、その事故で預けられていた親戚宅から隣町から引越し。
元々、住んでいた家に現在、住んでいる。
現在は一人暮らし。
幼馴染に「夢野 香奈」という人物が居る。
「夢野 香奈」
性格は温厚で優しい人物。
大企業製薬会社「ユメノ」の社長の一人娘。
現在は社会を知るという意味で、親は本社のある街に移動。
この街で一人暮らし中。
どうしても困った時にのみ、親の力を借りるようにしている。
幼少期に越してきた「黒坂 康介」と出会い、信頼関係を深める。
未定。不定。未確認。情報未だ集まらず。
視認しか出来ない。当然だ。
記憶は見られない。そうそう便利ではない。
仕方がない。集めよう。情報を。効かない理由を探るために。
日常の朝
あえて言うけど
最近、何か、この街は可笑しいと思う
この「小之宵街」は
別に、俺の頭が狂っている訳じゃないけど
何処か「変」なんだ
何処か判らないけど・・・
「あ! 康介〜!」
明るい声が朝の坂道に響く。
茶髪でロングヘアーの美少女が息を切らしながら駆けてくる。
平均的な体つき故に、とある一部分が異常に揺れたりはしない。
騒がしい……騒がしいよ。香奈……
「はぁ……はぁ……なんか、最近……はぁ……はぁ……いつもより……はぁ……疲れるね……」
息切れするくらいなら、走らなければ良いのに……
「夢野 香奈」という名の美少女は肩で息をしながら、目の前の男「黒坂 康介」に対して顔を上げ、笑みを向ける。
学校指定の制服を着ている彼女はとても可愛らしく、クラスでも男女ともに評判が良い。
「おはよう! 康介!」
「あぁ。おはよう」
元気一杯の挨拶だが、香奈の顔には、何処か疲れが見て取れる。
「大丈夫? 何か、いつもより疲れているみたいだけど……」
不安に思った康介は、心配の意味合いで、そう尋ねる。
香奈の表情は笑顔で埋め尽くされているが、その奥に潜んでいる「疲れ」を幼馴染である「康介」は見逃さない。
「え? あ……バレちゃった? 最近、何か調子悪いんだ……」
笑みを崩し、少し青ざめた表情に戻った香奈は、そう告げる。
「無理しちゃダメだよ? 学校でも調子悪かったら、言ってよ」
香奈の幼馴染でもある康介は、下心一切無く、言う。
その言葉に香奈は感謝しつつも、「平気」という意味合いの返事をする。
「だ、大丈夫だよ。このくらいなら」
“元気”であると、笑顔を再び顔に宿す。
だが、その表情はやはり辛そうな様にも捉えられる。
「むぅ……香奈がそう言うなら良いけど……」
康介は渋々と香奈の空元気に付き合いながら、自分達の通う高校へと向かう。
朝の日差しは二人を照らし、晴天は二人を見守る。
風は寒くない程に吹く。
雀は仕事の様に、朝のBGMの様に鳴く。
日常の放課後
「それじゃあね〜」
一日中、ダルそうだった香奈を見送りつつ、康介はお互いの家へと続く分かれ道で香奈と別れ、自宅への道を歩む。
そんな康介の表情には不安が覗える。
「本当に大丈夫かな……香奈の奴。今日は一日中、ダルそうだったけど……」
そんな独り言を呟きつつ、西側に広がる森に隠れつつある夕日を見て、寒くなりそうと感じた康介は早々に自宅へと足を向ける。
駅を挟んで、東側に存在する住宅街への道を通って。
「しかし……見れば見るほどに不思議な街だよねぇ……」
ふと、疑問に思った事を口に出してみる。
あまりに自然過ぎて気にも止め無い事だが、この「小之宵街」は実に不思議な作りになっている街だ。
駅を挟んで東側には高層ビルや住宅街が並ぶ。
反対の西側には、森が生い茂っている。
西側の駅近くには商店街が立ち並んでおり、娯楽施設なども全て揃っている。
“人間の欲望”と“自然”をすべて凝縮したような作りの街である。
だが、この街に住む者は、そんな事は疑問にすら思わない。
それが“常識”だからだ。
それは人間が酸素を吸って生きているという常識と同一化されている。
だから、この街の作りを疑問に思うのは中学生時に哲学的な事を考え始めた時。
唐突にこの街の作りを不自然に思った時。
後は、引っ越して来た人がそう思うくらいである。
康介の場合は、唐突に思いついただけである。
唐突ゆえに、すぐにどうでも良くなり、考えるのをやめる。
「まっ、どうでも良いか……」
そこから十数分後
「おぅ……? 一体、どうなってるんだ……これは?」
後ろに飛び、赤錆びた鉄骨を左手に持った男が呟く。
右手は鉄骨を左腕で投げた際に捲くれてしまった裾を直している。
そんな男の対角線上には、険しい表情をした香奈が震えている康介を庇う様に立っている。
足腰は震え、朝に会った時の様に息も切らしている。
「あぁ……。これが噂のアレか。“助けられてしまうフラグ”か。あ〜……最初は俺の一方的な虐殺かと思いきや。何、ソイツは主人公とでも言うのか? それで、庇うお前はメインヒロインとかか? おぉ……何だ、これは。自分で言ってて、わくわくしてきたぞ……! む……? だが待て……この場合だと、俺は“かませ”という事か? 主人公、もしくはメインヒロインの力を見せ付けるためだけの。おぉ……そいつは腹が立つ。あぁ! そうだとも! イラつくとも! 俺は一話だけ登場のかませなのか! ナゥー! そいつは神が許しても俺が許さない!」
やたらとハイテンションな男は独り言を叫び続ける。
その間も腕をやたらと空中で振り回すために、先ほど、せっかく直した裾が、また捲くれてしまう。
「か、香奈……!?」
驚愕と恐怖に脳内を支配されている康介が叫ぶ。
香奈は首だけを康介に向け、静かに「逃げて……康介……!」とだけ言うが、パニックなっている康介には聞こえない。
「待て待て。簡単じゃないか。こーゆー場合の俺の助かる方法は二つ。一つは“逃げる”もう一つは……主人公を殺害するという事だな!!」
男は動きまわしていた腕を止め、左手で持っている鉄骨を思いっきり投げつけるモーションに入る。
そして、言葉通りに思いっきり赤錆びた鉄骨をぶん投げる。
鉄骨は素直に、香奈の後ろで泣きそうになっている康介の顔面目掛けて飛ぶ……のだが、それを、表情が一瞬だけ冷徹になった香奈が素手で叩き落す。
「!?」
「おおぅ」
康介と男、全く違った反応を見せる中、辛そうな表情へと香奈が戻っていく。
「確かに確かに確かに確かに確かに確かに……やっぱりこうなるのか? そうであろう。こんな場面に出てくるメインヒロイン故に。只者の訳ないな。さっきの一撃を弾き返されたのも、こーゆー訳であったのか」
喜々とした男は近くにあった鉄骨を、左手でひょいと持ち上げる。
それこそ、赤ん坊が積み木を軽々と持ち上げるぐらい簡単に。
香奈は、その行動を見て、目つきを鋭くして、叩き落した鉄骨を両手で拾い上げる。
「も、もう……訳が分からないよ……!」
驚愕のみが続く康介の脳内は、完璧に混乱していた。
誰が予測出来ようか。
康介の未来を。
香奈の未来を。
未だ見えぬ登場人物たちを。
彼らはまだ知らない。
自分たちの“日常”が壊れていくのを。
狂気はゆっくりと浸透してしまった。
既に遅い。




